第6話 不意の接吻

 アーベルに紅茶を淹れるよう簡素な紅茶セットを用意した。しかし、メイドにやらせれば万事うまく事が運んだのではないかと後から気づき、自分の律儀さに赤面した。

 アーベルは静かに音をたてず紅茶を飲んだ。育ちがよいのだろう。


「あなたは奴隷と同等の扱いを受けると思え。父親を恨むことだな」

「…………」

「黙っていないで何か答えろ。罰をあたえるぞ」


 彼は爽やかな笑顔を見せた。


「……私を恐れていないようだな。よろしい。罰を与える」


 とうとう私は魔法を使うことにした。そして、指をたぐりよせて魔力の波動を集めて、彼に軽い電流を流した。


「っ……!!」


 アーベルは感電し、椅子から崩れ落ち、倒れた。


「愚かな男だ。分かったか。これにこりて私を満足させることだけ考えろ。でなければ拷問に等しい罰を与えてやるからな」

「…………」


 アーベルは以前沈黙を守ったままだ。なんと面妖な男だろう。私が彼の髪を掴んで起こした、その時だった。


 アーベルは、いきなり立ち上がった。

 そして私の胸ぐらをつかみ──


 私の唇を、奪った。


「……可愛いね」


 アーベルは静かに言った。

 私は憎悪の念が燃え上がり、彼を念動魔法で壁に叩きつけた。


「……貴様、まさかいままでこの状況を楽しんでいたのではあるまいな?」

「……大正解」


 アーベルは苦し紛れにそう言いつつも、笑みを崩さなかった。


「……君にかける最初の言葉は決めていたんだ。『可愛いね』ってね」


 この……男……。

 大魔女としての威厳は決して崩してはいけない。


「おい、この男を水責めにしろ。拷問部屋に連れていけ」

「はっ」


 その場にいた執事にそう命じ、アーベルは1時間ほど、水の責め苦を味わうこととなった。


 しかし、私の屈辱は、まったく収まらなかった。

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