鏡と心に写る
ろくちゃん
第1話
足元がフワフワしている
歩く感じは………強いて言えば子供の頃遊園地で入ったエアバルーン?跳ねはしないけど踏みしめる足が押し返される
目は開いてるのに周りがよく見えない、ボヤケてると言うか焦点が合わないって言うか………なんだこれ
フワンフワンと蠢く足元が変で早くここから抜け出したい、沈む足を無理矢理踏み出し地面を蹴った
「あ?………わっ!!」
突然見えない手に引っ張られ上か下かわからなくなった
寝ていたのか………
ポカッと目が覚めて急に現実………目に入ったのは低い汚い天井だった
夢がやけに現実っぽくて腕にはまだ誰かの指が手首に乗っている様な気がした
「あっ?!……う……あっっ!!」
目を覚ました途端何か意味不明の快感と悪寒と違和感が体を包み足の先から脳天までゾワーッと鳥肌の波が横断した
「うわっっ!!わっわっ何?!!」
何何何何?っっ!!!……下半身に何か
違和感の発生源を見下ろすと信じられない光景が目に入った
「はう!!は……な!!何だよ!!」
男が男が男が…………下半身に貼り付いてる
椅子?椅子に座ってる、事もあろうに広げた足の間に男が又を割って入り込み、固定するように太ももに巻き付いた腕が腰を引き寄せキイキイ椅子のパイプが揺らされている
しかもスカスカする
どうして、いつ脱いだ?脱がされた?ズボンを履いてない
ヌルンっと生暖かい濡れた感触とネロリと動く肉の塊が………舐ってる俺の………チンコを……
「………っっ!!」
体をする起こそうとするとガチリと肩が固まっていた
もう一人いる
吸い付かれた首元が気色悪い、ヌラヌラと胸を
快感も悪寒も疑問も吹っ飛んだ
誰かに背後から羽交い締めされている、覚えがないと言う事はコイツ等に何か良くない何かをされたという事
俺の叫び声に両足の間に顔を伏せて信じられない気持ち悪いことをしていた男が頭を上げた
唇の周りが濡れてテラテラ光ってる
「何だよ
「珍しいな瑞希が………わっっ!!!」
反射で体が動いた
脇から回った腕にぶら下がり体重を預けブンッと足を振り上げた
「離っっ………せっっ!!!」
「わっ!!瑞っ!!」
ジャンプしてついた慣性のスピードに思いっきり力を加え振り下ろすと勢いのついた足がビュっと風を切ってしゃがむ男に踵を叩き込んだ
足を振り下ろした反動で立ち上がり、そのまま後にステップして背中の男には肘を入れた
「お前ら何だ!何してんの!気色悪い!!俺のズボンは?いつの間に……お前ら誰だ!」
「うぅ……痛って…何言ってんの?…」
「うるせぇ!俺の服は?!!」
ここはどこだどうやって来た、キョロキョロ見回すと部屋は………
…………ここはどこだ?、薄暗くて狭い大きな鏡と数個並んだきたない椅子、カラオケ?違う、もうどこでもいい
よく見たら足元にズボンが片足だけの入ったままくっついてる、自分の物じゃないが下半身を晒したまま逃げ出すことも出来ない、慌てて引き上げボタンを止めた
「瑞希?!……急に……わっ血が出た…」
「俺は"瑞希"じゃない!人違いだ馬鹿!!」
「おい?瑞希?」
目に入った大きな鏡には三人の姿が写りドキンと体が跳ねた
まだもう一人いる
叩き伏せるのは簡単だがここは逃げ出し方がいい、手加減出来なくて怪我をさせる
走って2歩もない狭い室内からドアに飛びついて転がり出た
「地下?」
暗い急な階段は出口に日の光を取り込みポッカリ地上への口を開けている、ダァッと駆け上り外に飛び出て丁度青に変わった目の前の信号を走り抜けた
「何?何なんだ、男に………男に……俺のチンコが……」
カァッと顔が熱くなってモアっと体から湯気が上がってくる、変な汗が吹き出てきた
あんな場所にどうやっていつ行ったのかまるで覚えがない
「う…………ズボンキツイ………」
見るのも怖い………下半身が元気で走ると邪魔だし痛いが、くそう………ムックリ膨れて突き出ていたらどうしよう、滅茶苦茶かっこ悪い、何かで隠したいが鞄は持ってないし上着もない
「ん?…………この…靴………」
そろそろと下半身を見下ろすと気になったのはチンコじゃなくて自分の足に履いたスニーカー、欲しかったナイキだ………アナノ空いたジーンズもそうだがこんな靴持ってない
他人の服を着て、知らない場所にいて、知らない奴にあんな事をされる………まで……
「………俺はどうしてたんだ?」
記憶喪失、夢遊病、えーと…………
……取り敢えず、家に帰って………誰かに聞いた方がいい
……って携帯も財布も持ってない、見回しても街に見覚えがない
「………そっちじゃない」
「え?」
物凄く耳の近くから声が聞こえたが振り向いても横を見ても………ついでに上を見たけど誰もいない
「上にはいないんじゃない?普通……」
「え?え?誰?」
「そっちじゃないったら!」
「わっわっ!!足が」
足が……体が勝手に方向転換して逃げてきたさっきの穴蔵の方に向かってしまう、何が何だか分からない
知らない間に体を改造されて何処か物陰から悪者が俺を操ってる?だから知らない服着てんの?
「お前誰だ!何処から喋ってる!!顔を見せろ!」
普通の人が相手なら俺に叶う奴はそこら辺にはいない、自慢じゃないが市内には敵は一人しかいない、もうちょい範囲を広げても空手の県大会は突破したし全国に行くと………まあ二回戦で負けたけど簡単に負けたりしない
「どこにいる」
「顔を見せろって………じゃあ見せるからそこの店の前に立ってよ」
「店?店の中にいるのか」
頭か耳の辺に何か電波を受けるスピーカーでも仕込まれてるのかと探ってみたが今の所発見出来ない
そこに立てと言われたのは多分目の前にある工務店、ガラス張りのウインドーは休みなのか中が暗く………
覗き込もうとしてギクリとした
あの地下の穴蔵の中一人だけ倒してなかった奴がガラスに写っていた
「お前!」
バッと腰を落として構えた、どちらの足も出せるように重心は真ん中、前屈が俺の基本
「慌てないでよく見てよ」
「見てるよ!出てこい!ノシてやる」
「腕を上げて」
「やだね、腋は開けられない」
「いいから!」
「わっ!!」
また勝手に体が動いた、締めているはずの腋から腕が離れて持ち上がった
「ん?」
何?この違和感……今や腕は高く上がりフリフリしたりグーとかチョキとか………
「?ん?ん?あれ?」
工務店のガラスウインドーに写ったそいつは同じようにチョキ………次は………ゴリラ………
「……って…え?え?俺………じゃない?」
「やっとわかった?俺が瑞希で今隆也も瑞希」
「…………………」
「隆也?………隆也!!!」
バンっと自分の頬を張り飛ばしてみたがガラスの中の奴も同じようによろけてる
今度はグウだ
ブンッと腕を振り挙げると誰かに掴まれたのかのように宙でピタリと停まって動かない
「離……せ~~~!!!」
「やめろ~痛いだろ!」
「クソ……~~!!」
力任せに止まった腕を上げ振り切り懇親の力を込めてしまった拳がガツンっと頬に炸裂して仰け反った
「ブフッ!!…………痛って……」
「痛いのは俺だ馬鹿っっ!!」
え?今俺が喋った………確かに自分の口が動いた
「お前…………何処にいんの?」
「うん……一緒に…いるらしい」
「一緒に……………?」
「うん……」
「……………」
一緒にいるって何?
ガラスに写ったのは別人なのにトリックみたいに同じく動きをする
でも自分の意志で思い通り動くし話せるし殴れるし見れるし息もしてる
「
「意外………古典的な言い方するんだな……」
「勝手に喋んな!」
「だって………俺の体だし……」
「………そんな………」
暗くなれ、目を閉じろ、なんなら堕ちろ
ここは暗く意識した閉じたり、せめてクニャクニヤと膝を折ってへたり込んでもいいんじゃないだろうか
……………自分の精神力にびっくりする
普通に会話しちゃってる
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