第5話 無言の人質

思いあぐねていたことがある。

この人質を、どうしてやろうかということだ。

性奴隷にするのもいいだろう。

洗脳して教団に売りつけるのも一興。


私はアーベルをソファに寝かせ、首輪をつけた。

この首輪には魔法がかかっていて、敷地外の外に出ようとすると電流が流れるようになっている。ご都合主義もいいところかもしれないが。


朝を迎えた。

私は起き、アーベルの頬をぺちぺち叩いた。


アーベルはおもむろに目を開け、あたりを見回した。


「…………」

「おい起きろ、私は魔女のララ・オーディン。説明はいるまいな?」


アーベルは何も言葉を返さなかった。


「お前は父親の口止めのための人質になっている。向こうの応対次第ではお前を殺すこととなる。残念だったな」

「…………」


何も答えない。

普通、自分は何をすればいいのか、と聞くものではないだろうか。

自分の処遇について、知りたいものではないだろうか。

変わっている。

アーベルがろう者であるという情報は一切ないはずなのだが……。


「いいか、私から逃れられると思うな、この首輪に繋がれている間はお前は私と行動を共にせねばならぬ」

「…………」


私は自分の羞恥心に苛立ち、アーベルに拷問のとき用いる魔法をかけてやろうかと思った。しかし、あえてせず、


「私のティータイムに付き合ってもらおう。茶の淹れ方は分かるだろう?」


そのときだった。


アーベルが満面の笑みを初めて浮かべたのだ。

私は思わずどきりとした。

私の中で、この男の輪郭の切り取り線が切断されたような、そんな変な心境だった。

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