2話 銀界

 封筒に刻まれた「予告状」の文字を見るなり私は、無邪気に封を破り、手紙に目を通した。手紙には「日の変わる頃、大地を美しい銀世界に彩ります」とだけ、書かれていた。私は急ぎ、外を見た。空では、陽がもう沈もうとしていた。


「時間がない…」


 手紙を握り締め、赤く包まれた空に私は飛び出していった。慌てるその額からは、嫌な汗が吹き出ていた。ふと、我に返り、後ろを振り返ると、2人は私の事を心配そうに見ていた。


「瑠奈ちゃん、どうしたんです?いきなり飛び出したりなんかして」

「ルナ、それにさっきの異変が来るって何だ?」


 こうなっては、隠すなんてできない。私は街で出会った、怪しげな予言者と手紙の中身について話をした。2人は驚きと恐怖が入り混ざった表情で聞いていた。私が話し終えて数分間、音が世界から消えたと思う程、ただ静かだった。私たちのところだけ、予告の通り銀世界がやって来たかの様な寒さだった。


「で、でも…予言が当たるとも、限らないですよね?」

「そうだよ、考え過ぎだって」


 確かに、実際に予言の通りになるとは、限らない。しかし起こらないとは、言えないのではないだろうか。そのような自問自答を、何度も繰り返していた。しかし、どれだけ考えても、答えは全く出てこなかった。何も浮かばないまま、太陽が私達を照らすのを辞めた。


 夜が訪れ、私はもう考えるのを辞めていた。元々考える必要なんてなかったのだ。異変が起きるのであれば、解決する。それだけの事だった。そう思うと自然と羽が軽くなった。


「私達、ブラッティー・ドリームズは、異変があれば解決する…それだけでしょ?大丈夫。きっと」


 私の一声に2人は安心した表情を見せた。私達は決戦に備えるべく、城の中に戻った。


 すっかり夜も深くなり、日を跨ごうとしていた。私は血を飲み、リラックスしていた。羽をバザバサと揺らし、のんびりとその時を待った。そして、その時が来た。


 闇夜の彼方から、何本も連なる氷の柱が広がり、大地が揺れた。カレンが扉を開けようとしているが、ビクともしない。ドアの向こうから、固く押さえつけられているようだった。私はカレンの手を握り、ベランダから外に飛び出した。屋根に上り、外を見渡す。辺り一面、針氷林と化していた。


「あっちか…」


 氷が向かってきた方向を見つめ、静かに呟いた。羽を大きく広げ、ゆっくりと飛び上がった。


「瑠奈ちゃん!あたしも行きますっ!」


 カレンの声に、私は辺りよりも冷たい目線で答えた。私の瞳に、カレンは凍り、退いた。

 私の呟く言葉に、カレンは絶望したような表情をし、座り込んだ。私もケルベも、振り返らなかった。


「ブラッティー・ドリームズ……解散」

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