第6話 この僕が疾い?だから君が遅く見えたのか

千里眼ホークアイ!!』

双眸に深紅を纏い、少年―――僕はそう叫んだ。

その力はすべてを見渡そうと、そして全てを見抜こうとして得た力。

僕は教室と廊下の境界線に立つ。

意識を集中させ、全身で床や壁、天井を這うように。

己の身体からだを一体化させていく。

まずは数多の位置の確認から始めよう。意識を二回に登らせる。


すると二階の教室には……誰一人として存在していなかった。


「っ!?」


自分でも驚くくらい驚いて、声にもならない声を出す。

そのまま意識は二階の教室全てを見回り、やがて誰も見つけられなかった。

しかし休むことなくそのまま意識を飛ばす。

目的地はもはや決まったようなものだった。

僕のクラス以外の全ての教室に人がいない。犯人が来てからの時間的にまだ学校の敷地内のどこかにみんないるはずだ。

―――数多と美香も。

となれば向かうべきは一ヶ所、あそこしかない……!!

いた。良かった、やっぱりそこだった。

今度は叫ばない。自分自身をなだめ、冷静さを取り戻させるように。

息を吐くような自然な口調で囁く。


紫電一線フラッシュ


 バン――!!

大きな音とともにの鉄の引き戸さえ吹き飛ばし、僕が0.8秒でたどり着いたそこには案の定、他クラスの生徒全員が寝ている。

とは言え体が横たわっているだけで実際に眠っているのかは定かではない。

眠らされているのかもしれないし、気絶だって考えられる。

いや、むしろそうであって欲しい。

最悪の場合は―――なんてくだらない考えを首を振ってかきけした。

彼らの様子を見るためにステージに近づこうとしてやめた。

ここへ来る前に教室でポケットに入れていたカッターを取りだし、ここへ来るまでにかかった時間のように一瞬で、ステージに垂れ下がる煙幕に向かって投げつける。

それは放物線なんて知りもしないようにただただ一直線に突き進む。

そしてそれは見事に煙幕に突き刺さる。が、それによって鳴り響いた音は明らかに布ではなく何らかの金属音だった。


「これはこれは、最近の若者は元気があって大変よろしい私のような、若いとはとても言えない年齢の者に、興奮を蘇らせてくれる」


そう言いながら幕から舞台の1シーンのように出てきたのは、スーツを来たいかにもサラリーマンの雰囲気を漂わせる男だった。


「流石に当たんないですよね」


僕がそう言うのにはちゃんとした理由があった。

ステージのみんなの元へ思わず向かおうとしたとき、ふと我に帰った。

なぜここに犯人がいない。そしてステージの左右に意識をやる。

倒れているみんなの気配に紛れこんで何かの気配がする。

そこで僕は誰にも聞かれないように注意して『千里眼ホークアイ』を使う。

すると案の定、そこにいたのはこの男だった。

手にナイフを握ってはいたが幕の向こうにいる彼に僕のカッターは当たるかな?

なんて試す気持ちで投げたカッターだが、バレバレの待ち伏せをするだけあって、幕を突き抜けたカッターさえ刃渡り7センチほどのナイフで防いでみせた。


「それにしても君、疾いですねぇ」

「この僕が疾い?だから僕には君が遅く見えたのか」


僕が煽ると男はまた、ふっふっふっふ、と笑い、その汚いみさえ表情から消える。


「少年、君は何のためにここへ来たのです?先ほどからチラチラと視線が向いている彼らのためですか?では彼らはお返ししましょう。そうすれば君は私を見逃してくれますか?」


何をふざけたことを言い出す。この僕が、強欲な僕が友達二人だけで引き下がるとでも思ったのか。


「そうですか、ややこしくなるので先に言っておきましょう。君に能力があるように、私にもそれがあるのです。視界に入った人間の心を読む能力が。そして私は聞いたのです。彼らには、夢がない。願いも希望も持っていない。そんな彼らがこの世に生きている価値があるでしょうか。いっそ、夢も希望もない世界でどうしようもなく生きなければならない人生から解放すべきではないかと。もう一度問います。少年、そんな彼らのために、

君は何をしにきたのです」


それなら僕はこう答えよう。決まっている。


「確かに僕にもこれといった夢や希望も無いですよ。けど、ならあるんですよ。僕は僕の自己満足―――『欲望のためにここへ来たッ!!』」

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