鬼の怒りがマックスフレア


 王都ロシュオームはアンダーヘイム最大国の都なだけあって広大だ。

 闘技場やカジノ、娼館といった娯楽の場が集まる歓楽区はきらびやかな灯りに照らされ夜も騒がしいが、表通りからは切り離されて喧騒も遠い。

 そのため表通りは静寂に包まれ、住民たちも穏やかな眠りに包まれていた――が。


 突然の轟音。破壊音。

 家が揺れるほどの音と震動に付近の住民が飛び起き、何事かと家から顔を出す。

 そして彼らは見た。

 屋根の吹き飛んだ民家。立ち昇る煙を突き破って表通りに降りた影。

 異形の兜を被った、鬼面の騎士を。


「――クソッ。あの馬鹿どもめ……!」


 鬼面騎士、ゴブリンナイトは崩れ落ちる家を見て苛立ちも露わに毒づいた。

 その両腕に抱え、背中にも背負っているのは、状況が呑み込めず目を白黒させている三人家族。崩落に巻き込まれるところだった、あの家の住人だ。


「あの、ありが……ひぇぇぇぇ!?」

「ば、バケモノ!?」

「パパ! ママ! ちゃんとお礼言わなくちゃ――」


 下ろしてやると、三人家族はゴブリンナイトの姿を見て一斉に逃げ出した。

 五、六歳くらいだろう子供が礼を言おうとしていたが、家が潰れた責任の半分は自分にある。どの道感謝は受け取れなかった。

 ゴブリンナイトは瓦礫の山となった家の向こうを睨みつける。

 すると、主犯が屋根を飛び越えて姿を現した。


「待ちやがれ、このコスプレ野郎!」

「ふっ。高潔な騎士の屋敷を襲撃した悪党め……お前は、俺が裁く!」

「今度こそ俺の必殺技でワンパンしてやるぜ!」


 一目で一級品とわかる装備に身を包んだ、しかし締まりがない顔のせいで服に着られている感が否めない三人組の少年たち。いずれもその顔には見覚えがある。

 ゴブリンナイト――浩介のクラスメイト、一年C組の面々だ。

 どこから聞きつけたのか、あるいは偶然出くわしただけなのか、警備隊に加えて彼らまでゴブリンナイトに襲いかかってきたのだ。


 当然ながら彼らもEXスキル持ち。ここまで見た攻撃手段と、立夏から聞いていたクラスメイトの話と照合するに次の能力だろう。

 石や金属といった鉱物の形状を、触れただけで自在に変えられる【錬鉱術EX】。

 自分と一緒に成長する、分身がごとき霊体を使役する【分霊使いEX】。

 シンプルかつ強力、「剣」に関連する全てのスキルを獲得できる【ソードマスターEX】。


 召喚されて以降の四ヶ月間、全く関わりがなかったので彼らの名前も覚えていない。スキル名で呼ぶのも長いので便宜上、順に「豆チビ」「学帽」「ヤマト」と呼ぼう。特に深い意味はない。ないったらない。


「あいつをぶっ倒すのは俺だ! 【錬成】!」

「抜け駆けは許さん! 【スピリットブースト】! 行け、《シロカネ》!」

「褐色美女エルフにいいとこ見せるぜ! 【スラッシュウェーブ】!」


 道路の石畳より生成された岩石の砲弾が、赤いオーラで強化された鎧姿の分霊《シロカネ》の拳が、怒涛のごとく押し寄せる斬撃の波が、一斉にゴブリンナイトを襲う。

 豆チビの戦技はEXスキル由来のものだが、学帽は【精霊術】スキル、ヤマトは【剣術】スキルから得た戦技だ。


 浩介たち異世界召喚された地球人は規格外のEXスキルに目覚めているが、なにもそれ一つきりしか所持していないわけではない。

 たとえば京太なら【勇者EX】の他に【剣術Ⅷ】【魔法適性Ⅶ】【光精霊の加護Ⅴ】……といった具合に、EXスキルに則した種類のスキルが、それも最初から高いレベルで身についている。アンダーヘイムの住人は皆、レベルⅠから鍛えるのが普通なのだ。

 ちなみに、浩介の所持スキルは【鑑定眼Ⅵ】【速読Ⅴ】【発想Ⅷ】といったアイテム開発の役に立ちそうなものばかり。それと何故か【毒素耐性Ⅹ】なんてものもある。


 ゴブリンナイトの前に立ちはだかるクラスメイトたちも、戦闘スキルはレベルⅦ。素人同然の高校生が、王都を守る準英雄級の警備隊長といきなり同格の力を手に入れたわけだから、これだけでも十二分にチートだろう。

 では、対するゴブリンナイトの戦闘力はどれほどか。


 スーツに組み込まれた《戦士》系スキルはレベルⅢ。

 スフィアに宿る《グレムリン》のアビリティはレベルⅡ。

 避ける素振りも見せなかったゴブリンナイトは岩塊が直撃し、シロカネの拳に殴り飛ばされ、斬撃の波を全身で浴びた。

 結果――


「よっしゃあ! 今のは俺の攻撃で仕留めただろ……はあ!?」

「馬鹿言うな、俺のシロカネのラッシュが決め手……げぇ!?」

「な、なんで俺の戦技が効いてないんだぜ!?」


 無傷。完全なる無傷。

 同レベルであるファムの戦技が通じなかったのだから、当然の結果だ。

 ゴブリンナイトのパワーは、推定レベルⅧ相当。

 足し算どころかかけ算にも収まらない爆発的パワーアップを、スキルとアビリティの化学反応が引き起こしているのだ。


 そしてなにより、クラスメイトたちの戦技は。ファムのように芯まで響くような重みも鋭さもなく、ただ与えられた力に乗っかっているだけの稚拙な攻撃だ。レベル差の壁に阻まれ、スーツの表面で威力の全てが霧散してしまう。

 正直なところ、クラスメイトたちの参戦は大した脅威にならなかった。むしろ警備隊の連携を妨げる邪魔にしかなっていない。

 ただ、ゴブリンナイトにとって厄介な問題が別のところにあった。


「きゃあ!」


 外れた斬撃の一発が、傍観していた人々の真横を斬り裂く。


「うわ!」


 シロカネが砕いた岩塊の破片が、住人の頬を掠めて壁に突き刺さる。


「ひぃぃ!」


 砲弾とそれを撃ち出す大砲を作るため、体積を持っていかれた道路に穴が空く。

 クラスメイトたちの攻撃はゴブリンナイトに通じずとも、周りに甚大な被害をもたらしている。しかも彼らは周囲の被害などまるで顧みず、威力に比例して規模も大きい強力な戦技をポンポン乱発してくるのだ。

 ゴブリンナイトがこうして表通りに追いやられたのも、狭い裏路地では余計被害が拡大してしまうために止む無くだった。


「止めるんだ、お前たち! こんな人が集まっている状況で戦技は……!」

「おっ、エルフのお姉さん!」

「まあちょっと見ててくださいよ!」

「ゴブリンナイトだかなんだか知らないが、俺たちにかかれば!」


 ファムの制止も全く耳に入らない様子で、褐色美女エルフの前でいい格好をしようと躍起になるクラスメイトたち。

 これ以上、彼らに戦技を撃たせては流れ弾で被害が広がるばかりだ。

 こうなったら接近戦に持ち込み、直に戦技を受け止めるしかない。

 しかしリミッターをかけたままでは受けきれず、リミッターを外せば怪我をさせるだけでは済まないだろう。


「こうなったら、新装備を試すか」


 小さくひとりごち、ゴブリンナイトが取り出したのは一本のダガー。

《スフィアダガー》よりも一回り小さいそれは、投げナイフに近いサイズだ。スフィアダガーと違って刀身に宝玉は嵌まっていない。その代わり、刀身そのものが宝玉と同質の結晶で形作られていた。


 名称は《エンチャントダガー》。

 これはスフィアを元にアビリティの術式を解読したローザが、魔物の落とす爪や牙といった素材から抽出できる分の術式を、機能するよう組み立て直して移植した代物だ。


 スフィアダガーと違い、発揮できるのは元となった魔物の力のごく一部分だけ。しかしこれを使えば部分的かつ単発ながらも、攻撃などに上位の魔物の力を付加エンチャントできる。

 リミッターをかけた状態で使えば、丁度レベルⅦをあしらえる塩梅になるだろう……とはローザの言。なにせできたて故にぶっつけ本番だが、物は試しだ。


「褐色美女エルフとフラグを立てるのは俺だ! 行けぇぇぇぇ! シロカネ!」

『ウララララララララ!』


 我先にと飛び出した学帽――の分霊が両拳のラッシュを繰り出す。

 上半身だけで宙に浮かぶ鎧姿のシロカネは霊体らしい身軽さで、他の二人より先んじて距離を縮めたのだ。

 ゴブリンナイトはエンチャントダガーを、ベルト横に追加された専用スロットに装填。


『エンチャント《グリフォン》』


 ベルトが術式を読み込んで専用音声を発し、両足に烈風が渦巻く。

 鎧のようにブーツを包む風は、猛禽類を思わせる鋭い鉤爪を形成した。


「グリフォンクロー!」


 地を蹴って放つ後ろ跳び回し蹴り。

 右足の鉤爪が、秒間何十発という拳のラッシュ全てを一振りで弾き飛ばす。

 勢い止まらずに続く左足の鉤爪が、白金の鎧に深々と爪痕を刻み込む。

 蹴りそのものの威力と、蹴りに合わせて放たれた風の刃に、シロカネはサッカーボールじみた勢いでふっ飛んだ。地面に叩きつけられてバウンドし、高々と跳ねる。


「なに、ぎゃん!?」


 どうやら分霊のダメージはある程度フィードバックするようで、学帽も大きく仰け反った。胸を抑えてゲホゲホと咳き込んでいるが、重傷というほどのダメージでもない。

 この威力なら、クラスメイトたち相手でも大きな怪我はさせずにあしらえるだろう。


「よし、行ける! これなら――あ?」


 もう一発かましてやろうと、エンチャントダガーを一旦スロットから引き抜く。

 が、ゴブリンナイトはアイレンズの下で目を見張った。ダガーが見る間に柄まで灰色に染まり、本当に砂より細かい灰となって崩れてしまったのだ。


「単発って、一回限りの使い捨て式って意味かよ!?」


 まだ試作段階のエンチャントダガーはあと二本しかない。

 これにはゴブリンナイトも焦ったが、反撃の効果は思いの外大きかった。


「お、俺のシロカネがふっ飛ばされるなんて……!」

「馬鹿な! あいつのスキルレベルが、俺たちより上だとでも!?」

「それにグリフォンって……まさかあいつ、魔物の力が使えるのか!?」


 攻撃が効かない上、逆に反撃でふっ飛ばされたのが余程ショックだったらしい。

 クラスメイトたちはすっかり動揺し切っており、その言葉に追いついてきた警備隊も腰が引けている。包囲網に明らかな隙間が生じた。


 今のうちに……と考えたところで首を横に振る。

 ここで全力疾走すれば逃げ切れるかもしれないが、今回に限ってはそうもいかない「事情」があったのだ。


「――わーん! ゴブリンのお兄ちゃーん!」

「あ、コラ! 待て! そっちは危な……!」


 裏路地からの幼い叫び声に、鬼面の下でゴブリンナイトの顔から血の気が引いた。

 表通りに飛び出してきたのは、ボロ布を被ったオバケのようなナニカだ。

 サイズは背丈でいうと低学年の小学生ほど。擦り切れたボロ布に全身くるまっているので中身はわからない。

 唯一、頭に当たる部分から……銀毛の尖った獣耳が飛び出していた。


「ま、魔物だ! 人語を喋る魔物が出やがった!」

「ゴブリンナイトめ、魔物の仲間を連れていやがったのか!」

「人のフリをした魔物……魔人……魔族……ハッ、もしや魔王の手先!」

「魔物だって!?」「あの妙な兜の騎士も魔物!?」「人に化けたゴブリン!?」「イヤー!」


 クラスメイトたちが喚き出したのに触発され、周りの野次馬まで悲鳴を上げる。

 混乱が伝播する中なにを思ったか、クラスメイトたちの攻撃の矛先が、ゴブリンナイトに駆け寄ろうとする布オバケに向けられた。


「俺たちも見たことがない、ってことはレアエネミーだろ!」

「ただでさえ手こずってるのに、これ以上手間を増やされてたまるか!」

「魔王軍の手下め! 人類はこの俺が守るぜ!」

「違う、やめろ! あれは――!」

「この馬鹿どもが――!」


 クラスメイトたちの全力攻撃が、布オバケに襲いかかる。

 布オバケを追いかけていた隊員がヒッと青い顔で飛び退く。

 それと入れ替わりに駆けつけたファムが、布オバケを庇うように抱きしめる。

 ファムと布オバケの前にゴブリンナイトが滑り込み、攻撃を全身で受け止めた。

 大気を震わす爆発音。突風と土煙が盛大に広がる。


「や、やったか!?」

「なあ。今、エルフのお姉さんを巻き込んだんじゃ……?」

「いや待て! あれを見るんだぜ!」


 豆チビはフラグにしかならないセリフを口走り、学帽は遅すぎる気づきに顔を引きつらせ、ヤマトが一番に異変を悟った。


 三人が放ったのは彼らの全力攻撃。それぞれが駆け出し冒険者の関門とされる《ミノタウロス》も一撃で屠れる威力だ。効く効かないは別としてゴブリンナイトを容易く呑み込み、射線上の建物を二つ三つは貫通する規模だったはず。

 しかしそうならなかったのは、攻撃の余波がゴブリンナイトに命中した地点から横に広がったことを見ても明らかだ。


 まるで壁かなにかで阻まれたかのように――そして事実その通りだった。


『エンチャント《シールダー・トータス》』


 ファムと布オバケを庇うように立つゴブリンナイト。

 縦向きに合わせたその両腕を中心に、六角形を敷き詰めた光の壁が展開されていた。

 見渡す限りは終わりが見えないこの障壁が、三人の攻撃を防ぎ切ったのだ。

 おかげでファムと布オバケはもちろん、背後の家々にも被害は及んでいない。


「魔力の、壁?」

「それに今の音声、まさか《シールダー・トータス》の魔力障壁!?」

「やっぱりこいつ、魔物の力を操って!」

「――オイ。そこの馬鹿ども」


 鉄の容器が軋み、歪み、ひしゃげていくかのような重くひび割れた声音。

 鬼面の下から発せられた、静けさの中に激しさが燃える呟きに、クラスメイトたちは凍りついたように言葉を止めた。

 そしてゴブリンナイトの背後、ファムが抱えている布オバケを見て目を丸くする。


 頭を覆う部分の布が剥がれ、露わになった顔は魔物のそれではない。

 その格好や怯えた表情は別として。頭から獣耳が生えている他はなにもおかしいところなどない、普通の女の子だった。


「確かに王都じゃ獣人は珍しい。獣人と言っても体の一部分に耳や尻尾といった獣の要素があるだけで、隠している人もいるからな。だがエルフがいるんだ、獣人もいたって不思議じゃないとは思わなかったのか? あんな、当たれば死んでしまうような攻撃をして」


 うぐっ、と返す言葉もないクラスメイトたち。

 なにも考えていなかったと丸わかりの反応だ。大方、褐色美女エルフと恋愛フラグを立ててあんなことやこんなこと――と脳ミソピンク色の妄想で必死だったのだろう。立夏の話によれば、一年C組の女子は大半が京太たちカースト上位陣や、現地のイケメン冒険者に夢中らしい。漫画のようなフラグを期待して飛びついた気持ちはわからなくもない。

 しかし、彼ら三人のやったことは若気の至りで片づけられる域をとっくに越えていた。


「周りもよく見てみろ。お前たちが無闇やたらに戦技を乱発したせいで、家や道路がボロボロだ。巻き添えで怪我人まで出てる。ここはダンジョンじゃないんだ。上位の魔物相手に使うような攻撃をこんな場所で使ったらどうなるか、想像がつかなかったのか? 簡単に人を殺せてしまう、兵器同然の力を考えなしに振り回しやがって……」


 周囲から注がれる非難の目に今更気づいたのだろう。

 居心地が悪そうに身を寄せ合って縮こまりながら、しかしクラスメイトたちはなおも不満げな顔をした。


「でも、俺たちはその、犯罪者の逮捕に強力しようとしただけで……」

「そ、そうだぜ! お前が大人しく捕まりさえすれば! 全部お前が悪いんだぜ!」

「家や道路なんて直せば済む話だろ? 俺のEXスキルでパパッと――」

「もういい」


 視線を右往左往させながら言い訳を並べる者。責任を全てなすりつけようとする者。当然の賠償だけで自らの非を帳消しにしようとする者。

 その全てを、赤熱を帯びた一喝と眼光が断ち切った。


「揃いも揃って自分のことしか頭にないのか。好き勝手暴れて人に怪我させて、こんな小さい子を殺しかけといて、なにをヘラヘラ笑っている――!」


 全身から噴き出した憤怒が無形のオーラとなって大気を揺るがす。

 クワッ、と鬼面が顎を開き、ゴブリンナイトは牙を剥きながら吼えた。

 クラスメイトたちは蚊の鳴くような悲鳴を漏らして硬直する。与えられた力で数多の魔物を屠れど、ここまでの激昂と向き合った経験など彼らにはない。心臓にまで殴りつけてくる怒気に当てられ、既に失神寸前だった。

 直接矛先を向けられていない周囲の野次馬さえ、腰を抜かす者がいる。


「他人の痛みがわからないようなら、思い知らせてやる!」

『エンチャント《イダテン・ビートル》』


 グリフォン、シールダー・トータスに続く最後のエンチャントダガーを装填。

 瞬間。


「グブゥ!?」「ゲホッ!?」「ギャ!?」


 クラスメイトたちの体が跳ね跳び、高く宙を舞った。

 観衆はなにが起きたのかわからず呆然とした顔。おそらく目で捉えられたのはファムだけ、それもかろうじてだろう。


 ゴブリンナイトが使用した《イダテン・ビートル》のアビリティは加速能力。一時的に自身の行動速度を格段に上昇させる力だ。イダテン・ビートル自体が使うそれは大した上昇率ではない。しかしゴブリンナイトが元々持つ【敏捷上昇】【加速疾走】といったスキルとの化学反応が、まさに的加速を生み出した。

 そして瞬く間の十分の一にも満たない刹那で、ゴブリンナイトがクラスメイトたちを殴り飛ばし蹴り飛ばしたのだ。


 ゴブリンナイトはベルトのグリップを掴み、一度回した。規定されたアクションを受けて、ベルトが秘められた能力を解き放つ。


『《グレムリン》パワー』『ファースト=アタック』

「トオオオオ!」


 クラスメイトたちを追うように、ゴブリンナイトも跳躍した。

 足裏からジェット噴射のごとく吹き出す風。その力で軽々と三人を追い越し、燦然と輝く月をバックに宙返り。異形の姿であるにも関わらず、その場にいる誰もが目を奪われた。

 そして上下に重なって並んだ――無論、そうなるよう計算ずくで飛ばしたのだ――三人目がけ、右足を突き出した構えで急降下する。


「ゴブリンキック――!」


 槍、あるいは剣のごとく伸びた蹴り足が、一番上にいたヤマトの腹部に突き刺さる。

 値段も防御力も高そうなスケイルメイルは粉々に砕け、スキルだけで守られたロクに鍛えられていない腹筋に蹴りが深々とめり込んだ。

 そのまま学帽、豆チビと折り重なっても勢いは微塵と衰えない。

 流星さながらの閃光と衝撃が、石畳の道路に大爆発を起こした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る