第2話
頬は痛いし歩いている足も間違いなく感覚はある、動かそうと思えば手は動くし、見たいと思った方に目を動かすと街は正常に動いている
何も変わった事はない
ないのに………確かにいつもの目線より少し低い
つまりこいつが俺よりチビ
いやいや、チビって言うか手を見れば女のように色が白く指先が細い、拳の頭に出来た空手のタコもない
ウインドーやステンレスに写る姿はやっぱり俺じゃない
夢なのかどっかで薬でも飲まされたのか、何時覚めるんだか分からないが現実感あり過ぎでただの妄想とも思えない
「なあ………どこ行くんだ?」
「鞄持って来なかっただろ、取りに行かなきゃ携帯も財布も何もないだろう」
「え?!やっぱりさっきの所に戻るつもりなのか?」
「仕方ないないだろう、何も持たずに飛び出してきた隆也が悪い」
悪いって言われても普通あんな事になってたら抵抗するだろう、俺の場合抵抗が行き過ぎただけだ
聞きたくないけど、これだけは確認が必要だ
「あのさ………お前………」
「後にして、このままじゃ一人で喋ってるただの変な奴だろう、暫く黙ってろよ、俺が喋るから」
「でも……さ………さっきの所に戻るのは……」
コイツはどこまで分かってるんだろう
変な事されてたのは知ってるのか?こんな訳の分からない状態になる前、二人共意識がなくてそこを襲われてたんだとしたら二度目の乱闘になる、多分手加減出来ない
「さっきの奴らがいたら俺また叩き伏せるぞ」
「隆也は強いからね、いいよやっても」
「え?…どう言うこと?お前……」
シッっと口を押さえられ、暗い階段が見えるとギギっと足にブレーキをかけてみたが今度は反対に突破された
赤いウレタンマットが敷かれた急な階段は壁に粗末なチラシが乱雑に貼られている
どれもアマチュアのバンドらしい、ライブのメニューやメンバー募集、やけにナルシストな写真入りも多い
「なあ………ここって……」
「だから黙ってろって、喋んなよ」
自分で言ってうんっと頷くのは変だが仕方がない、俺の手はさっき逃げてきたドアのノブに手をかけた
部屋の中はタバコの煙が充満してスモークを炊いたみたいに白く煙っていた、首にタオルを巻いてモクモクと煙を製造していた男が振り返って驚いた顔をした
「瑞希……お前…」
「鞄取りに来ただけだから、
むぎ?変な名前………
麦と呼ばれた男はバインダーでも仕込んでるのかと思うピアスが耳の縁をズラリ飾っている、さっき股間に顔を生めていた男…………
ゾワッと背中が寒くなった
「痛て………」
「は?痛いのはこっちだ、何だよ急に」
「うるさいな気が向かなかっただけ」
勝手に指が太腿を抓り声が出てしまった
鳥肌が立ったのは不可抗力なんだから抓られても抑えられない
「隆弘は?」
「帰ったよ、お前に肘鉄食らわされて鼻血ブーだったからな」
「ふうん、俺も帰るよ、事務所に金払っといて」
「おい………瑞希………待て………わっ!!だっっ!!」
掴まれた手首はネチャリと粘った音がしそうで引かれた反動に乗ってそのまま蹴りを叩き込んだ
身構えていた分止めようとしても止まらなかった、反射で回った足が男の脇腹に食い込み椅子を巻き添えに吹っ飛んで行った
「俺に触んな!!」
「あっ!隆也!!黙ってろって言っただろう」
「黙ってたよ!!」
「そう言う事じゃくて口を出すな!何もするなって事だろう、控えろよ!!」
「控えろって何だ!時代劇か!お前このファンタジーな状況が何なのか解ってるんなら説明しろ!」
「時代劇って………あ…」
「何だよ!!何なら"拙者"とか言え」
「……隆也……」
「…………あ…………」
一人言い合いをしていると麦が一緒に倒れ込んだ椅子を抱いて呆然と見ていた
客観的に見るとおかしいに決まってる
「ここを出よう」
「今出るから黙ってて」
黙ってろったって黙っていられないし、それならお前が黙れと言いたいが初めてお互いの意志が合致した
口を開けたまま怒る事すら忘れ、心配顔になって来た麦を無視して、どうやらここはライブハウスの控室らしい、薄暗い煙った部屋から這い出した
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