6話 血牙

 吸血鬼は不敵な笑みを浮かべ微動たにしない。その笑顔に私達は立ちすくんでしまった。


「ふっ、威勢だけはいいようだな。その気合いに免じて名乗ってやろう。オレはバルガ。バルガ・ベルナモンド。死ぬ前に覚えときな!」

「バルガ、私達は…威勢だけなんかじゃない!」


 と言っても身体が動かない。その場の空気、そしてバルガの気迫に完全に圧倒されていた。ケルベの変身もいつの間にか解けている。


「来ねぇのか、つまんねぇな。ならこっちから行くぜ!」


 その言葉と同時に、私は壁まで吹き飛ばされた。あまりに一瞬の事で痛みが追い付いていなかった。風圧が私に追い打ちをかける。バルガの姿はさっきまで私がいたところにあり、何かを呟きながら、不気味に笑っている。


「そうかお前……吸血鬼なんだな。だが…」


 雰囲気がガラリと変わった。急に高笑いをし、勝ち誇っている。


「フハハハハッ!お前半分なんだな!完全な吸血鬼のオレ様に半分で挑むというんだな!」

「そう…だよ、アナタを止めるために私は…挑む!」


 勢いよく飛び出し、バルガに拳を突き刺す。しかし、その腕は指一本で受け止められてしまった。そのまま床に投げ飛ばされ、圧倒的な力の差に絶望しかけていた。その時、ある事に気がついた。半分という事は、血の効力が切れている。という事に。初めてだったから、効果が短かったのかはわからないが、さっきまでより力が湧かない。慌てて瓶を割り、飲み干す。すると今度はすぐに力がみなぎってきた。


「今度は…私から行く。ケルベ!カレンをお願い!」

「あ、うん。任せて!」


 爪を立て、バルガに向かって一直線で突っ込み一裂き。さっきの一撃よりも確かな手応えがあった。


「チッ、やるじゃねぇか…‎だが!オレに挑むにはまだ早いぜ!」


 バルガの気迫が更に増した。その気迫は凄まじく、城を壊しそうになる程だった。動きにキレが増し、目で追うのがやっとだ。私の攻撃も全く当たらず防戦一方になった。体力もすり減り万事休すとなったその時、


「負けないでください!瑠奈ちゃん!」


 カレンの声援が聞こえた。そうだ、異変を止めるんだ。私はそのためにここに来たんだ。私はカレンに笑顔を向け、血を2瓶飲んだ。すると、不思議な事にバルガの動きが止まって見えた。懐に飛び込み渾身の蹴りを放つ。バルガは血を吐きながら玉座まで吹っ飛んだ。


「ば……バカな…。そ、そんな事ある訳ねぇ……」

「ケルベ!今だよ!」

「了解、ルナちゃん♪」


 ケルベから黒い影が広がり、周囲が別の場所に変わった。そのには赤い川が流れており、炎が飛び散っていた。


「こ…こは……」

「魔界。アナタをここで仕留める!」

「寝惚けた事…言ってんじゃねぇぞ……」


 バルガはムキになり、私に飛びかかってきた。その攻撃も無力かのように避け、投げ飛ばす。


「畜生…オレは…吸血鬼…バルガ・ベルナモンドだぞ…これくらいなんて事」

「そう…自己紹介ありがと♪」


 トドメを刺すかのように背中を切り裂く。爪に血が滲む。何とか勝てた。しかしまだ喜べない。異変はまだ解決していないのだから。


「畜生…お前一体…何者なんだよ…」

「私は……ルナ・ブラッドローズ。吸血姫よ」

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