第5話 無言の人質
思いあぐねていたことがある。
この人質を、どうしてやろうかということだ。
性奴隷にするのもいいだろう。
洗脳して教団に売りつけるのも一興。
私はアーベルをソファに寝かせ、首輪をつけた。
この首輪には魔法がかかっていて、敷地外の外に出ようとすると電流が流れるようになっている。ご都合主義もいいところかもしれないが。
朝を迎えた。
私は起き、アーベルの頬をぺちぺち叩いた。
アーベルはおもむろに目を開け、あたりを見回した。
「…………」
「おい起きろ、私は魔女のララ・オーディン。説明はいるまいな?」
アーベルは何も言葉を返さなかった。
「お前は父親の口止めのための人質になっている。向こうの応対次第ではお前を殺すこととなる。残念だったな」
「…………」
何も答えない。
普通、自分は何をすればいいのか、と聞くものではないだろうか。
自分の処遇について、知りたいものではないだろうか。
変わっている。
アーベルがろう者であるという情報は一切ないはずなのだが……。
「いいか、私から逃れられると思うな、この首輪に繋がれている間はお前は私と行動を共にせねばならぬ」
「…………」
私は自分の羞恥心に苛立ち、アーベルに拷問のとき用いる魔法をかけてやろうかと思った。しかし、あえてせず、
「私のティータイムに付き合ってもらおう。茶の淹れ方は分かるだろう?」
そのときだった。
アーベルが満面の笑みを初めて浮かべたのだ。
私は思わずどきりとした。
私の中で、この男の輪郭の切り取り線が切断されたような、そんな変な心境だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます