2話 月読

 神が異変を引き起こしたなんて、にわかには信じられなかった。しかし、目の前に神がいて、その神が言っている。私は信じる事しかできなかった。だが、相手は神。しかも、太陽の神だ、私には分が悪すぎる。私にこの異変を止められるのか。そんな事を考えていると、ツクヨミ様が口を開いた。


「思ったのだが、そちらの者。もしかしてなのだが、ばんぱいあ…なのか?」

「私、ですよね。はい、ヴァンパイア…吸血鬼です」


 これを聞いた途端、ツクヨミ様の雰囲気が変わった。少し焦った表情でこちらを真っ直ぐ見ている。


「ばんぱいあは陽の光に弱いと聞く…。其方、妾と1戦手合わせ願うぞ」

「今…ですか?でも異変が…」

「妾と天照は対の存在。その力は同じぞ。妾に勝てないのならば、陽が苦手な其方は間違いなく敗北するであろう」


 私は黙り込んでしまった。ツクヨミ様の言葉は、まるで私の心を読んでいるかのようだった。続けてツクヨミ様が話す。


「其方の…ばんぱいあが、どういうものなのか見たいのもある」

「だってさ、ルナちゃん♪1ヶ月ダラけてたんだし、体少しは動かさないとね♪早速、外行こうか」


 ケルベに強引に連れられ、私達は魔界の闘技場に向かった。そういえば、魔界を歩き回るのは初めてだった。自分が想像してたよりも、賑やかで楽しくなった。


「さて、お二人方。着いたよ」

「其方、遠慮なく挑んでくるがよいぞ」

「はい、よろしくお願いします!」


 闘技場は広く、天井もない。私の空を使った戦闘スタイルも活かせそうだ。ツクヨミ様は怖いくらい落ち着いていて、隙が全く見当たらない。


「其方から、いつでも好きな時に来るがよい」

「わかりました…。では、遠慮なくっ!」


 私は1瓶、血を飲んで神に爪を立て、飛びかかる。しかし、ツクヨミ様は避けようともせず、じっとこちらを見つめていた。次の瞬間、奇妙な事が起きた。辺りを夜が覆い、月が私を照らしている。そして私は、地面に叩き付けられた。体が重く、立ち上がるのでやっとだった。


「どうだ?妾の夜は。これが神の領域ぞ」


 神の領域。やはり次元が違う。闇はとても深く、周りが全く見えない。目が暗闇に慣れてきた時だった。正面から重い1撃を受けた。しかし、ツクヨミ様の姿は最初の位置から微動だにしていなかった。


「ふむ。その驚き様だと、其方は術などは知らんようだな。天照に勝てるのやら…」

(術?遠距離攻撃が神の戦い方…)


 ツクヨミ様は無慈悲なまでに、黒い衝撃弾を、飛ばしてくる。このままではアマテラスを倒し、異変を止める事なんて夢のまた夢だ。諦めかけていた私に力をくれるのは、共にいてくれるあの子の声だった。


「神がなんですか!瑠奈ちゃんは、そんな簡単に諦めない…最高の吸血姫なんですから!」


 そうだ、私が諦めたら全て終わってしまう。なんて私はマヌケなのだろう。2度もカレンに気付かされ、自分自身がダサくて仕方ない。


「確かに私には術なんてない…。でも!仲間がいる。それは、私の命よりも大切な物!だから、この世界の異変は、私達で止める!」


 力が湧いてくる。暖かくて優しい力、キズナの力。


「……蝙蝠ヴァンパイア弾丸ショット

「これがばんぱいあ…見事であるぞ」


 私も驚いた。私の指先から出た力は、ツクヨミ様を吹き飛ばしていた。ケルベ達も驚き、固まっている。


「ふふ…見事であるぞ、其方なら天照を止められる…。そうだ、名を聞いておらんかったな」

「私は…ルナです。お手合わせありがとうございました!」


 神に勝てた。私は心の底から叫びたくなった。


「さて、早速天照のところに飛ばすとするか。其方、これを持って行け」


 渡されたのは、小さな小瓶だった。中に何が入っているのかはわからないが、とても暗かった。


「ピンチの時に開けるがよい。では、飛ばすぞ」


 瞬きをしてる間に景色が変わっていた。とても、眩しくて暑い。まさか、


「其方ら、妾と遊ぶために来てくれたのか?」

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