第4話 誘拐

深夜2時。

私は夜汽車に乗って首都へ向かっていた。

乗客は私を除けば3人程度しかいないようだった。

空を飛ぶこともできないことはないが、警備の厳しい夜に魔力の波動を察知されれば計画は頓挫されてしまう。


汽車を降りると、灯に照らされた首都が見えた。私はそこから、馬車を引いて移動し、ついにはグスタフ一家の家へと向かった。


家の前で、私は深呼吸し、両手に闇の粒子を纏わせ、それを家に向けて放った。

二階の窓の鍵は外され、開いた。

私は静かに空中浮遊し、アーベルの部屋に入っていった。


アーベルの部屋は本が多いのは当然だったが、額縁に収まった絵画やチェスボードなど、娯楽品も多かった。私は指先に小さく火をともし、アーベルの顔を確認した。


炎髪にすっと通った鼻筋。引き締まった唇、毛の薄い顔。

なかなかの色男に見えた。きっと大学の女学生をたぶらかしているのだろう。


寝返りをうったアーベルを、起こさぬよう、火をともしていない方の手で魔法をかけ、眠りを深くし、彼を抱きかかえてそのまま窓から飛び下りた。


地上では、松明を持った警官がちらほら見受けられた。どうやら魔力の波動を察知した者が通報したらしい。


「魔女はどこだ!?」

「あっちか!?」


いかにも、私が魔女である。

私は魔力の気配を消し、見つからないようにロータリーへ向かい、御者を待った。

そこへ警官が現れ、


「病人ですかな?」

「ええ、そうよ。私の恋人なの」


アーベルのことを警官は病人と言う。

私は不本意ながらアーベルを恋人と言う。


警官は、慇懃無礼にお辞儀をして去っていった。


「恋人……か」


私ははっと我に返って、赤く染まった顔を、腰に下げた水筒の中の酒でごまかした。

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