第8話 どんでん返し

 銃声の残響が僅かに壁や床を振動させる。

黒幕の男は撃ち抜かれた右手を見て顔を歪めている。

それを撃った人物は―――その女性は体育館の窓、歩けるようになっているバスケットゴールの上の場所の手すりに体重をかけて立っていた。


「今だぞ、少年」


その言葉でハッと意識が現実へ呼び戻される。

そうだ。……今しかない。

数多と美香――そして全校の生徒を拐ったこの男を、許せない。

罰を与える時間は今しかないんだ。

しかし思い出す。

彼に僕の攻撃は効かない。

思考が全て読まれるため、避けられる。行動パターンを決定した時点でそれを防がれてしまう。


考えろ……どうすればいい。思考を捨てるな、僕の思考がきっと最後の切り札になる。

どうすれば、あの無敵とも言わんばかりの能力に歯向かえる?歯向かうだけなら誰にでも出来るが『勝つには』どうするのが正解なんだ。


 ポチャン……。

その音が僕の思考を浄化し頭の中が澄んで整理されていく。

簡単なことに、気づかなかった。

僕は男の顔を見る。するとその顔はみるみる惨めさを増す。

どうやら正解らしい。

床を強く踏む。

まだ攻撃はしない。壁や天井あらゆる場所を駆ける。もっと……もっと……!!


もっと疾く!!


彼の能力が無敵なら右手に傷を負っているはずがない。ということはやはり、その能力にも欠点があるだ。

それはおそらく――いや、彼が最初に言った通り。視認しなければならない。

視認していることに気づかなければならない。

恐らくかれの視界には先程の銃弾を撃った彼女の姿が映っていた。

けれど、集中が僕に向いているあまり、それに気付けなった。


つまり、僕は己の最速を以て……『彼が視認出来ないようにすればいい』


覚悟を決める。今から行くぞと男の後ろで気を失っている二人と全校生徒に語り駆ける。

この一瞬に全てを乗せよう。

息を大きく吸い込んで精一杯、叫ぶ


紫電一閃フラッシュ!!』


駆け出したその後ろでは大きな音と共に埃が舞っているが僕に見えるのは衝撃だけで音は聞こえない。

これは僕が音速を越えた瞬間。

彼の瞳がキョロキョロと動くもう僕を視認できていない。

ならばこのまま畳み掛けようと足にさらに力を込める。

思いっきり踏み込んで彼の懐に飛び込む―――拳を埋め込む。

一瞬にも満たないその刹那、彼の肋骨が折れる音が響く最中、彼はステージの奥の壁にめり込んだ。

正直、こんなのは漫画やアニメでしか見たことがない。

そんなことを考えながら、僕はステージ上で立ち尽くし息を切らしていた。

しかし後ろでは一人の男が立っている。

信じられない。それはたった今僕が殴り飛ばした男……ではない。

その男の手下だった。

まるで僕のように息を切らして、足を引きずって、全身で脱力するように。

それで尚、こちらを向き、銃を向けている。


 終わりだ。完全に終わった。ここまでしたのにも関わらず彼は僕の人生に終止符を打とうとしている。

グラリと揺れる体で窓際を見るがそこにもう彼女の姿はない。

撃つ手はなくなった。


満身創痍な男は不敵に笑いながら立ち止まる。

そして銃身に視線を這わせる。


「死ねええええええ!!」


カチン……カチン、カチン。


銃弾は撃ち出されていない。


「これで二度目ね」


そう言って僕の背後で笑ったのは紛れもなく数多だった。

それは数多の能力によって作られた、救われた状況だった。

何が二度目だよ、僕は今日、お前らを助けるために大冒険したっていうのに。


「ありがとう」


僕が数多にそう伝えたところで僕の記憶は途絶えていた。




それがある夏のたった一日に起きた出来事の全貌です。

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全ては強欲な僕の掌 御劔 深夜 @miturugi_sinya

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