3芋 そうだ、銭湯(戦闘)行こう
雪乃に風呂が使えないことを話し、外へお風呂に行くことになったことを伝えた。
「それなら私、いい所を知ってる」
「いい所?近くに風呂なんて、他にあったか?」
俺が知ってるのは駅前の風呂屋『
昔からの銭湯感が残っていることから、高年齢層から親しまれている風呂屋だ。
「あそこ以外にも銭湯はある」
「ほう、松野杉よりもいいとこか?」
雪乃は小さく頷く。
「なにより、私たちが喜ぶものがある」
雪乃があまりにもその銭湯を推すため、仕方なくそっちに行ってみることにした。
正直、『私たちが喜ぶもの』というのが気になるから行ってみたいというのもある。
どうやら、銭湯は大きな建物の内のひとつの設備で、他にレストランなどもあるらしい。
風呂に入ったあとにそこで食事を済ませようと思う。
「ところで凛、ほかのマンションの住人は大丈夫なのか?」
「はい!適当に誤魔化して、すぐ治るので。と言っておきました!水道管の修理の手配もしておきましたし!」
「そこはちゃんと謝っとけよ……」
「相崎家の辞書に謝るという言葉はありません!」
「そんな辞書は燃やしてしまえ」
なぜこいつはこんなことで胸を張れるのだろう。
うちの実妹がドヤ顔かわいい。
着替えなどを用意し、頃合いを見て5時頃に家を出発した。
そこから最寄りの駅へ向かい、隣駅で降りる。
駅から徒歩5分ほどの場所に、それはあった。
「これがその銭湯か」
目の前には巨大なビルが天に向けて伸びている。
「あら、ここの事だったんですか?」
「凛、知ってたのか?」
「知ってるも何も、ここは私の父が建てたビルですから」
「お、すごい偶然だな」
と、凛と雪乃が何やらコソコソと話している。
俺はそっと聞き耳を立ててみた。
「凛ちゃん、約束は守った。これで報酬は弾んでくれるよね?」(コソコソグヘヘ)
「もちろん。たんまりと弾みますよ、雪乃さん」(コソコソグヘヘ)
「陽をここに連れてくるのが条件。そのためにトイレで人生最大の不幸を浴びた哀れな少女を演じた。だから普通の報酬じゃ満足しない」(グフフ……)
「そりゃあ、普通じゃダメでしょうね。なので限界まで弾んで、うまか棒298本でどうですかね?」(ゲヘゲヘ……)
「交渉成立」(グヘヘへ)
「交渉成立ですね」(グヘヘへ)
2人して悪い顔をしている。
てか、あのトイレットペーパーなかった事件は自作自演だったのかよ。
てか、報酬がうまか棒ってどうなんだよ。
てかそもそも、お前ら手、組んでたのかよ。
うちの実妹と義妹にツッコミどころが多すぎる。
まぁ、めんどくさいので聞かなかったことにしておこう。
「さぁ、とにかく、お風呂ですね!」
「そう、お風呂。陽と夏ちゃんも、はやく」
妙にテンションの高い凛と雪乃に連れられ、俺達はビルの中に入った。
内装の感想を一言で言うと、『控えめに言って凄すぎる』だ。
そんなロビーを抜けてエレベーターホールに向かう。
そのままエレベーターで銭湯のある5階へ。
エレベーターの扉が開くと、俺達はまた驚いた。
「ワンフロア全部が銭湯なのか?」
「はい!その通りです!」
凛は若干のドヤ顔で言う。
「ここの銭湯はワンフロア丸ごと銭湯にしてしまい、その広いスペースを利用したここだけの施設を用意しているのです!」
「ここだけの施設?」
「それは入ってからのお楽しみです」
凛はそういって受付に行き、2つの鍵を持って帰ってきた。
「兄さんは12番の扉から入ってくださいね」
「お、おう」
訳の分からないまま、言われた通りの12番の扉に向かう。
扉にたどり着くまでに1番から11番までの扉を見かけた。
12番は角部屋と言うやつらしく、最後の番号らしい。
扉を開いて中に入ると、そこは更衣室だった。
「他に誰もいないのか?」
中には誰もおらず、壁に張り紙で、『こちらの水着を着用してください』と書かれていた。
なぜ風呂なのに水着を着なくてはならないのかは疑問だが、言われた通りにするほど無難なことは無い。
サイズの合う水着を選び(柄は1色)、それを着る。
「ここからはいるんだよな」
入ってきたのとは反対にある扉を開き、俺は中に入った。
むわっとした蒸気を感じ、視界が一瞬
「兄さん、遅かったですね」
「そ、その声は凛!?」
なんで同じ風呂に凛が……?
「陽、遅い……」
「雪乃も?!」
「私もいるよ〜」
「夏の声まで聞こえる?!」
予想もしていなかった事態に俺の頭は混乱している。
多分、俺と同じように、水着を着ているのだろうが、妹達の水着姿を見るのにまだ心の準備が……。
そんなことを思っている間に湯気は薄れ、妹たちの姿が露わになる。
「兄さん、勝負です!」
凛がピンクの水着で特に無い胸を張りながら言う。
「え?勝負?」
「そう。ここはバトル銭湯、通称『
水色の水着を着た雪乃がさらに無い胸を張って言う。
「それただの戦闘だから!銭湯で戦闘って、お前の父さんはなに言ってんだ!」
「お兄、覚悟してね。私たち、手加減はしないから!」
夏が黄緑色の水着に包まれたありすぎる胸を張って言う。
夏さん、それ以上張らないで……。
水着が悲鳴をあげている気がする。
「てか、バトルってどういうことだよ!」
『説明しよう!』
「うわっ、びっくりした……」
突然のアナウンスが響いた。
『失礼、私はバトル銭湯解説担当の
「は、はぁ……」
男子対女子って、1対3じゃねぇか。
『試合が始まれば、それぞれから見て、部屋の右側にある水鉄砲をとるんだ。試合時間は15分。それぞれにライフは2つ。先に全滅した方が負けというルールだ。なお、当たりカウントはAIが担当する』
「ほ、ほぉ……」
『男子諸君、やる気はあるか!』
「はい……」
諸君って、俺しかいねぇよ。
『声が足りない!やる気はあるか!』
「おぉ〜!」
『女子を濡らしたいか!』
「お、おぉ〜!」
『びしょびしょにしてやりたいか!』
「おぉ〜!」
もうほとんど無心で声を出している。
『ちなみに勝利チームには相手に一つだけ言うことを聞いてもらえる権利を与えるというルールになっている』
「はぇ?聞いてないぞ!?」
『では健闘を祈る。試合スタート!』
「ふっ!」
凛が身軽な動きで右端まで走り、1番に水鉄砲を手にする。
その後、雪乃と夏も水鉄砲を手にして、物の影に隠れる。
俺も急いで水鉄砲を取り、体を洗う場所にある1.5メートルほどの壁に隠れる。
銭湯というのは意外と身を隠す場所が多いようで、向こう側を覗いて見ても、凛たちの姿は見えない。
ピチャッ
そんな音が聞こえ、俺は壁から飛び出し、水鉄砲を構える。
またもやピチャッという音が聞こえた。
だが、姿は見えない。
と、俺の背中に水がかけられる。
「っ!?」
振り向くとそこには凛がいた。
「ふふふっ、兄さん、敵に背中を見せちゃダメじゃないですか」
「先手を打たれたか」
「ほら、今も見せちゃってますよ?ふたりに♡」
ピチャッ。ピチャッ。
「なん……だと……?」
どうやら、囲まれてしまったらしい。
背後に雪乃と夏がいる。
「陽、ガメオベラ」
「お兄、チェックメイトだね」
2人の本気度がすごい伝わってくる。
それにしても、3方向から水鉄砲を向けられるという状況、滅多にないんじゃないだろうか。
「兄さん、終わりですよ!」
3人が一斉に引き金を引く。
「いいや、まだだ!」
なら、俺も本気を見せようじゃないか。
俺は体を横に転がし、放たれた水を避ける。
「なっ!?」
3人が驚いた隙に走ってさっきとは反対側の壁に隠れる。
「兄さん、そこに隠れているのは分かっているんですよ」
「陽、大人しく撃たれて」
「お兄、濡れさせてあげるよ〜」
うちの妹達がなんだか怖い。
どうやら、壁の両側から攻めて挟み撃ちにするようだ。
「ならば!」
俺は壁を乗り越え、反対側に飛び出す。
「あれ?お兄がいない……」
「兄さんが消えた!?」
「神隠し……?」カタカタ
「俺はこっちだ」
まずは凛と雪乃に1発ずつ当てる。
「ひゃうっ!?」
「んにゃっ!?」
2人は変な声を出して体をビクッとさせる。
これで凛と雪乃は俺と同じライフ残り1。
「お兄、なかなかいい動きするね」
「夏たちこそ、人数差を上手く使った攻め方をするじゃないか」
そっと凛と雪乃に目をやると、
「兄さんの液体、かけられちゃいました〜♡」
「陽の液体が……私の体に……♡」
などと言って、ビクビクしながら床に倒れ込んでいたので、そっともう1発ずつ当てておいた。
これで夏との1対1の勝負だ。
ライフは夏が2で俺が1。
俺の方が不利である。
「お兄、いくよ!」
「おぅ!」
俺と夏はほぼ同時に身を隠した。
これで相手がどこにいるかは分からなくなった。
俺、なかなか楽しんでる!
サバゲーというやつに近いこの遊びはは人の心を
ピチャッ。
「そこか!」
俺は水音のした方へ水を放つ。
『当たり判定アリ』
AIの声だろうか。
どうやら水が夏に当たったようだ。
「こうなったら、お兄に突進だぁ!」
夏は突然、物影から飛び出し、俺のいる方向へ走ってくる。
次当てれば勝ちの状況で特攻作戦に出たのだろう。
「なら俺は迎え撃つ!」
俺も影から飛び出し、水鉄砲を構える。
だんだん夏が近づいてくる。
この水鉄砲の飛距離はおよそ2メートル半。
その距離に入るまでは撃つべきではない。
まだだ……まだ……まだ……いまだ!
そして俺は引き金を引いた。
それと同時に夏も水を放つ。
水鉄砲から放たれた水は一直線に夏へ向かって命中……することは無かった。
「ふぁっ!?」
夏は突然足を滑らせ、転倒。
水は夏の主張の激しい胸のスレスレを飛び、虚しく冷たいタイルの上で弾けた。
俺は不意をつかれ、夏の放った水が顔に直撃。
結果、俺の負けとなった。
『お風呂では走らないでください。危険です』
AIが最後にそう言っていたが、ならこんな施設作るなよと言いたい。
試合後、俺達は体を流し合い、ゆっくりと風呂に浸かり、疲れをとった。
『女子チームの皆さん、おめでとうございました!』
風呂を出る時、渡辺の声がしたがひとつ言わせてもらいたい。
お前、実況してねぇじゃねぇか。
風呂を上がり、一通りの作業を済ませた後、同じビルのレストランで食事を済ませ、俺達は家に帰った。
風呂に入って疲れたというのも変だが、実際そう言うことになるので何も言えないが、おかげで夜はぐっすり眠れた。
何故か妹たちも同じ部屋で寝始めたのだが、今日くらいは許してやろうと思う。
勝利報酬の『お願い』として。
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