第7話 たくさんのもの

 アーベルは一晩縛りあげておいたが、解放した。


 翌朝。非常に退屈していたので、アーベルとチェスを指そうと思った。


「アーベル。私の相手をしろ」


 そう言って木製のチェス盤をつきつけた。


「さすが魔族だね。高級品だ、これは」


 魔族というのは魔物の貴族のことであるからして、彼の嫌味たらしい意味はそこに込めてある。


「お前が勝ったら何か望むものをくれてやろう」

「ふーん。強いんだ」


 アーベルは反対側の席に座して、駒を並べるとき、


「白ってクイーンとキングどっちが右左だっけ?」


 私は辟易した。

 ところが。


 私は決してチェスは弱い方ではなかった。

 にも関わらず、彼は私より3手先まで読んでいるのが分かった。

 あれよあれよとポーンを崩され、あろうことか簡単にクイーンを取られてしまった。


「……チェックメイト」

「……私の負けだ」


 アーベルは腕を組んで勝ち誇った笑みを浮かべた。


「さて、何をお願いしようか」

「いいか? 調子に乗るなよ。何でもとは言っていないからな、何かと言ったのだからな?」


 するとアーベルは肩をすくめ、


「君は、たくさんのものを持ちすぎているんだと思ってたよ」

「どういう意味だ」

「君は物惜しい人なんだ。多くの物を持っているくせに、本当に渡したくないものは、極端に少ないんだね」

「…………」


 ……この男。


「僕の願いを言おうか──」


 私はどぎまぎしていた。アーベルの答えは。


「──夜まで庭を歩こう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る