8芋 下着選びは妹との最大のスキンシップ
「兄さん、付き合ってください!」
休みの日の朝、部屋に入ってくるなり、凛が詰め寄ってきた。
「付き合うなんて、無理に決まってるだろ?」
「なんでですか!」
「俺とお前は兄妹だからだ」
陽がそう答えると、凛は何言ってるの?という顔をする。
「兄さん、何か勘違いしていませんか?」
「勘違い?」
「はい。私が言っているのは、用事に付き合って欲しいということですよ?」
「……」
なるほど、そういうことか。
陽は、そう心の中で呟いた後、爽やかな笑みで返した。
「ははっ、そういうことならOKだぜ」(キリッ)
「兄さん、今誤魔化しましたね?!爽やかな笑みで勘違いをもみ消そうとしましたね?!」
「そんなことはないさ」(キリッ)
「あぁ///大好きな兄さんにそんな顔向けられると……」
「さっきのことはわすれよう……な?」(キリッ)
「わすれましゅぅ…///」
事実の
「で、何に付き合って欲しいんだ?」
「私の下着選びに……」
「一人で行ってこい!」
「嫌です!兄さんに選んでもらいたいんです!『ほら、これなんか似合うんじゃないか?』『えぇ〜そんな大胆なのは……』『俺はお前にこれを着て欲しいんだ』『わ、わかりましたぁ///』なんて……ウヘヘ……」
実妹がなにやら、イケナイ妄想に浸っているらしい。だから陽は、できるだけ無感情に、冷たい声で言った。
「お前の妄想は、永遠に叶うことは無いな」
「なんでですかぁ〜!兄さんと私はいつか結ばれる運命なんですよ!」
妄想癖のある実妹が赤面かわいい。
「いくら金で世界を動かせると言っても、俺の心までは動かせないだろ?だから、お前の思いどおりにはならない」
陽がそう言うと、凛は珍しく真剣な顔をして。
「私は元々、兄さんの心をお金で買うつもりはありません。お金で買えるなら、買いたい。そうは思っていますが、兄さんがお金で作った偽物の魅力に惑わされるほど、ヤワな男性ではないことを私がいちばんよく知っていますから」
そして、凛はほんのりと赤く染めた顔を笑顔に変えて、満面の笑みで言った。
「そんな素敵な兄さんだからこそ、私は惹かれたのですから」
なんだかグラッときた気がした。
きっと気がしただけだ。
でも、確かに、その凜の一言に俺の心が揺れた。
先日の夜這いから、凛のことをほかの2人よりも意識する回数が増えているような気がする。
(こいつは実妹だ、血の繋がってる妹に対してこんな感情は絶対にダメだ……!)
陽は心の中で目覚めようとしている悪魔を必死に押さえ込んで、なんとか鎮める。
こんな不安定な感情で下着を買うのに付き合うなんて、どうなるか分からない。
やっぱりなんとか言って諦めさせよう。
「凛、悪いが今日は一人で行って……」
「付き合ってくれないなら、突き合って頂きましょうかね」
「行かせていただきます!」
即答だ。実妹がこれ以上悪ノリしないうちに、さっさと済ませて帰ってこよう。
そう、これは仕方ないのだ。
凛の暴走を防ぐため、仕方ない。
決して、下着姿が見たいとか、そういうのではない、決して。
「あれ、お兄、凛ちゃん、どこか行くの?」
さあ出かけようと玄関を出た瞬間、ちょうど朝のランニング帰ってきた夏とばったり会った。
かなり走ってきたのか、かなり汗をかいていて、薄地のシャツとズボンが体のラインをなぞっている。
なんとも悩ましい姿だ。
「兄さんと一緒に下着を買いに行くんです!私のブラと、それと兄さんのパンツですね♪」
「おい、後者の話は聞いてないぞ」
唐突な自分の下着の話に、つい反射的に突っ込んでしまう。
「私の胸が成長するように、兄さんの股間部分についている立派なものも、成長するんですよね?なら、パンツも一回り大きいものに……」
「お前らの胸と違って、男のコレはそんな成長しないわ!」
「ですが、巨大化した時にはみ出てしまっては行けないですよね?」
「確かにそうだよ!大きいのを買っといた方がいいよ、お兄!」
凛に便乗して、夏までそんなことを言い始めた。
こいつらは一体、男のコレについて、どんなものを想像しているのだろう。
ていうか、巨大化っていうなよ。
なんか面白そうじゃねぇか。
コレは面白いもんでもなんでもなくて、ただ単に男の内なる何かの象徴なんだよ。
そんなことを心の中で唱えながら、ため息をつく。
「そんな心配を女子高校生がしなくていいだろ?男のパンツは女のと違って、ゆったりしてるんだよ。だから、はみ出るなんてことはまずない。だから安心しろ」
陽がそう言うと、2人はなにやら意味深な視線を向ける。
「な、なんだよ」
「なぜ兄さんがそんなことを知っているのですか…?まさか……」
「なぜお兄が女の子の下着について詳しいの?まさか……」
2人の生唾を飲み込む音が聞こえてきた気がした。
「「お兄(兄さん)、私たちのパンツを観察してたんだ(ですね)!」」
「……は?」
2人があまりにも馬鹿なことを言うので、一瞬、陽の思考が停止した。
でも、よく考えてみると、なんでそんなこと知ってるんだろうな。
男というものは、いろんな場所から知識を仕入れるから、意識していないところで知ったのかもな。
男はそういうものだから、別になんにもおかしいことじゃない。
おかしいことではないのだけれど、その常識は男専用のもののようで……。
「兄さん、まさか誰かとそういうことしたんですか!?だから知ってたんですね?」
世界の終わりのような表情で崩れ落ちる凛。
「お兄が…私のお兄が……誰かに奪われていたなんて……」
虚ろな目で空を見上げる夏。
俺はお前のになったつもりは無いぞ。
やはり、男の常識は、女には理解し難いものであるらしい。
これは、誤解をとくのに時間がかかりそうだ。
15分後。
「だから、男はそういうことを知ってるもんなんだよ!わかってくれたか?」
「はい、よく分かりました!」
「うん、分かりやすかった!」
これでなんとか、誤解は溶けたようだ。
「この知識を使えば兄さんを落とせるかもしれませんね……ふふふ……」
「凛ちゃん、私も負けないよ……ふふふ……」
よからぬ知識、よからぬ者に教えるべからず。
この言葉を心に刻んだ日だった。
「これとこれ、どっちが似合いますか?」
「知らねぇよ……」
目の前で実妹が、2着のパンツを見比べている光景に、心が体を離れたがっている。
「兄さんと行為に至るときの勝負下着になるかもしれないんですから、ちゃんと選んでください!」
「そんなことになることは無いから安心しろ!」
「兄さんは頑固です!」
かわいくほっぺを膨らませて、凛は店の奥に消えた。
凛は確か、ブラを買うって言ってたはずなんだけどな。なんでパンツを選んでいるのかは謎だ。
パンツはパンツなのだから、『あ、このパンツいいわね〜』なんて流れで買うものでもないと思うのだが……。
「陽、どっちがいい?」
「どっちでも……っておい雪乃……」
「なに、陽」
陽は、雪乃の掲げる2枚のパンツを見て、そして雪乃の顔を見た。
雪乃は真剣な顔をしている。
これはボケではないのだろうか。
左手に持ったパンツが明らかに子供用だ……。
オマケにくまちゃんパンツだ。
もう一方は大人びた真っ赤なパンツ。
義妹の精神年齢が不安定すぎる。
「どうしたの、陽?疲れたの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
義妹の持っているパンツが、明らかにサイズが小さすぎるなんて……言えない。
陽は飛び出そうになる言葉を押さえ込んで、無理やり笑顔を作る。
「なんでもない。いいのが見つかったなら買ってこいよ」
「でも、どっちがいいかわからない」
どっちも良くないんだけどな……。
心の声が抑えられなくなる前に、雪乃をレジへ行かせなければならない。
さもなけへば、義妹にパンツの指摘という行為をしてしまう。それは、男として、兄として、避けねばならない道。
「お前なら、どんなのでも似合うぞ」
「ほんと?じゃあこっちのくまちゃんパンツに……」
「せめて赤いのにしてください」
「陽、そんなにセクシーなのがいいの?分かった、赤いのを買ってくる」
雪乃はそう言うと、赤いパンツと、くまちゃんパンツをカゴに入れた。
いや、そっちも買うんかいというツッコミは抑えて、陽は夏を探す。
さっきから見当たらないのだが。
「お兄!どっちがいいかな?」
「お前もか……って、なんだよそれ!」
声の方向に目線を向けると、試着室のカーテンを開けてこちらを見る下着姿の夏がいた。
「これ……結構きついかも……」
たわわな夏の胸が潰されてしまうほど小さな下着をみにつけている。
「夏ちゃん、サイズおかしいよ」
「お前が言うな」
夏も、絶対に雪乃には言われたくないと思う。
お前もサイズを見直してこい。
意味がわかっていないのか、小首を傾げている雪乃があざとかわいい。
「とにかく、2人とも、ちゃんとしたサイズの下着を買ってくれ……」
「くまさんはだめか……」
雪乃はやけにしょんぼりした様子で、くまさんパンツを子供下着コーナーに返してきた。
そして代わりに商品名『ツキノワグマさんパンツ』をカゴに入れてきた。
サイズは女子高生も履けるくらいのやつだ。
いや、サイズはいいけどくまさんパンツじゃねぇか!というツッコミは、もう飽きたのでやめておいた。
「よし、夏も……」
「これ、最大サイズなんだけど……」
溢れんばかりの胸の大きさに気を取られていた。
だから、陽は気づかなかった。
彼女の身につけている下着が、周りのどれよりも大きいということに。
「申し訳ありません、これ以上大きなサイズは当店では取り扱っておらず……」
店員さんにそう頭を下げられて、夏の方が申し訳なさそうにしている。
まあ、胸の大きさは調整できないもんな。
夏はなんにも悪くない。
それにしてもちゃんとした店員さんだなぁ。
そう思って店員さんの顔を見てみると、頬がひくついていた。
見たところ、店員さんの胸は物寂しいらしい。
そりゃ、夏みたいなでかいのが現れて、サイズがない事まで伝えなければならないとなると、こんな顔にもなるだろう。
陽は、なぜか申し訳ない気持ちになった。
「どうすればいいのかな……」
夏は割と、真剣に悩んでいるらしい。
ほとんど毎日顔を合わせているからあまり気づかなかったけど、夏の胸はこの短期間で一回り大きくなっているらしい。
それに伴って下着のサイズも一回り大きく……することが出来ない、サイズがないという状態だ。
おまけに今持っているブラですらサイズが合わず、はち切れんばかりというのを通り越して、本当に千切れたらしい。
このままでは、我が
というか今はどうなのだろう。
持っていたのが千切れたなら、今もノーブラなのではないか。
それは極めて危険だ。
思春期真っ盛りの男子達は、彼女のその姿を見てきっと、よからぬ事を企むだろう。
兄として、それは避けなければならない事態だ。
だから、陽はこの言葉を送る。
「夏、サラシを巻こうか」
「さ、サラシ!?それってあのグルグルの……?」
陽は大きく頷く。
「えぇ!?や、やだよぉ……だってあれ、苦しいらしいし……」
夏によると、サラシを巻いている同級生がいるらしい。一度どんな人なのか、会ってみたい。
どことなくサラシは強そうというイメージがあるのだ。
「でもな、お兄ちゃんは夏の色んなところが透けて見えてしまうのに耐えられないんだ」
「す、透け……?」
「そうだ、スケスケだ」
「でも、サラシは無いよ!女の子っぽくないし……そんなんじゃ、変に見られちゃうし……」
「バレないようにしていればいいんじゃないか?そのサラシの同級生もいることだし……」
「お兄ちゃんに変に見られるかもしれないから嫌なんだよ!」
「俺は変だとは思わないぞ?」
そもそもこれは陽の提案だ。変に思うはずがない。
「ほんと……?」
若干涙目の夏が、若干の上目遣いで聞いてくる。
この目を見れば、どんな大罪人だって嘘をつけないだろう。
「本当だ、どんな格好でも夏は夏。俺のかわいい妹だ」
夏は笑顔で陽に抱きつく。
「じゃあ、サラシ巻くね!」
「おう!」
夏が小声で「かわいい奥様の方がいいんだけど」と言っていたのは聞かなかったことにしよう。
そう思いながら、優しく夏を抱きしめる陽だった。
「あ、オーダーメイドもあるんですか」
「はい!サイズとしては取り揃えておりませんが、オーダーメイドならサイズとして作れると思いますよ?」
「あ、じゃあお願いします」
「かしこまりました!では夏さん、こちらへ」
店員さんに連れられて、夏が試着室の中へ消えていった。バストのサイズを測るらしい。
陽と凛、それと雪乃は試着室前の椅子に並んで座る。もちろん陽が真ん中になる。
「オーダーメイドがあるなら早く言ってくれればよかったのにな」
「そうですね、サラシトークで盛り上がっていたというのに」
「夏ちゃんもやる気になってたのに、残念」
陽も実のところ、あの夏の大きなものがサラシに包まれているところに興味はあった。
だが、店員さんの一言でその夢は崩れ去ったのだ。
「オーダーメイドがありますよ」と。
「まあ、従妹のスケスケが回避出来ただけ、マシだと言うことにしておくか」
「そうですね、なんなら無理やりサラシを巻かせることも考えていましたが……」
「それはやめてやれ。無理やりサラシって聞いたことないぞ」
「サラシは他言するようなものではありませんからね」
「正論で返すなって」
そうなると、夏のサラシの同級生とやらは他言したことになるが、人様の事情に口出しするのもと思ったのでそれ以上は踏み込まなかった。
そんなやり取りをして待つこと数分。
カーテンの向こうから声が聞こえてきた。
「では、始めますね」
「は、はい!」
店員さんの声と、緊張しているのか若干食い気味な夏の声。
「では、下から……」
「んっ……あっ……だ、だめ……」
夏のやたら艶かしい声が聞こえてくる。
「なあ、凛、雪乃」
「なんですか?」「なに?」
「俺は男だから経験はないが、バストを測る時って、こんな声を出すものなのか?」
「私はあまり出しませんね」
「あまりって、少しは出すのかよ」
「まあ、くすぐったいですからね」
「そういうものか?雪乃は?」
「陽は、私が測ったことあると思うの?」
雪乃はぺっちゃんこな胸を撫でなから言う。
どうやら、地雷を踏んでしまったらしい。
おい凛、どこか勝ち誇ったような顔をするな。
お前も結構ぺっちゃんこな方だぞ。
「雪乃、ごめん……」
「謝らないで、余計寂しくなる。私にもあんな胸があれば、陽に抱かれない夜も少しはマシに……」ハァハァ
「勝手な妄想で興奮しないでくれるかな?」
陽は変態ぺっちゃんこ義妹にため息をつく。
「そうですよ!兄さんは私のものですから、勝手な想像に巻き込まないでください」
「お前のものになったつもりは無い」(ズクシッ)
「あふんっ♡」
今の一撃はなかなか良かったな。
そう自画自賛する陽、額を抑えて悩ましい声を出しながら悶える凛。
そして、それを見て息を荒くしている雪乃。
兄は我が妹達の将来が心配だ。
ところで、学校でバストを図ることはないのだろか。男にはよくわからない話だな。
陽はそう思いながら、またため息をつく。
カーテンの向こうの艶かしい声が聞こえなくなった。
「では、こちらでよろしいですね?」
「はい!」
カーテンが開かれて、夏が出てきた。
「おまたせ!」
「どうだったんだ?」
「んー、ちゃんと作れるらしいよ?三日後には出来るって」
「三日後か……」
もう一度繰り替えそう。
夏は今、おそらくノーブラだ。
そして、ブラの届くまでの三日間もノーブラだ。
それは極めて危険だ。
ノーブラで汗だくの制服なんてものになってみろ。
思春期真っ盛りの男子生徒は、そのたわわなふたつのものに飛びついてしまうだろう。
陽も内心飛びつきたい。
でも、夏の純粋な目を見る度に、そんな悪しき心が浄化されていく。
おかげで何とか平静を保てているが、こんなのが家にずっと居たら、いくら妹といえど、どこか意識してしまう。
なので、俺は決意した。
この三日間は夏を家に出禁にしよう。
彼女の貞操のためだ、我慢してくれ。
陽はそう心の中で呟きながら、レジに向かう夏の背中を見つめた。
その後に続いて雪乃と、紫色のパンツを持った凛がレジに向かう。
「ついでに他2人もしばらく出禁にするか」
くまちゃんパンツの義妹と紫パンツの実妹、想像するだけでいろんな意味でまずいだろう。
特に凛の方は完全に狙ってきている。
反省の意味も込めての出禁だ。
くまちゃんパンツは……自分でその幼い間違いに気づいてくれ、頼む。
「では、次は兄さんの下着を調達しに行きましょう!」
「俺のは別にいいって言っただろ?それに下着くらい自分で選ぶ」
「いいえ、兄の下着を選ぶのも妹の役目です!」
「そんな役目は聞いたことがないぞ」
「ええ、そのはずです。これは全国の妹が秘密裏に取り決めた法律、通称
「わざわざ言い直した意味はあるのか?」
「いえ、特には」
「そ、そうか……」
この実妹は疲れているらしい。
いつもの3倍ほど馬鹿なことを言っている。
なんだよZSHって、なんか強そうだな。
「それに私たちが選べば、兄さんのパンツの色を把握することが出来ますからね」(小声)
「そうだね、そうすればパンツの色を揃えることだってできる」(小声)
「パンツの色をばらすと言って脅して、そのまま行為に及ぶこともできる」(小声)
「やめとけ」(ビシッ!ズクシッ!ゴンッ!)
「あぅ♡」「あふんっ♡」「ぶへっ?!」
「もお、兄さんは照れ屋さんなんですから……」
「冗談だったのにぃ」
「ねえ、陽!?私のだけ悪意を感じたんだけど……」
「俺は照れてもないし冗談には聞こえなかったが?」
「そんなわけないじゃないですか〜」
「だよね〜」
「え、無視?陽、私にだけ厳しくない!?」
「まあ、俺はこのパンツでいいや」
「えぇ……私、もしかして存在してない……?」
雪乃が自分を見失いそうになっているのを横目に、白のブリーフを手に取ってレジに向かう。
「兄さんは無難なのを選びますね」
「もう少し攻めてもいいんじゃないかな?」
「何に攻めるんだよ。別に下着なんてこんなものだろ」
「兄さんは分かってませんね、女心ってやつを」
「お前にそんなものあったのか?」
「あ、ありますよ!これでも一応女の子ですよ!?」
一応なんだな……。
「女の子ってのは、行為に及ぶ時の男性の下着にも着目するんです」
夏も隣でうんうんと頷いているからそういうものなのだろうか。
いや、うちの妹達は正直、常識という言葉とはかけ離れている。
このふたりの言葉は信じるに値するのか、これは地道な協議が必要になりそうだ。
ちなみに、雪乃はその2人の後ろで椅子に深く腰掛けて頭を抱えている。
さすがにからかいすぎたか……。
ごめんな、雪乃。
そう心の中だけで謝る陽。
レジにお金を払おうとすると、もう1枚のパンツがレジに置かれた。
「陽がこの前欲しいって言ってたの、見つけたよ」
そこに置かれたのは、男の子用のくまさんパンツだった。
「ほしい、はいてみたいって言ってたもんね?」
そう言う雪乃の顔は、意地悪な笑顔を浮かべていた。
それを聞いた店員さんも、わざとらしい咳をしたり、そっぽを向いたり、笑いを堪えている感が動作から溢れている。
隠すならもう少し上手く隠してくれ。
それにしても雪乃のやつ、頭を抱えていたのはこの復讐をするためか。
嘘であっても店員さんに笑われて、なかなかに恥ずかしい。
ここは雪乃に恩返しをしないといけないらしいな。
陽は雪乃の方にちらりと目線をやってから、店員さんにも聞こえる声で言った。
「そうそう、このパンツは俺と雪乃の子供のためのなんだよな」
いかにも嘘だとわかるような口調だったが、この歳で子供の存在なんて言われたら恥ずかしいに決まっている。
事実、自分でも甚大なダメージを受けている。
でも、雪乃に仕返しができたならそれでもいい。
そう思い、もう一度雪乃の方に目線をやると、彼女はなんと、笑っていた。
それもとても勝ち誇ったような笑顔だ。
「そう、これは私と陽との76人目の子供の下着。ちゃんとあのことのことを考えてくれていて嬉しい」
「いや、それお前の夢だろ!無人島で76人も子供作らないわ!ていうか前よりひとり増えてるし!」
え、何言ってるの?という顔をした雪乃にため息をつく。
店員さんも嘘だということがわかって、なぜか胸をなでおろしている。
雪乃に子供ネタは禁句、心に刻んでおこう。
陽はそのまま会計を済ませて(くまさんパンツも含む)店を出た。
この後、家に帰った陽は凛と夏に子供の話について問い詰められ、2時間ほど拘留された。
ただ下着を買いに行っただけなのに、酷い目にあってしまった。
ところで、雪乃の76人目というありえない数にリアリティを感じないが、逆にそこに気持ちの大きさを感じるのは俺だけだろうか、はい俺だけです(自己肯定完結)。
問い詰めてくる2人の話を聞き流しながら、後ろでゴロゴロしている雪乃を見てそんなことを考えていた。
関係ない話だが、いくら兄と言っても、男のベッドでゴロゴロするのはそろそろやめてもらいたい。
途中、凛と夏が何を言っていたのかは覚えていないが、最後の一言だけははっきりと覚えている。
「「私との1人目はいつ作るの!」」
2人のその真剣な眼差しに対して言いたい。
「俺は妹とはそんなことしない!」と。
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