3話―④『九つ竜』

 召喚獣は契約さえしてしまえば、その後喚び出すのは簡単だと聞く。つまり契約さえしてしまえば、ほぼ手に入れたも同然だ。

 よって、俺が召喚し、藍崎が契約すればいい。



「頭いいなー! さすがだぜ!」

「契約出来るかは別の話だけどな」

「絶対してみせるよ!」



 放課後、再び中庭にやって来た。相変わらず雲行きは怪しい。さっさと終わらせてしまおう。

 魔方陣は藍崎が今朝描いたものを使う。俺は呪文書を芝生に置き、魔方陣の前に立った。



「あっ! 神空君だー! やっほー!」



 校舎の窓から、こちらに手を振る男子がいる。紫色の髪だったので無視をした。

 俺は深呼吸をし、両方の手のひらを魔方陣へ向けた。左手には魔導石が握られている。そしてそのまま、呪文を唱え始めた。



「神空君ー! 無視しないでよー!」



 紫乃の叫び声をバックに、呪文の詠唱を続ける。魔方陣はだんだんと光を放ち始めた。



「『プロスクリシィ』!」



 最後にそう叫ぶと、魔方陣から辺りに光が放たれ、突風が吹いた。腕で顔を覆う―――どうやら成功したらしい。



「すっげぇ……! すげぇよ神空!」



 背後の藍崎は、興奮気味に叫んだ。

 むしろ本番はここからだろう。お前が契約出来なかったら何の意味も無いんだぞ。

ここまできて、少し不安になってきた。本当にこいつに契約出来るのだろうか。

 やがて光が消えていく。風も収まってきた。辺りが一気に暗くなる。



「うわっ………!」

「マジか……」



 ――――――予想以上だった。目の前にいたのは、四階建て校舎をも優に越す、巨大な蛇………いや、竜か? 巨体は黄色く、翼も生えていた。


 何より驚くのは、首の数・・・

 それには、首が九つ・・もあったのだ。



「これがヒュドラ……!」



 藍崎が感嘆の声を出す。

 こいつが召喚獣にしたかった魔獣。それこそがこの、九つ首を持つ大蛇もとい飛竜『ヒュドラ』だった。

 しかし、予想外に大きい。呪文書によると、もっと小さいはずだったんだが……まあいいか。



「じゃあ上手くやれよ」

「任せろ!」



 藍崎が意気揚々とヒュドラへ駆けていく。ヒュドラも気付き、青い目を藍崎に向けた。九つの視線があいつに集中する。



「ギュオオオオオオオオオオッ!」



 ヒュドラは鳴いた。それだけで衝撃が伝わってきた。ヒュドラは口に魔力を溜め始めた。それは赤かったり黄色だったり、首によって様々な色の球だった。



「くるぞッ!」

「ッ―――」



 叫んだ直後、ヒュドラがそれを放ってきた。俺は背後へと跳躍しながら呪文を唱える。轟音と共に、中庭が爆発した。魔法で結界を作り出したおかげで、爆風に飲み込まれることはなかった。

 着地し、すぐに藍崎を探す。しかし煙が濃く、すぐには見つからなかった。



「藍崎ッ! 大丈夫かッ⁈」



 返事はない。直撃はしてないと思うが……吹っ飛ばされたか?



「何あれ……⁈」

「もしかしてヒュドラ⁈」

「誰が喚んだんだよ⁈」



 辺りが騒がしくなる。校舎の窓から、たくさんの生徒がヒュドラを眺めていた。

 馬鹿か……! そんなことしたら標的にされるだろうが!



「ギュオオオオオオオオオオッ!」



 ヒュドラが飛んだ。強風が吹く。真っ黒い雲の下、再びヒュドラは魔力を口に溜め始めた。しかし今度は、全て黄色い球だった。

 黄色……? いや、それよりもまさかあいつ……校舎に……!



「マズイ……!」



 そう思って駆け出した時には、既に遅かった。ヒュドラは九つの球を、空へと放った・・・・・・。思わず唖然としてしまった。



 ――――――何故、空に?

 一体何が、起こるんだ―――。





 ―――――――――ドォオオオオオオオオンッ





 一筋の稲妻が、校舎に落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る