最終話 祝福

 私は、流れるイザナミ様の血を1滴掬い、飲んだ。穏やかで和やかな力が、体の中から湧き上がってくる。イザナミ様のイザナギ様に対する想いも…。


「皆さん…下がっていてください。イザナギ様を元に戻します」


 私はゆっくりと近づいていく。イザナミ様の想いが私の中の恐怖を打ち消していた。


「ナミ…アァァ…ナミィ…!」

「安心してください、イザナギ様。すぐ助けますから」


 呼吸を落ち着け距離を縮めていく。イザナギ様は怯え、斬りつけてきた。私は掌で受け止めた。渇いた刃赤く濡れていく。


「今、楽にしますね。蝙蝠ヴァンパイア弾丸ショット伊邪那美イザナミソウル……」

「ナミ…那美……」


 淡く暖かい光が、私達を包み込んでいった……。



「ん……?」


 私は木影で目を覚ました。どれ程眠っていたのだろうか。刃を受けた手を見ると、包帯で止血されていた。包帯に滲んだ血は、もうすっかり渇いていた。私はゆっくりと立ち上がり、木影から出た。太陽が光輝いていた。熱かったが、痛みはなかった。静かな風が髪を靡かせる。


「あっ、瑠奈ちゃん。目を覚ましたんですね!傷は大丈夫ですか…?」


 カレンだ。また私はカレンに心配をさせてしまったんだ。思わず私はカレンを抱き締める。


「ありがと…ごめんね…」

「ふふ、いいんですよ。私にできる事は、支える事ぐらいなので」


 カレンは静かに私を受け止めてくれた。雫がカレンの肩を濡らす。カレンは何も言わずに、私の背中を撫でた。


「あー…2人共…?」


 声がする方を見ると、ケルベと神達が困惑した表情で見ていた。慌てて私とカレンは抱き締めるのをやめる。


「ま、まぁいっか。ルナちゃん、お疲れ様♪」

「其方のおかげで父様を覆っていた邪気が消えた。感謝するぞ」

「そ、そういえば!」


 私は慌て、周囲を見渡す。イザナギ様は木影で眠っていた。側には、イザナミ様が静かに座っていた。


 数分経って、イザナギ様は目を覚ました。


「那岐、大丈夫か?」

「那美…すまない…我は…」

「ふふ、いいぞ。傷の事は気にしなくとも」


 2人の間には、暖かい風が流れ込んでいた。誰も何も言わずに、見守っていた。


「其方、天照を、そして我を救ってくれた事。感謝するぞ」

「いえ、私だけの力じゃありません。皆で勝ち取った異変解決ですから」


 そう、私1人じゃない。皆との繋がりの力だ。私は胸に手を当て、空を見上げる。終わったんだ、と胸を撫で降ろす。突然、イザナギ様が真剣な声で話し出した。


「那美…我には…那美が必要なのだ…。だから我と再び……」


 イザナギ様が言いかけた時、微笑みながら

イザナミ様は口を塞いだ。私はわかっていた。イザナギ様の気持ちも、イザナミ様の答えも。


「妾からもお願いするぞ♪」


 和の夫婦神の再婚の瞬間に、立ち合う事ができた。2人共嬉しそうで、少し涙が出てきた。


「其方達、感謝してもし切れんぞ。天照姉、そして父様を救ってくれて…有難う」


 今までクールだったツクヨミ様の瞳ですら、涙でいっぱいだった。しかし、満面の笑顔だった。


「私達は…パフォーマンスを…しただけ…ですよ♪」


 私も笑顔で返す。三つ子神は顔を見合わせ頷き、私達に勾玉の首飾りをかけた。私はゆっくりと瞬きをし、受け止めた。


「妾らからの気持ちだ。其方…いや、ルナ・ブラッドローズよ。其方には友がいる。其方達の絆なら大丈夫だ。どんな壁があろうと、超えていけるであろう!」

「ツクヨミ様……そして、皆さん。ありがとうございます!」


 涙が止まらない。でも、この涙なら止まらなくてもいい。幸せな涙だった。


「それじゃあ、瑠奈ちゃん♪」

「うん帰ろう、どんな異変があろうと!」


 和神異変はこうして幕を閉じた。しかし、2人の神を暴れさせた犯人がいる。見えない恐怖がこの世界を覆い出していた。


 Episode2

 Encounter with the gods[完]

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