最終話 決着
蝙蝠達が私の周りを飛び回っている。まるで、私の勝利を祝うかのように。ケルベも影を出すのをやめ、元の崩れかけた部屋に戻っている。
「み、認めねぇ…認めねぇぞ…オレは…!」
次の瞬間、バルガは最後の力を振り絞り、カレンに襲いかかった。咄嗟の事で誰も反応できなかった。全速力で飛び、ギリギリのところで、何とか食い止めたが、血の効力が切れてしまった。
「クソが……」
バルガは力尽き、壁にもたれかかった。そ
の姿に先程までの気迫は一切なかった。
「アナタ……何をしようとしたかわかってるよね?」
「あぁ、お前の仲間の人間の血を頂こうとした。せめてな…」
この言葉に、改めてバルガが吸血鬼だという事を痛感させられた。私と同じで血が必要なんだ、と。
「太陽で芽吹く命だって…あるんだよ。それをわかって、この異変終わらせてほしい」
「ったく、わかってるよ。オレは負けたんだ。勝者の言う事は聞くさ」
部屋の窓から光が射し込む。今度こそ終わった。ふと、私はバルガの方に目が行った。そして、瓶を1つ渡していた。
「飲みなよ。アナタも私と同じなんだ。これぐらいの情けはかけさせてよ」
「へっ…情けは受けねぇ主義だが…今回はありがたくうけとらせていただくよ」
「瑠奈ちゃん、優しいんですね」
「うん♪昔からね♪」
昔から。そう聞こえた。でも、私がケルベと会ったのは、つい1ヶ月前の事。なのにどうして。よくよく考えてみると、初対面なのに名前を知っていた事から不思議だ。いくら考えてもわかる訳なく、考えるのをやめた。
「さっ、帰りましょう♪」
私達は城を後にしようとした。外に出ると太陽が照っていた。さっきまでは陰陽だから平気だったが、不味い、痛いし苦しい。そんな時、私の頭上に影ができる。
「瑠奈ちゃん、絶対暑がると思ったから。えへへ♪」
「女神様だったのね…」
思わずこう呟いてしまった。可憐の対応に涙が出そうになった。日傘のおかげで私は痛みを感じる事なく、館まで帰る事ができた。地上では、草花が元気に彩っていて、鳥や虫が嬉しそうに飛び回っている。終わったんだ、本当に。私はホッと安心したようにため息を漏らす。でも、1つ気がかりな事が抜けない。
「ケルベ、昔からってどういう意味?」
「あー……うん。聞かれたなら仕方ないね。ボクは、ルナちゃんのペットだった犬さ」
この言葉に、私は息を飲んだ。ケルベが私のペットの犬だった。考えただけで頭が割れそうになる。でも、そうでもないと私の名前を知ってる事や昔からという言葉の説明にならない。
「そう…だったんだ」
私は涙を流しながらケルベを抱きしめる。色んな感情が入り乱れ、何を言いたいのかわからなくなった。そうして出た最初の言葉。
「一緒にいてくれてありがとう」
「ふふっ、どういたしまして♪」
本当は謝りたかった。この子を置いて死んでしまった事を。なのに感謝の言葉しか出てこない。私は泣く事しかできなかった。
「ルナちゃん、もういいんだよ。それよりも、次の異変に備えて今は休も?」
「うん……そうだね。異変がいつ起こるかわからないし」
「ですね、しっかり休んで次も頑張りましょう!」
こうして太陽が陰陽となる異変は終わった。だがしかし、この異変により宙では新たな異変が起き始めていた。
Episode1[完]
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