第5話 女子力

         『女は何歳になっても女である。』


このとても面白いことばを私は病院で思い知らされることになるとは思わなかった・・・

ガタイが良くとても男らしい男性理学療法士とベッドから車いすへ移乗する時でさえままならないがとても元気な90歳のおばあちゃんのお話。


おばあちゃんは、膝を痛めており、入院直後はベッドから車椅子にのることさえできなかった。しかし、毎日の賢明なリハビリで少しずつ自分でできることが増えてきた。1か月後には一人で車いすに乗ることができるようになった。

おばあちゃんは「私の先生」ととても嬉しそうに理学療法士のことを毎日私に話をしていた。


ある日の朝の洗面時のことである。おばあちゃんは、普段は顔を拭くタオルで顔を拭き、歯磨きを5分程度で済ましていたが、その日はとても時間をかけて行なっていたため、様子を見に行くと私は目を見開いた・・・


なんと、ファンデーションを塗り、唇に真っ赤な紅い口紅をして、眉毛を描き、チークをつけていた!!!!


確かに、たしかに、お化粧は女性のたしなみである。

だが、しかし!!

おばあちゃんのばっちりメイクに比べて私はと言うと、明けのすっぴんで目も当てられない顔であり女子力の高さを目の当たりにしてしまった。

「お化粧をされてどうされたのですか?気分転換ですか?」


「何を言っているの、あなた。私は女よ!化粧は女性のマナーでしょ。」

ごもっともなことを言われてしまい、あっけにとられてしまった。

「そうですね、でも、この間まではお化粧をされていませんでしたよね?」


「この間はこの間よ。今日は朝からあの方に会うことができるのよ。お化粧をしないなんて罰が当たります。」

入院中の患者さんでご高齢でしたらなかなかばっちりなお化粧をされる方は少ないかと思われますが・・・。

「あの方・・・とは?」

「私の足を歩けるようにしてくれた先生よ。私は人生で2度目の恋に落ちたの。亡き旦那がいない今好機だわ。」

いやいや、恋に落ちるのは勝手ですが、好機って・・・


このおばあちゃんは最終的には驚異的な回復力をみせ一人で歩けるまでになった。


・・・愛とは偉大である・・・



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