5芋 (兄を)事情聴取

「兄さん!返してください!」

 ある休日の昼頃、凛が突然部屋に飛び込んできたかと思うと、ゲームをしていた俺の目の前に立ちはだかった。

「鍵、閉め忘れてたか。オートロックに変えておこうかな」

「オートロックに変えても、管理人である私には合鍵を渡さなくては行けないので無意味ですよ?」

「それもそうだな。なら、今までの悪事を世に晒して凛には管理人を辞めてもらおう」

「合鍵使いませんのでそれだけは勘弁してください!」

 見事な土下座だ。

 凛にとって、管理人をやめる=俺の部屋に入る手段がなくなる、ということなのだろうか?

 こいつ、職権乱用するためだけに管理人をやってるのかよ……。

「って、そうじゃなくてですね……。返してくださいよ!」

「何をだ?」

「な、何をって……とぼけたって無駄です!兄さんがとったことは分かっているんですから!」

「だから、何をだって聞いて……」

「お兄!お兄!」

「ん?なんだ?」

 凛への対応だけでも忙しいのに、そこに夏が慌てた様子で飛び込んで来た。

「お兄がとったんでしょ?」

「お前もか!ってか、俺が何をとったって言うんだよ」

「とぼけないでください!」

「お兄がやったのはわかってるんだよ!」

「返してください!私の……」

「返してよぉ、私の……」

「「私の下着!」」

「……は?」

 予想外すぎてつい、声が漏れてしまった。

「下着?」

「そうです!私の下着が1枚、無くなってるんです!」

「私のもだよ!」

「これはきっと、兄さんが私への気持ちが抑えられなくて、ついやってしまったんだろうと思って……」

「俺がそんなやつに見えるのか?」

「はい!とても見えます!」

「凛は晩飯抜きな」

「な、なんでですか!?」

 兄を信頼しない子に与えるご飯はない。

「お兄、今返してくれたら許してあげるから、ね?」

「だ、だから俺じゃないって……」

 自分がやった訳でもないのに、夏のこの純粋な目が心に刺さる。


 ……そろそろ頃合いだろう。

「えっと……これはツッコんでいいのかな?」

 先程から雪乃がコソコソと何やらやっているのが、凛と夏の間から見えていた。

「バレてない……まだバレてないはず……」

 雪乃はそう言いながら、ベットの下や本棚の裏などに何かを入れている。

「思いっきりバレてるんだが……そろそろツッコんでいいか?」

「陽の太いのなら、突っ込んでいいけど?」

「そういうことじゃねぇ!」

 ――ズクシッ!

「あんっ♡」

 相変わらず変な声を出すな。

「それはともかく、何やってるんだ?」

「何もしてない、怪しいことなんて何にもしてない」(ニヤリ)

「怪しいところしかないんだが?」

「それは陽が私を疑いの目で見るから。純粋な目で見ればなんにも怪しくなんてない」

「それもそうか、純粋な目、な」

「じゃあ、兄さんの部屋、捜索しますよ!」

「下着、返してもらうね!」

「だから俺はとってないって……」

 こうして妹達による家宅捜索が始まった。


 2分後。

「ありました!」

「見つかった!」

「えぇ……」

 理解できない、絶対に俺はとっていないのに。

 ちなみに見つかった場所は本棚の裏と、ベットの下。

 完全に奴の仕業である。

「……雪乃さん?」

「なにかな、陽」(ニコッ)

「さっき隠したのは2人の下着だよね?今のうちに言った方が、お兄ちゃんも許しやすいんだけどなぁ?」

「わ、私じゃない、だって、私の下着もどこかに隠されているから」

「そんなわけ……」

「それってこれのことですか?」

 凛が一着の下着を掲げて言う。

「あ、それ……」

「さっき雪乃ちゃんがテレビ台の裏に入れてたから……つい、拾っちゃった♪」(テヘペロ)

「えっと、雪乃の自作自演がバレたところで……自首、するか?」

「……はい、私がやりました」

「よし、大人しく反省してるようだし、許してやる」

「ぐぬぬ……凛ちゃんが見つけさえしなければ……仕返しに今までの悪事を世に晒して管理人をやめさせてやるぅ……」

「前言撤回、お前も晩飯抜きな」

「なんでぇ!?」

 何故かは自分の心に聞け。



 その後聞いた雪乃の話によると、15禁サイトに応募する絵を書いていたところ、下着を書くための素材がなく、「それなら2人から借りればいい!」という判断になったのだのか。

 しかし、2人が自宅におらず、仕方なく勝手に借りて、返そうと思っていたところ、何故かこんな騒ぎになっていた……と。

 雪乃も、少し気の毒ではある。

 なぜ15禁サイトに絵を応募しようとしていたのかは、兄として聞かないでおいてやろう。


 ちなみに、夏以外の2人には、お仕置きとして、晩御飯のおかずを1品抜いておいた。

 それでも2人は、「私たちのおかずは兄さん(陽)だけだから他のおかずはいらない!」などと、よくわからないことを言っていたので、あまりこたえていないようだった。

 だから、「なら、お兄ちゃんというおかずも抜きにしようか、2人とも今日から1週間、出禁な」と言ってやったら、涙目で謝ってきたので許してやった。

 決して可愛さに負けた訳では無い、甘えさせたわけではない、決して。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る