第4話 強欲は最大の大罪だ
交代だ。今度は僕らの攻撃、というより防衛、返り討ちの番だ。
一人は引き金を引いても発射されない銃を疑い、もう一人はその様子に気付かず弾丸が先生の体を突き抜ける瞬間を待っている。
銃が完全なものかと確かめるため男は銃口を除きこむ。
「おい!なんだよ、なんで打てねぇんだよ!」
するとそこにあったのは、「粘土?」
銃口に詰まっていたのは粘土だった。
これは僕じゃなくて数多の能力、憤怒――怒ることによって得る力。
今回彼らは数多を怒らせた。多くの命を奪い、踏みにじった。
だから数多は彼らを裁こうと思ったらしい。断罪を形にしようとして、物を具現化出来るようになった。
それは油粘土や紙粘土とは違い、泥や土から作った類いの物だった。
瞬間―――音をたてて弾ける、様子がその場にいる全員の脳裏に浮かんだ。
男たちは青ざめ、生徒側の顔色もかなり悪くなっている。
これは単なる偶然でも何でもない。
能力、『
自分のイメージすら他人の脳に送りこめる。
僕は欲した。彼の頭が吹き飛べば······。
これがその結果だ。彼らは今、最悪の状況を想定した。
そして次は。
男たちは揃って僕に目を向ける。
怯えた目をして、猛獣の前の小動物のように顔をひきつらせ目を見開き僕を見る。
彼らの意識を僕に向けた。
それは単に僕へ集中させたかった訳ではなく、まず先生と他の生徒から注意を逸らしたかった。
「お前か、なんなんだお前はァァ!?」
先ほどまでの彼は圧倒的な武器を持ち、精神的にも圧倒的優位に立って僕たちを見下していた。
それが今や、彼らは恐怖に心を握られ、緊張に体を縛られ微動だに出来ない。
なぜなら、それはやはり、僕が欲したからだった。
男は銃を使えないと思いこんだ。
その結果、ポケットからナイフを取りだし右手に装備。
瞬間、足に力を入れ駆け出し彼の間合いまで僕に近付く。
しかし、それはもはや僕の間合いだ。
彼は右上からナイフを降り下ろす。
それは本来、一瞬と呼ばれ通常の動体視力を凌駕する。
彼自身ちゃんと肉体を鍛えていたのだろう。僕でなければ殺されていた。
だが皮肉なことに僕だった。
『
彼のナイフは掠りもしなかった。
彼はまだ気づいていない、僕は彼の背後にいるのだ。
投げ、より確実に突きを男の横腹に撃ち込む。
ガハァ、と声にならない声でその場に崩れる。
しかし1秒の暇も与える気はない。
右足に全身全霊の力を込めて、教室のタイルに穴が開くほど踏み込み駆ける。
約5メートル。
その距離を移動するだけなら、誰の目にも留まらない。
顔面に手を押し付け壁にぶつける。
少し安心した。壁にも頭蓋骨にもヒビ一つ入っていない。
他の生徒はぽかんと何が起きたのかも分からずに首を傾げる。
僕はちょっとした作り笑顔で。
「昔、親に護身術を習ったんだ」
そう言った。
そして最後、数多と美香に確認する。
「ありがとう、作戦通り終わったよ」
しかし返事はなかった。
うっすらと数多の声が聞こえる。
「わ······るい······」
直感的に嫌な予感がする。悪寒がはしる。
この出来事はこれで終わりではない。そんな気がする。
僕は強欲だ。怒りも妬みも、矜持だって全ての欲望をもって手に入れる。
強欲は······最大の大罪だ。
「数多っ!」
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