4芋 (妹を)事情聴取

「さて、事情聴取といこうか」

 俺は暗い部屋の中、キッチンの小窓から差し込む光だけで正面にいる人物を見る。

「正直に言うんだ」

「私はやってない!」

「本当のことをいえと言っているだろう?」

「な、何するつもり……?」

 目の前の少女は俺が手に取ったものを見ると、声を震わせる。

「本当のことを言えば何もされないで済むんだぞ?」

「だから……本当に私じゃないですっ!」

「そうか……なら、バツを与えるしかないか」

 俺は手に持った『マジックハンド』で目の前の少女、凛の脇腹をくすぐる。

「きゃははは!やめ……やめてくださいよぉぉぉ!」

「なら本当のことを言うか?」

「きゃははは!い、いいますからぁ!」

「よし」

 くすぐるのをやめてやると、凛はあわてて、笑いすぎて顔のとある部分からでた液体をティッシュで拭き取る。

「ぷ、プリンを食べたのは……私です……」



「陽、やめて……これ以上は……」

「……まだ何もやってないぞ?」

「やらなくてもわかる。陽は私をこんな暗い部屋に連れ込んで……」

「連れ込んでません。雪乃が自分で入ってきたんじゃないか」

「記憶にございません」

「お前は都合の悪くなった政治家か!」

 ――ピシッ!

「あふんっ♡」

 定規で軽く脳天を叩くと、雪乃は艶かしい声を出した。

 ちょっと、いろんな意味でやめて欲しい。

「人生は自分で決める。自分の中の基準も、法律も……人は生まれた時から自分自身の政治家なのだ」

「何言ってんだお前……」

 軽く叩いたつもりだったが、当たりどころが悪かったらしい。

 元々壊れているものをさらに壊したら、逆に賢そうになったんだが……。

「はっ!私は今まで何を!?」

「お前は今まで鳩の真似をして、猿の真似をして、そうだな……クジラの真似もしてたな」

「そ、そんな……」

 雪乃はガックリと肩を落とす。

「あれは夢……?陽と遭難して、二人きりの無人島生活が始まって早16年。ついに75人目の子供が生まれたところだったのに……」

「子供多すぎだろ。それは夢だって気づけよ」

 ありえなさすぎだろ。

「陽、人は夢を見る生き物なの。夢を見てる間はその夢に真っ直ぐで、『夢を見てる』なんて感覚はないの。なりたいものがある、だから頑張る、それだけ。夢と知るのはその夢が叶った時か、それとも終わった時か。人って言うのはそういう生き物なの」

「お、おう……」

 雪乃はわざとらしくため息をつく。

 なんか、俺が怒られてるみたいなんだが。

「で?75人目の子供はいつ作る?」

「まだ一人もいねぇよ!てか、妹と子供はつくりません!」

「陽のケチ……」

「そういう問題じゃねぇよ……」

 それにしても話が大きく逸れてしまった。

 話を元に戻そう。

「雪乃、お前がやったんだろ?」

「違う。コックリさんに誓って私じゃない」

 コックリさんって、微妙に信用度低いんだが。

「私だと言うなら私だと言う証拠を……」

「証拠ならあるぞ」

「あ、あるの?」

 俺は大きく頷く。

「お前の部屋から、魚肉ソーセージの袋が見つかった。今日の夕飯に使うはずの魚肉ソーセージの袋だ」

「で、でもそれは、私が自分で買ってきた……」

「凛に許可を得て、監視カメラの映像は確認している。お前が魚肉ソーセージを買ってきた形跡はない」

「え、陽。今さらっと怖いこと言わなかった?私の部屋の……?」

「お前、知らなかったのか?凛はお前の部屋に監視カメラをつけて観察日記を書いてるんだ」

「え、何それ怖い……ってことは、私のあんなシーンやこんなシーンまで……」

 雪乃の白い肌がみるみるうちに赤くなっていく。

「正直に言ったら、監視カメラは外してやろう」

「魚肉ソーセージを食べたのは私です!」



「私じゃ……な、ない……」

「声が震えてるぞ?」

「ち、ちがう……寒いだけ……」

「ほう、ならやましいことは何も無いと?」

 目の前の少女、夏は小さく頷く。

「じゃあ、さっき、お前の服から落ちたのはなんだ?」

「き、記憶にございません……」

「お前もかよ……」

 俺はあからさまにため息をつく。

「お兄、怒ってる……?」

 夏が震える声で聞いてくる。

 その目には涙が溜まっていた。

「……怒ってる」

「……(´._.`)シュン」

「怒ってない」

「('▽'*)にぱ~♪」

「怒ってる」

「……(´._.`)シュン」

「怒ってない」

「('▽'*)にぱ~♪」

 なにこれ、めっちゃ可愛い……。

 もう少し遊んでやりたい気もするが、ここら辺で終わらせることにしよう。

「お兄ちゃん、正直な夏が好きだよ」

「お兄ちゃんのパンツをとったのは私ですっ!」

「はい、逮捕」

「ふぇぇぇ!?」

 どうやら彼女は今流行りの週刊誌『fiξフィクシー』に乗っていた、『好きな人のパンツをブラの中に入れたら結ばれる!』というおまじないを試したらしい。

 これを書いた人も、まさか実践する人がいるとは思わなかっただろう。



 今日は3人の犯行を検挙した。

 まだまだ悪は溢れるほどいる。

 これからも、悪事をどんどん暴いていくぜ!


 ~完~


「……ん?あ、夢か」

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