第3話

「お疲れっす」

終業と同時に走り出した

何年ぶりだよ本気で走ったの



走らせやがってあとで文句いってやる

だから居ろよ





あのベンチ!

「ナナコ!」


「え?」

え?違うナナコじゃない

「す、すみません人違いでした」

くそ



どこだ?ナナコ、ナナコ!


「そんなに大きな声で呼ばないで

恥ずかしい」


「ナナコ!」

すぐ振り返った

「待ってたよ

ケイタさんはちゃんと来てくれるんだね」


「大丈夫か?」


「うーん大丈夫じゃないかも

ねぇ?聞い」

俺はナナコを抱き寄せた

「ナナコ好きだ」

抱き寄せたナナコは今にも消えてしまいそうだった

「ダメだよ私」


「忘れさせてやる

お前のこと待たせるやつなんて

来ないやつなんて忘れろ

俺は約束通り来る

そうだろ?」


「ダメなんだってば」

ナナコは俺を突き放した







「私

お化けだよ」

辺りの景色にナナコは溶けて消えてしまう

そう思うぐらいナナコは薄くなった

「え?」


「私

死んでるんだ

さっき思い出した」


「嘘だ

ナナコは目の前にいる

触れるし、話だってできる!」

ナナコは歩き出し立ち止まった

そこは道路の真ん中だった信号が赤に変わる

車が走り出した

「おい!あぶねぇよ」


「来ないで!見てて!」

車はナナコの体をすり抜けていった

そこにナナコが存在しないかのように

「は?嘘だろ」

一台、また一台と車はナナコの体をすり抜けていく








「ね?

私死んでるの

もう居ないんだよ



私ね、ここで車に轢かれたの

でね死んじゃった」






俺は気付いたら動いていた

車が行き交う中

ナナコを捕まえ歩道に連れていった

「ナナコ」


「バカ!危ないじゃん

お化けなんだから平気なの」


「ナナコはお化けでもここにいるだろ

体はなくても心は居るだろ

お前の心が轢かれる」







ほんとバカお化けを好きになるなんて




私、来ないあなたを待つのはもうやめるね










「私ケイタさんが好き

一緒に居たい」

ナナコの体がハッキリとして透けなくなった




あのベンチであなたを待つ

それ以外なにも考えてなかった

雨に濡れても気にならなかった


でもなんでかな

ケイタさんが傘をくれたとき

雨の冷たさを思い出した

ケイタさんは私の心に傘を持たせてくれたんだね


今はこのベンチであなたを待つより

ケイタさんと一緒に居たい気持ちで心が満たされてる






手を繋いで歩いていた

「なぁナナコって回りの人にはみえてないの?」


「多分見えてないよ」


「なんで俺には見えるのかな」


「わかんない」


「わかんねぇな」


「ふふふ

彼女がお化けってケイタさんヤバイやつじゃん」


「あー頭飛んじゃってるな

でも頭飛んでないと見えないならそれでいいよ」

こういうことしれっと言うんだもんなぁ

ずるい


「うわぁケイタさんサブッ」


「俺からのお願い聞いてくれるか?」


「なに?」


「勝手に消えんなよ」


「おう!ケイタさん死ぬまで見守ってやるよ」


「それはそれで怖ぇ」

ケイタさんは走って逃げた

私も走って追いかけた


普通のカップルみたい




「これからもあのベンチに居るつもり?

俺ん家来いよ」

私は頷いて手を出した

ケイタさんの手は暖かくて

私の心まで包んでくれた


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