6芋 兄さんは…どう思ってるんですか?
「兄さんの嘘つき!北海道にプロポリス星人がいるって、あれ嘘だったんですか!!」
「そんなこと言ったことねぇよ!」(スパッ)
「あふんっ♡」
帰宅するなり突然、嘘つき呼ばわりした挙句、その理由はなんとも幼稚で……。
うちの実妹ははじめっから全力疾走するタイプだな。
「いいえ、確かに言いました!あれは確か、1987年2月30日、大山 陽が言ったんです!」
「俺、まだ産まれてねぇ!てか、2月に30日はねぇよ!それよりそいつ誰だよ!?」
うちの妹がボケかわいい。
「知らないんですか?世界中の陽の責任は全て、兄さんが負うことになってるんですよ?」
「それ決めたヤツだれだ?樹海の奥地に吊し上げてやる」
「まあ、兄さんったら……私には放置プレイがお好みですか?///」
「お前かよ!」(ズクシッ)
「はうっ♡」
「ところで兄さん」
「なんだ?」
こいつ、立ち直り早いな……。
次から強めに殴るか。
「その目、何を企んでるのかわかりませんが、とにかく私の写真集、返してください!」
「いや、無理だ」
「なんでですか!!」
写真集というのは、先日の雪乃による下着盗まれた事件のあと、部屋から見つかった、俺の写真ばかりが詰まったアルバムの事だ。
アルバムの表には丁寧に『凛・愛する兄さん写真集』と書いてあった。
凛は今の親にちゃんと『自分のものには名前を書きなさい』と教育されたのだろう。
それが裏目に出た瞬間だったな。
「いや、物理的に無理なんだよ」
「ぶ、ぶつ……もお!難しい横文字使って誤魔化しても無駄です!」
「横文字なんざ使っちゃいねぇよ、てか、ほんとに無理なんだよ、燃やしちゃったからな」
「へ……?もや……もやし……もやし……」
凛はその後、『もやし』と20回ほど唱えた後、常温で7時間くらい放置したもやしのように床に倒れ込んだ。
「なんで……なんで……」
「あれ、全部盗撮じゃねえか、絶対にお前が見ちゃいけないはずの写真もあったしな、あんなもの即処分に決まってるだろ」
「私は妹だからセーフ!」
「アウトだよ!」(ズビシッ)
「んあっ♡」
「兄さんは知らないんですか?あの怪談を……」
「怪談?」
「自分の写真の入ったアルバムを燃やしてしまうと、写真に込められた想いが溢れ出して、燃やした人を襲いに行くって……」
「そんなのただの迷信だろ?都市伝説とか、そういう嘘くさいもの、お兄ちゃんは嫌いだ」
「もお、兄さんなんか、どうなっても知りませんからね!」
「怨霊でも悪霊でも、なんでも来やがれ!俺はそんなの信じないからな!」
その日の夜。
「今になって凛の話、思い出しちゃったじゃないか……くそぉ……」
ベットに寝転び、よし寝よう、という所で何故か凛の言っていたアルバムの話が頭に浮かんでしまった。
別にお化けが怖いというわけじゃない。
でも、何故かとても嫌な予感がするのだ。
「大丈夫だ、目をつむれば眠れるさ……」
ガサガサ
「……ん?」
ゴソゴソ
「ん、なんだ……?」
何かが部屋の中にいる気配がする。
やっと寝られたところだったのに、また目が覚めてしまった。
(まさか……アルバムの……?って、あれ?)
何故か手足を動かそうとしても動かせない。
目さえも開けない。
「な、なんで……俺がアルバムを燃やしたからか?俺しか映ってないものを燃やして、なんで俺が呪われなきゃ行けないんだよ!」
ギシ…
何かがベットの上に乗ってきた。
何かが移動する度に、ベットがギシギシと音を立てる。
「くっくっく……」
何かが笑っている。
「な、なんだよ、誰な……」
俺は自分の声が震えていることに気づいて言葉を止める。
「わた……じゃない、俺は悪霊だぁ、兄さん……じゃなくて、お前がアルバムを燃やしたおかげで自由になったんだぁ!ぐははは!」
「あれ?この声、どっかで聞いたことあるような……」
「ぐっ……き、気のせいです……だろ」
「ってか、もうバレバレだろ……凛、こんな夜中にどうした」
「なっ、なんでバレてるんですか!?」
「いや、誰でもわかるだろ」
喋り方とか、声とか、なんとかしてから来いよ……。
「てか、これなんなんだ?解放してくれよ」
「ダメですよ?なんのための束縛と思ってるんですか?」
「なんのためって……」
その言葉が終わるが早いか、視界が開けた。
どうやら、目が開かないのではなく、目を塞がれていたらしい。
暗い部屋のベットで寝転んでいる俺。
その上にまたがるように乗っているのは……。
「お、お前……その格好は……」
下着姿の凛だった。
「兄さん、私が何度誘っても、誘惑同然のことをしても、全く振り向いてくれませんし……」
「そりゃあ、妹だから……」
「兄さんはいつも、妹だという理由を壁にして私たちの気持ちを遠ざけています」
「そ、それは……」
「だ・か・ら♡」
「へ……?」
「兄さんが壁を壊さないのなら、私の方から壊しちゃいますよ……?」
そう言って凛は俺の両頬を掌で包み込む。
そして、ゆっくりと唇を近づけて……、
「やめろって、それはだめだろ」
凛は唇の触れる寸前で動きを止める。
「兄さんは、私じゃ嫌ですか?」
「い、嫌って言うか……だめっていうか……」
「そんな理由じゃ納得できません、私の兄さんへの気持ちは本物です。だから、兄さんも本物の気持ちをぶつけてきてください」
凛の目は本気だった。
暗闇でも分かるほど。
「わかった」
その気持ちに押されて、俺は本心を告げる覚悟をした。
「俺は凛のことが好きだ、それが恋愛としてなのか家族としてなのかは自分でも分かっていない。でも、これがもし恋愛としてだったとしても……」
俺は最後の一言に力を込めて言い切る。
「俺はまだ、お前とそういうことはしたくない」
しばらくの静寂の後、凛は小さくため息をついて、それから小さく微笑んで、
「そうですか、わかりました」
俺の上から降りた。
「なんか、ごめんな」
「いいえ、私がいくら望んでも、兄さんにその気がないのなら、無理にやるべきでないのも事実です」
「お前の気持ちに寄り添えなくて悪いな……」
「ふふっ、許してあげます。でも、その代わり……」
凛はもう一度、俺に唇を寄せた。
だが、今度は耳に、だった。
「兄さんがその気になった時は、よろしくお願いします、ね?」
彼女はそう言うと、部屋から飛び出して行った。
いつの間にか、身体の拘束は解けていた。
「あいつ……」
俺は大きなため息をついて呟いた。
「下着でうろつくなって、前にも言ったのに……」
暗闇の中、耳元で聞こえた凛の声にドキッとしてしまったことは秘密だ。
ちなみに翌朝、昨晩の拘束は自動で寝てる人を束縛してくれるシステムを搭載した凛オリジナルの超お金のかかった特注ベットの仕業だと、凛が自白してくれたおかげで、謎がひとつ減ってくれた。
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