3話 魔女
辺りは一面銀世界。いつもは風に煽られ震え踊る野原さえ、凍り、微動たりしなくなっていた。いつもは聞こえる鳥のさえずりもかすれていた。そう私のあの眼光と同じように。無慈悲だったかもしれない。私は自分自身のあの眼差しが恐ろしかった。今から引き返そうか、ただひたすら悔やんでいた。だけど私の翼が、風を切るのを止める事は、決して、無かった。いつもは明るいケルベも、暗い顔をし、口を開かなかった。生きて帰れたらどういう顔をしようか、どう償おうか。今の私には、後悔しかなかった。
「ルナちゃん、氷が粗くなってきたよ。主犯が近くにいるのかもね」
気が付かなかった。カレンのことで頭がいっぱいだった。細く連なる氷槍ばかりだったのが、大きな氷岩が重なり合う、暗い氷河が広がっていた。
(カレンの事は忘れろ…今は異変を解決しないと…)
私は何度も自分の心に言い聞かせた。ブラッティー・ドリームズは解散したのだ。目の前に映るケルベ一匹を見つめ、私がいない世界を改めて痛感した。
あたしは何故、ここに座っているのだろう。ついさっきまで、目の前には瑠奈ちゃんとケルベちゃんが見えていたのに、今は氷の柱しか見えない。どうしてだろう、何故か氷が瞳から流れる。
「解散…?冗談だよね…瑠奈ちゃん…。瑠奈ちゃぁんっ…!」
あたしは届くはずのない声を上げ続ける。喉がどんどんかすれていく。だけどあたしは瑠奈ちゃんの名前を、叫び続けた。
(届け…届け…届いて…!)
あたしの心は、ひたすらに瑠奈ちゃんを呼び続けた。声はどんどん消えかかっていた。僅かに漏れる薄く枯れた声も、冷たい風に拐われて行く。届かない声を届けようと、あたしの足は動き出していた。
(瑠奈ちゃん…解散なんて…させませんから…!)
静かな風が大地だった氷河から、舞い上がる。冷風が強くなっているのが、よく分かる。きっともう近くに主犯はいるのだろう。私は、最後のカレンの血の入った小瓶を開け、グイッと一気に飲み込んだ。血の味は、とても渇いていた。
今までと全く違う、1つ細く高い氷山が見えてきた。その頂点に人影が見える。気を引き締め直し、ゆっくりと私達は近付いていった。気付いていないのか、全く反応を見せず、地平線をじっと眺めている。しかし、ボソボソとした声が聞こえてきた。
「氷零魔法……グリアスタ」
私は咄嗟にケルベを掴み、全身を左に突き動かした。私の元いた場所には、氷塊が突き刺さるように現れていた。
「流石、吸血姫。素晴らしい反応ですね…。待っていましたよ。瑠奈さん」
異世界転生したら半分霊の吸血鬼だった件 星薔薇アズ @SeikaAosaki
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