第3話 夫婦っていいな

 80歳後半のおじいちゃんが足の手術をして、自分で歩けるようにするためリハビリ科に入院してきた。妻と二人暮らしで、とても明るい夫婦で2人でいるときには笑顔や笑い声が絶えない楽しそうな姿が見られた。

 病院での生活では年齢的な物忘れがあったが、入院期間が1か月を過ぎた頃に感情が不安定になり、突然悲しくなって泣いてしまうことや、怒りっぽくなってしまうことが多くなった。また、今までは一人でできていたこともだんだんとできないことが増え、検査をすることとなった。検査の結果、アルツハイマー型認知症と診断され、少しずつ少しずつ日常生活での動作ができなくなる病気になった。

 奥様は診断を医師から聞いた時にはとてもびっくりした表情をして言葉をなくし、いつも見られていた表情は消え、ふらふらとその日は帰った。

 おじいちゃんは、日々の生活ではシルバーカーを使って躓くことなくゆっくりと歩くことができていた。しかし、自分が何で入院しているのかが理解できていなく、環境が変わったことにより奥様がいないこと、娘や息子家族がいないことや自分の家ではないこととても不安になり毎日のように

「家に帰りたい」

と泣いていた。退院先を決めるため、何度も話し合うこととなり、老夫婦2人の生活で、いずれ共倒れになってしまうことが予測できたため施設をすすめた。しかし、本人は当然家に帰ることを望んでいた。

そして、奥様が


「私もこの人が家に帰ってきてほしいです。40年間この人と連れ添って、私はとても幸せでした。この人は私の為にいつも頑張ってくれていて感謝しているんです。この人が家に帰りたいと泣いてまで望むのであれば私はこの人の思いを尊重させたいんです。だって私の世界で一番の愛した人だから、私はその覚悟があって今お話をしています。共倒れになるかもしれません。でも、それでも、私はこの人と自分の家でできる限り一日一日を大切に思いながら生活をしたいんです。喧嘩したっていいんです。それもこの人との良い思い出になります。」


と話された。その言葉から二人が安全に生活できるように、ケアマネージャーと話しあい、自宅退院の調整を行った。

私は、奥様からあそこまでの言葉を聴くことができたことにとても感動した。こんなに相手のことを大切に思い、一緒にいたいとお互いが懇願する夫婦は何人いるのだろう。そしてそれを実現できる夫婦が何人いるのだろう。おじいちゃん、おばあちゃんになったとき、自分に何が残るのだろうと考えた。相手といたいとつながっていられる幸せを大切にしていきたいと思った。私も将来、このような相手と出会い、お金ではなく、目には見えない『愛』で相手を包みたい、そして私にとっての世界一の旦那様に出会いたい。こんな夫婦に私もなりたいと心から思った。願わくば、今付き合っている方が旦那様でありますように・・・

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