第8話 四つ葉のクローバー

アーベルと私は、昼食を取ってから庭を歩いた。

アネモネや薔薇、パンジーなど、お気に入りの花が支柱に咲いている。


「とはいえ、お前と一緒に歩いても、全く面白みがない」


アーベルは苦笑して、


「僕も全く面白くないね」


と、ひねくれたことを言うだから、実に不愉快で、夜まで歩くのは正気かと思った。


「けども、君が本当に気に入っているのは、アネモネや薔薇ではない」


そう言うなり、いきなり私の腕をつかんだ。


「何をする、無礼者」

「取って食やしないさ」


アーベルはそのまま、私を邸の隅の、日陰に誘いこんだ。

そこにはシロツメグサがただびっしり並んでいる。

アーベルは屈んで、そこをうろついた。


「何をやっているのだ」

「四つ葉を探しているんだ」


なんとまぁ、呆れたことか。


「四つ葉はこういうかげっているところに密集しやすい、お、あった」


アーベルはそう言って、葉を摘んだ。

そして、四つ葉のそれを私に渡した。


「はい」


私はそれを受け取った。

すると、それはアーベルの工作だと知れた。

三つ葉にひとつの葉っぱを付け加えただけであった。


私は不意に、笑ってしまった。

それを隠すように、口元を覆ったが、顔は真っ赤だった。


「やっぱり君は可愛いね」


あえて、言葉は返さなかった。

大魔女のこの私を、人間風情が手籠めにとるとは。


しかし、私の中の彼への対抗心は、消えうせていった。

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