5話 黄泉
異変はまだ終わっていなかった。空に現れたイザナギ様は、酷く荒れていて溢れる殺気は、アマテラス様以上のものだった。
「其方!父様は強大すぎる。妾ら3人でも勝てないであろう…。力を貸してはくれぬか!?」
「頼まれなくてもやりますよ!異変を止めるのが…私達のステージパフォーマンスですから!」
こうして、ブラッティー・ドリームズと三つ子和神の共闘が始まった。さっきまで戦っていた神との共闘。正直、怖いものなんてなかった。神達の不安の重圧も、見えなくなっていた。
「妾と月読は後ろから援護する。其方と須佐之男は全力で、押さえ込んでくれ♪」
「任されたぜ、天照姉!」
神に頼られる日が来るなんて、と私は目の前の標的を忘れてしまう程、心が舞い踊った。気持ちを高揚させながら、イザナギ様に拳を突き立てた。しかし、私の攻撃は全く効いていなかった。
「ソナタラ…頭がタカイゾ!」
イザナギ様が懐から剣を引き抜き、私目がけて振り降ろした。その剣はとても遅く、違う時間の中で死を受け入れようとしているのだと思った。
「
静かな光と激しい闇が、私を包み込んだ。混沌が剣を弾き、イザナギ様は蹌踉めいた。
「其方、もう少し慎重に頼むぞ…。妾らは其方との手合わせで疲労しておる」
「す…すいません…」
浮かれすぎていた。相手は三つ子和神ですら歯が立たないイザナギノミコトだ。深く呼吸し、ゆっくりと目を閉じた。すると、色々な音が耳に飛び込んできた。皆の戦う音、天が怒る音、自然が叫ぶ音、そして私達の鼓動。
「私達は…繋がっている。種族なんて関係ない…。私達は皆同じなんだ。この世界を守りたいと思ってる。心は同じなんだ!」
力が満ちてくる。力が伝染していく。心の底から暖かくなっていく。
「其方ら…清き心を持っておるな。黄泉の国まで届いたぞ」
私の背後から聞き慣れない声がした。振り返ると、女性が優雅に舞い現れた。
「暖かい絆の力を感じ、顔を出してみればこれか…。悪に手玉に取られるなど…呆れたぞ、那岐」
「那美…那美なのか…?」
イザナギ様の様子が変わった。理性を吹き返そうとしていたのだ。殺気も落ち着き、呼吸も静まり出した。
「あぁ其方、紹介が遅れた。妾は『伊邪那美』じゃ。其方の心、美しかったぞ」
「あ、ありがとうございます…?私はルナ・ブラッドローズです」
イザナミ様は一直線に私を見ていた。その瞳には、鏡のようにハッキリと、私の姿が写し出されていた。その時、イザナミ様の眼に狂気に満ち、剣を振り上げたイザナギ様が写った。
「さて、名乗った事だ…そろそろ帰…っ!」
私は反応できなかった。イザナミ様は咄嗟に私を投げ飛ばし、斬りつけられた。イザナギ様は荒れ狂い、完全に理性を失っていた。
「妾は大丈夫じゃ…離れよ…」
イザナミ様の肩から、血が滲み出ていた。血…。私も感情が暴れ回り出した。ただ、する事だけは変わらずに止まっていた。和神異変をここで終わらせる。
「那美…ナミ…アアァァ…」
「イザナミ様すいません…血をいただきます。さぁ、イザナギ様、ユカイに踊りましょう」
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