告白死 母を思う

麻里

第1話 広場


 告白者は飛んできた石により顔を潰し、無様に壇上に倒れた。石を命中させた男は下卑た笑い声を挙げたが、ありきたりな告白に広場にいた聴衆は白けていた。聴衆の一人が酒瓶を投げつけて次の奴は誰だと叫ぶ。それに続いて轟々と次の告白を待つ暇な聴衆が騒ぎ始めた。その声に促されるように後ろに並んでいた黒い髪の毛が美しい喪服を着た痩身の女が静かに壇上の血を清め始めた。俯いているため前髪が彼女の顔を覆い表情は見えない。彼女は侍女のように膝をついて丁寧に掃除をし、大切な人を葬るようにその遺体を穴へ落とした。普段の告白者と異なる姿に聴衆は期待を高める。

 彼女はおもむろに顔を挙げた。前髪を耳にかけた。現れた彼女の線で書かれたような薄い眉毛と黒く生気のない瞳は、見る人に不幸な印象を与えながらも、その影のある表情は色気を感じさせた。真珠のネックレスをした細い首からは甘い香りが漂う。

彼女は会場にいる聴衆を見渡して一揖し、ゆっくりと語り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る