非日常はノーアラートでやってくる


『突然ですが、一年C組の皆さんは第十四回異世界召喚の対象に選ばれました』

『ただちに召喚が開始されますので、扉や窓から教室を飛び出したりせず』

『魔法陣の内側にできるだけ集まって、静かにお待ちください』


 そのアナウンスが教室に響き渡ったとき、一年C組生徒の反応は三者三様、というより支離滅裂だった。


 歓喜の叫びを上げて踊り出す者。夢じゃないかと友人同士で頬を引っ張り合う者。

 悲鳴か怒号か金切り声で騒ぎ立てる者。宥める友人の手も振り払って泣き喚く者。

 何故か決めポーズを模索し始める者。ロッカーの掃除用具で武装する者までいた。


 全員に共通しているのは、この一昔前なら単なる悪ふざけとしか受け取られないであろうアナウンスの内容を、誰一人として疑ってはいないということだ。

 そう、これは非凡なる非日常であっても、決して起こり得ない非現実ではない。


 教室を虹色の光が駆け巡り、線となって巨大な魔法陣を描き出すのも。

 教室――否、自身を含む世界そのものが震え、景色が歪んでいくのも。

 床の感覚が消え去り、どこかへ引っ張られるがままに教室の眺めが遠のくのも。


 全ては現実。全てがリアル。

 それを喜ぶべきか嘆くべきか、迷っている間に光が視界を埋め尽くし。

 八代浩介やしろ こうすけの高校生活は、授業開始の初日で終わりを告げたのだった。


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