橋岡くんが好きだけど嫌いな事

花梨

第一話

 カフェの席に着いた途端、唐突に、水色の箱を手渡された。


 今日は誕生日でもない。お祝いするような事などあっただろうか、と首をかしげてしまう。


「どういうこと?」


 目の前に座る幼馴染の橋岡はしおかくんは、生クリームとチョコレートソースがかかっているカフェラテにガムシロップを入れていた。見ているだけで歯が溶けそうな甘さの連鎖。


「ねぇ、これ何?」


「んっふふー」


 オレンジ色のストローで、生クリームを溶かさないようにちょっとずつかき混ぜているだけで答えは言わない。


 ジャズの流れる店内は、コーヒーや焼いたパンの匂いに満ちていた。利用客は大人ばかりで、高校生は私たちだけ。


 休日ではあるが午後2時だからか、さほど混雑はしていない。


 両隣に気を遣う客はいないので、私は箱を高く持ち上げたり振ったりして観察した。


 箱は、淡い水色の無地の箱だった。だいたい20センチくらいの長方形。銀色のリボンがかけられていた。ちょっと歪んでいるから、橋岡くんが自分でかけたものだと予想する。


 橋岡くんは私の行動を意に介さず、カフェラテと一緒に頼んだホットサンドをほおばり始めた。大葉とジュノベーゼのソースがしたたり、ブラウンのトレーの上に落ちた。


 幼い性格のわりには、身長は180センチ近くあって体も筋肉質。早食い選手のような食べっぷりを見ながら私はミックスベジタブルジュースに口を付けた。


「もぐもぐしてないで、答えてよ」


 私の言葉に、橋岡くんは口にしていたホットサンドを飲みこみ、また笑顔で答える。


「ありちゃんにプレゼントだよ!」


 高校性のわりにはまだ少年らしさのある、高く透明感のある声だ。純粋さを形にしたらこの声になったような声なので、ボリュームもとても純粋。私はシーと人差し指を少しあげた。唇につけて「しーっ!」ってやる女の子を羨ましく思うことはあれど、自分はそれをやっていい子ではない。


 本名の「あいり」も、ひらがなの可愛い名前で自分には似つかわしくない。でも、橋岡くんが呼んでくれる「ありちゃん」は昔からだからか、心地良いのだけど。


「プレゼントって言われてもなぁ。私たち、ただの読書仲間じゃない。こういうことされる立場でもないよ」


 月に一度に読書会をするだけの幼馴染だ。高校からは通う学校も別だし、今まで特別なプレゼントをもらったこともない。「誕生日だからお菓子買ってあげる」とか、その程度だ。


「開けていい?」


 私がリボンに手をかけようとすると、橋岡くんは慌てて止めた。


「ダメです。中に何が入っているか当てたら、見ていいよ」


「はぁ? 何それ。わからなかったら、開けちゃダメなの?」


「うん、恥ずかしいから」


 カフェラテの上に乗る生クリームとチョコレートソースを細長いスプーンですくいながら、いたずらを仕掛けた子供のような顔をしていた。


 ホットサンドはもう食べ終えていて、包み紙はくしゃくしゃに丸くなっていた。


「じゃあ一生開けられないよ」


「いや、もう少し考えて」


 情けない声で橋岡くんは言うけれど、詰めや設定が甘いのではないかとすこーし、イライラしてきた。


「ヒントくらいちょうだい」


「そうだね! 第一のヒントは、この読書会です」


 ゆるむ口元を隠すように、橋岡くんはウェットティッシュで手早く手を拭いた後、今日の読書会で読む本をバッグから取り出した。


 手は綺麗にしたが、人懐っこい笑顔に生クリームを添えている。意地悪返しで教えてあげないつもりだったが、本についたら私も気分が悪い。


 口の端についていることを指摘すると、ありゃーと声をあげてウェットティッシュで拭った。


「ありがとう、ありちゃん。優しいね」


 天然パーマでふんわりした栗色の髪は地毛だ。中身は少年、見た目は細マッチョ、顔は天使。キャラ渋滞している。


「普通でしょ、これくらい」


「ううん。ありちゃんは優しくて可愛い女の子だよ」


 こういうこと、平気で言えるんだから。


 私を女の子扱いしてくれているのか、はたまたただ本が好き同士で未だに仲が良い幼馴染だから気安いのか。私はその答えに何年もたどり着けていないし、怖くて道のりを探すこともしない。


 優しくて可愛いことに何も返せず、椅子に座りなおすフリで話を流した。


 橋岡くんのガタイが良くなりヒゲが生えてニキビが出来た時は安心した。私の隣に天使がいていいわけがない。


 目の前の水色の箱に視線を戻す。読書会に関係している、と。


「箱の中身、難しいな」


 少し振ったところで分かりやすい音はしない。わずかに何かが動く感触がするだけだ。


 橋岡くんは、カバーのかかっていない文庫本と私を交互に見ていた。桜の木のイラストと、いかにも恋愛ものといったタイトル。淡いピンクの世界ばかりの表紙が私に向けられている。


「その『いかにも泣けるヤツ』、前も読んでなかったっけ」


 話題になったのは映画化が決定した半年ほど前だが、橋岡くんはそれより前に読んでいたはず。


「うん、たまに読み返したくなるんだ」


「そう」


 私は、一度読んだ小説はほとんど読み返さない。二度読み必死と謳われていてもだ。最初の感動を超えるなんて、出来るはずもないから。




 現在高校3年生、あらゆる初めてを経験している。


 初めて読んだ本に感動して読書家になったけれど、あの小学5年生以来、あれ以上の感動はない。


 何冊読もうと、どれだけ素晴らしい内容であろうと、母が夕飯を作る音を聞きながらダイニングのテーブルで読んだ同世代の子供たちが冒険する話には敵わない。


 そんな初めてがどんどん減っていくのだと思うと、この先の人生が長く退屈なものに思えて仕方がない。80まで生きるとして、あと62年。長すぎる。


 18年の人生の中で、中身が秘密のプレゼントは初めてだ。私は興奮を抑えながら、箱をじっと眺めていた。




「じゃ、読書タイムね!」


 橋岡くんは、手にしていた本を広げた。しおりは挟まれていなかった。


「え、箱のヒントは終わり?」


「終わりです。ほら、ありちゃんも本出して」


 明るい声で橋岡くんが告げると、私たちの間には沈黙が流れる。沈黙だけど、言葉が無数に溢れる時間だ。


 私もトートバッグ内から本を取り出した。橋岡くんと真逆の、サイコホラー小説。昨日発売の新刊だ。


 箱が気になるものの、本と入れ替えるようにトートバッグにしまった。




 ここからは、活字の世界だ。日常で味わえる事、味わえない事、空想の産物を享受出来る唯一無二の時間。


 紙の世界にとろけるように、没入するけれど、頭が冴えていく。周りの情景が目に入らず頭も体もが現実感をなくす感覚だ。自分の指が無意識に紙をめくる。読んでいる場所がどこで、自分が誰なのか、当たり前に抱く感情を手放せる。


 手にしたミックスベジタブルジュースに、氷のかけらすらないことに気が付き、現実に帰る。


 時間がどのように経過しているか、本の中にいるとまるで感じない。そういえば文字が見えにくいな、と思うと、外は薄暗くなっていた。




 私は本にしおりをはさみ、深呼吸をして現実に戻る。


 薄暗くなった頃合いで、なんとなく、この読書会は終わりを告げる。制限を設けるわけじゃないけれど、数を重ねていくうちにその空気感になっていた。


 肩に力が入っていたようで、少し肩が凝っていた。


「どう? 面白かった?」


 橋岡くんは残ったカフェラテを飲み切ってから私に問いかける。


 私は読んでいた本をトートバッグにしまってから、先ほどまで一緒に主人公と過ごした緊迫した時間を振り返る。


「描写に圧倒されるのはいつものことなんだけど……でも、今のところはそこそこ、って感じかな」


「ありちゃんからしたら、最初にその作家に出会った作品以上のものなんてないでしょ」


 苦笑いをしながら、でも否定することなく橋岡くんは頷く。


「そういうもんでしょ。橋岡くんは?」


 ここで言い争うことはない。橋岡くんを困らせたくないから、私は話題を変えた。


「1回目、2回目ともまた違う感じ方ができているよ。ストーリーを追うこと、登場人物の内面を知ることだけでなく、この世界の匂いとか、色を感じられるようになってきた」


「匂いか」


 もちろん、描写として描かれていれば感じられる。でも、書いていない文章から何かを感じたことはない。その感想は私にとって新鮮だ。


 映画を観た後は、観た者同士で感想を言い合える。本は孤独だ。読むペースは違うから読み終えてすぐの感想を言い合うことはしにくい。


 橋岡くんの充足した表情で本の内容を語る姿を見て、この会を継続して開催できて本当に良かったなと思える。好きなジャンルは違うから、内容については語れなくとも。


「困難があっても、二人で乗り越える。それが、人と人が好き合う理由なんだって思えるんだ」


「本当に好きなんだね」


 読む本は違うとしても、作品を愛する時間を共有できる。そういった相手がいることが幸せだ。


「うん、好きだよ!」


 その言葉に、私は目を合わせることができなかった。机に残された空っぽのグラスを見つめる。ただ、本が好きだって話なのに落ち着かなくなってしまう。


 橋岡くんは、荷物をまとめ始めた。


「じゃー帰ろっか」


「えっ、箱のヒントは? もうひとつくらい教えて」


 立ち上がりかけた橋岡くんに、慌てて尋ねる。橋岡くんは「あー」と、まるで忘れていたかのような口ぶりで答えた。


「僕の好きだけど嫌いな事に挑戦しましたー」


「それだけ?」


 しましたーって可愛く言われても。可愛いけど。


 橋岡くんの好きだけど嫌いな事。好きなものは活字や甘いもの。じゃあ、お菓子だろうか。でも、嫌いな事って。


「続きはまた、次回の読書会でね」


「一か月も待たされるの」


「中身がわかるまで、絶対に開けちゃダメだよ」


「鶴の恩返しかよ」


 私の言葉に、橋岡くんは肩をすくめながら微笑んだ。


 開催は、月に一回ほど。また本を持ち寄って、同じ時間を共有する。


 橋岡くんは文字を打つのが好きではないらしく、スマホのメッセージにはあまり返事をくれない。活字中毒だから、どんなに長文でも絶対に目を通し、次回の読書会で返事をくれるけれど、予定をすり合わせる以外のやりとりはない。


 だから、次にコミュニケーションを取れるのはまた一か月後だ。


 彼は恋人ではないのだから、これくらいで充分。








 帰宅して、私は箱を自室のテーブルの上に置いた。じっと見ても、透視能力が生まれるわけでもない。何も代わり映えはしない。


 小学生までは、お互いの家で読書会をしていた。読書会と言えないような、二人が同じ空間にいるのに会話をせずただ本を読んでいるだけの時間だ。


 学校が別になった高校生になってから、なんとなく、男女が密室空間にいるなんて不健全では、と思うようになってきた。


 恋人じゃないんだから。橋岡くんに彼女ができたら気まずいし。私には……できる気がしないけれど。


 読書会は月に一回。


 家が近いから頻繁に会えばいいのだが、お互いの生活に支障が出ないとなると、このくらいがちょうどいいのだろう。


 本は、一人で没頭できるから好き。でも、そこに他人が介入するのもまたいいものだ。


 その会に、水色の箱という異物が投げ込まれた。


 まるでずっと一緒にいたかのように、箱は私の部屋で鎮座している。開けてはいけないと言われると、めちゃくちゃ開けたくなる。


 とりあえず、振る。


 もそもそとした、紙や布のようなものがわずかに動く音がするが、それだけ。カフェで知った以上の情報は何もない。


 ヒントは読書会と、橋岡くんが好きだけど嫌いな事。


 ……私の眉間に力がこもる。食べ物か、本か。その二択だろう。しかし、それ以上の決め手はないし壁にぶち当たった気分だ。


 私は箱の前で腕を組み、しばし考える。


 読書会に関係するなら、本だよね。でも本にしては軽い。紙が数枚しか入っていないような。


 そこで、橋岡くんの嫌いな事を思い出す。


 まさかと思いつつ、そう思ったらそれ以外ないと確信してしまう。




 もういいや。開けちゃえ。


 そしてスマホを取り出し、橋岡くんにメッセージを送った。


『中身がわかりましたので、開けます。』


 事前に報告すれば開けていいだろう。一か月後なんて待てない。私は銀色のリボンを解いた。


 少し自棄になっていたはずだけど、いざ開けるとなると途端にもったいなさが湧いてくる。


 こうしてサプライズでプレゼントされたものを開封する女性は、小説の中で何度も読んだ。


 どれだけ素敵な描写をされようが、どこか実感のわかない行動。


 自分が文学のなかに生きている、そう感じられて、箱のふたを持つ手が震えた。


 ああ、もっとこの大切な初めてを堪能すれば良かったなと、心のどこかで思うけれど、手はせっかちにもリボンを解いた。


 紙の擦れる音がして、箱の中身が目に入る。千切りにされた白い紙の緩衝材に包まれていたのは、紙の束だった。


 その途端、スマホの着信音が鳴る。橋岡くんからの電話だった。


 現実に引き戻された私は、無機質な音を止めて耳にあてる。


『やめてぇ開けないで~!』


 情けない声が届く。私は無視して、紙の束をめくった。


『ありちゃん聞いてる? ねぇってば!』


「聞いてるよ」


『開けちゃった?』


「開けた」


『当日に開けちゃうことないでしょ!』


 あーあ、とがっかりした声も、私の耳にはあまり届かなかった。


『ねーありちゃん。聞いてる?』


「橋岡くん、感想は一か月後に言うね」


 ええー待てないーと言う声を無視して、私は電話を切り文字を追う。仕返しだ。


 答えは、一か月後じゃないと出せない。再び着信音が響くが、無視した。








 それから数週間後、私は読書会の開催日のお伺いをたてた。感想を伝える日だ。


 スケジュールはうまく組め、問題なく私たちはいつものカフェで読書会を開いた。


 しかし、今日はいつも通りに事が進まない。橋岡くんはずっとそわそわして、私からの言葉を待っていた。


 それが面白くてあえて切り出さずにミックスベジタブルジュースを飲む。


「ありちゃん、なんか言ってよ」


 泣きだしそうな顔で、橋岡くんはストローを口に入れたままこちらを睨む。まるで迫力がないけれど、私はニヤつく顔を必死に抑えた。


「見たんでしょ? どうなの?」


「見ました」


 爽やかな野菜とフルーツの風味が口の中を抜けていく。しかし、橋岡くんはまったく爽やかでない。


「それは、僕が正解って言ったら開けるもんじゃん」


 不服そうだが、それがとても可愛らしい。エサを貰えなかった犬のようだ。


「じっくり、読みました。橋岡くんの小説」


 小説、という言葉に、橋岡くんは顔を赤らめ俯いた。


 そうそう、この表情が見たかった。


「ヒントは読書会と、橋岡くんが好きだけど嫌いな事。それは活字。だから、私は橋岡くんが何か書いてくれたのだと思って開封しました」


 なんとなく、敬語になってしまう。私もいつもとは違う気持ちだ。


「幼馴染と一緒の時間を過ごしているうち、いつからか女性として見るようになった男の人の物語……という解釈でいい?」


 9枚の紙に印刷された短編は、正直言って読めたものではなかった。誤字が多いし、まとまりのない文章だらけ。


 けれど、橋岡くんの一生懸命さは伝わった。苦手な事に挑戦してくれた。


 私のあらすじ紹介に、橋岡くんは答えずガムシロップ入りで生クリームとチョコレートソースの乗ったカフェラテを飲むだけ。


 私も無意識にジュースを口にする。




 店内のジャズは曲間で、数秒の沈黙が流れる。


 今日はいい天気だなぁと店の外を眺めた。


 そろり、と橋岡くんは顔をあげる。私をじっと見つめて、また俯く。


 私は箱を開けて、わざとらしく紙の音を立てながらめくる。


 また橋岡くんは顔をあげる。


 顔が赤い。耳まで赤い。




「ね、ありちゃん。感想は?」


「文章はとても読みにくい。句読点がやたら多い。話もキャラクターも個性が無い、って感じかな」


 私の答えに、ぶんぶんと首を横に振った。


「そういう小説の作法の話をしているんじゃなくて!」


 ここで、私はこらえ切れず噴き出した。


「ごめんごめん、橋岡くんが可愛いからいじめちゃった」


「いじめないでよ!」


 泣き出しそうな顔なのに、怒っている。でも本気で怒っているんじゃなくて、ジタバタ暴れる子供みたいで愛らしい。


「橋岡くんが恥ずかしいのと同じように、私だって恥ずかしいの。だって、「これは私と橋岡くんの話で、橋岡くんの気持ちなの?」って聞いて、勘違いだったら嫌だもん」


 言ってしまった。動き出してしまった。


 そうわかって、私の鼓動も早くなる。こういう緊張を味わうのも初めて。


『勘違い。ありちゃん何言ってるの?』


 橋岡くんのとぼけた返事が聞こえてきそうで、読書会までの一か月は長く感じられた。




 今度は私が俯く番。さっき、いじめなきゃよかったな。


 グラスについた水滴を指で拭う。


 空席だった隣のテーブルに人が来る。


 言葉を返して欲しいのに、その時間がなかなか訪れない。


 まだカフェラテは残っているのに、じゅっと音をたてて橋岡くんが勢いよく吸い込んだ。


 思わずびくっとして私は顔をあげた。




 ようやく、私の顔を見てくれた。私がそらしたくなるけれど、我慢。


「活字中毒なのに、自分の気持ちを表現したり、文字を書いたりすることが苦手な僕が頑張ったんだよ」


 いつもより、低く響く声に私は息が詰まる。


 毛糸がころころ転がるような、軽やかで落ち着きのない声ではない。大人の男性のような声だった。


 一瞬だけど目を合わせ、橋岡くんはまた俯いてしまう。


「ずいぶん遠回しな告白ということで、いいかな」


「そうだよ!」


 また、ふわふわした声と表情に戻る。だけど、私の知っている幼い橋岡くんだけではなく、大人な一面を持ち始めた。ニキビやヒゲは身体的な面だけど、精神的な面でも。




 体の力が抜けたけれど、まだ私のやるべきことは終わっていない。


「私からも、これを」


 持っていたトートバッグに手を入れる。


 中から黒い箱を取り出して渡した。大きさも重さも、橋岡くんが渡してくれた箱と同じ。


 違いは、リボンはかけていない事。うまく結べなくて、シワだらけになってしまったからやめた。橋岡くんみたいに丁寧に出来なくて、ちょっと落ち込んでしまったけれど、言わなければバレない。


「中身を当てたら、開けていいよ」


 受け取った橋岡くんは、目を丸くして確かめるように私に問い返す。


「幼馴染の男に告白されて、友達でい続けるか付き合うか迷う女の子の話?」


 こういう時、さらっと正解を言えるのが橋岡くんの前向きなところだろう。私が憧れる部分だ。


「その子がどのような結果を導き出したかは、小説を読んでね」


 初めて小説を書いた。上手く書けたかと言うと、まるで自信はない。


 初めての経験で楽しかったけれど、やっぱり読む方がいい。


 それからしばらく、橋岡くんは箱を開けようとしてやめたり、机につっぷしてカフェラテをこぼしそうになったりと、騒がしい様子だった。


 見ていて面白い。




 誰にも見せたくない。橋岡くんの隣にいていいのか、相応しいのか考えたけれど、良し悪しじゃない。


 一緒にいたいだけだ。


 まだ見たことのない世界を、橋岡くんと一緒に経験したい。


 私の出した答えに、橋岡くんはいつ、たどり着いてくれるだろうか。






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