村長がはじめる心霊町おこしの悪影響

ちびまるフォイ

幽霊が集まってくる本当の理由

「まずいぞぇ! このままじゃこの村は終わりだ!」


村長はシャッター商店街を見て危機感をつのらせた。


「村長、もう無理ですよ。諦めましょうよ

 ゆるキャラも、ご当地グルメもやったじゃないですか。

 その結果がこのザマなんです」


「こんなへんぴな山奥にわざわざ来る人なんていませんよ」


「人より鹿のほうが多いもんな。

 若い人が寄り付くわけがないだろう」


村の人達もすでにさんざん手を尽くした後なので、

もうこの村は終末医療をうけて安らかに天に召されるばかりだ。


「はっ! 天に召される……それじゃ!!」


「なんだじいさん。ついに、自分の死期を悟ったのか?」


「ちがうわぃ! 新しい町おこしを思いついたんじゃ!!」


村長は家に戻ると、急いで村のマップに様々な情報を書き加えた。

そして更新された地図を見て村人たちは驚いた。


「心霊町おこしって……本気かい、村長!?」


「当たり前じゃ。女が言う「カワイイ」くらいの熱量で本気じゃ」

「それってどうなんだ……」


「とにかく、この村のあちこちを心霊スポットとするんじゃよ。

 男女でイチャつきたい年頃の若い人たちが肝試しにわんさと来るじゃろうて」


「怖がられて避けられないかな?」


「わしを信じろぃ!!」


村長のアイデアをしぶしぶ受け入れた村人たちは、

何の変哲もない村のあちこちにそれっぽい加工をした。


効果はすぐに現れた。


村長がアクセスしていたアダルトサイトからウイルスにPCが感染。

そこからこの村の情報が世間に公開されるや、大人気となった。


「うぅ、怖いよ、私こういうの苦手なんだって……」

「ウヘヘ。もっとくっついてもいいんだぜ」


「気をつけなされ。この川はかつて身投げの名所として有名な心霊スポット。

 夜に川からガチャで爆死した女の無念の声が聞こえるという……」


「でもここ水深低くないっすか」


「だからこそ、ここで身投げしたときに、川の石で頭がかち割られ

 その川は一瞬で赤色に染まったという……」



「キャーー!! もう無理! まーくん、もう帰ろうよ!!」



「お待ちなさい……このまま帰ると、川の怨霊が家までついてきます。

 村の入口にあるお守り(定価3000円)を購入するといい……。

 あとできれば村の宿泊施設『除霊のお宿』で一泊すると効果的だろうて」


二人の男女は慌てて村の入口へと引き返していった。


もちろん、全部でっちあげではあるものの

訪れた人から「本当にいた」とかの証言まで出てくるから驚きだ。


「村長! やりましたね! 村が一気にうるおいましたよ!」


「いやぁ、幽霊さまさまじゃな。こんなにも若い人たちがやってくるなんて」


「怖いもの知らずのヤンキーたちも、度胸試しに使ってるみたいですよ」

「今度はシルバーアクセでも売ろうかの」


味をしめた村長と村の人達はどんどん心霊スポットを増やしていった。



かつて、一家心中をはかったという呪われた空き家。


かつて、盗んだバイクで暴走した族が事故死した魔の急カーブ。


かつて、工事中にたくさんの人が生き埋めにされたというトンネル。




もともとは、ただの使われていないボロ空き家。

ただのカーブ。ただのトンネルでも、心霊扱いするだけでそう見えてくる。


心霊アミューズメント施設と生まれ変わった村は、

東の東京ディズニーランド、西の超・心霊村と言われるまでに発展した。


「わっはっは! 儲かりすぎてもう笑いが止まらんぞぇ!」


村長はパンツ一丁になりながらも高笑いをしていた。


「村長、今度はスタンプラリーでも始めましょうか」

「それな!!」


「村長、ちょっといいですか? 話をしたいという人が……」


「ぬ?」


村にやってきたのは首に数珠を下げた女だった。


「私は三船千鶴子という霊媒師です。

 村長さん、この村にはどうやら霊が集まっているようですね」


「はいキターーwwwインチキ霊媒師乙wwwwwww

 残念でしたぁ、ここの心霊スポットはただのでっちあげですぅ~~!!」


「ええ、知ってます。だからこそ警告しに来たのです」


千鶴子は持っていたリトマス試験紙を取り出した。

試験紙はみるみる黒くなっていく。


「ご覧なさい。これが霊の集まっている何よりの証拠です」


「はぁ?」


「幽霊の話をすると幽霊が寄ってくるという話は知ってるでしょう。

 あなた方は幽霊を商売にしたことで、幽霊が集まってきたのです」


「そ、そんな……」


「あなた方がこんなアコギな商売を続けている限り、

 霊たちは集まり、しだいにその影響力はましてくるでしょうね」


「影響力が増すとどうなるんじゃ……?」


「本当に、声が聞こえたりするでしょうね」


「そんな! ガチ霊が来て、観光客に実害が出たら元も子もない!

 賠償金なんて払える余裕はないんじゃよ!」


「方法がひとつだけあります」


千鶴子は真剣な顔で村長を睨んだ。


「売上の60%を私にくれれば、除霊してあげます」

「お前もアコギじゃねぇか!!」


千鶴子を追い出した村長だったが、不安が晴れることはなかった。


「村長、どうするんですか? このまま続けるんですか?」

「もし、あの話が本当だったら……」

「俺たち、全部偽物だから安心して営業してたのに!」


「ええい! やかましい! すでに予約は埋まってるんじゃ!

 ここで霊が出てきたので営業しませんって出したら

 それこそウソがバレてしまうじゃろがい!!」


村長の独断と偏見とゴリ押しにより村は営業を続けた。


千鶴子の予言は本当だったらしく、

演出用の盛り塩が黒ずんだり、カバンに入れたイヤホンが異常に絡まったり

スマホのバッテリーがやたら早く消費されたりと怪奇現象が相次いだ。


「村長……やっぱり霊はいるんですよ!

 これ以上は本当に霊の影響力が強くなりますよ!!」


「バカいえ! せっかくカップルの名所になってきたのに

 今さらこの村を寂れさせてたまるか! ワシ一人でもやる!!」


「もう勝手にしろ! 呪われても知らないからな!」


霊の影響力が高まるのを恐れた村人たちは逃げ出した。

それでも途切れることのない若い観光客を村長は招き入れ続けた。


そして……。


「というわけで、この川はかつて保育園に入れなかった腹いせに

 身投げした親子の無念の思いが沈んでおるんじゃよ。

 ときどき、川が血のように真っ赤になるときは……ありゃ?」


村長の持っていた懐中電灯がチカチカ点滅して消えた。

予備も点かない。ろうそくをつけてもすぐに消える。


「ちょちょちょちょ……村長さん……変な演出やめてくださいよ……」

「もう帰りたい!! 私こんなところイヤ!!」


「ちがうんじゃ。わしもわざとじゃなく、なにがなんだか」



――……いい



村長の耳にもハッキリ聞こえた。

いないはずの誰かの声が耳元で、ハッキリと。



――……なぁ……だ



「ま、まさか……霊の影響力が……」


ついに霊たちが集まりすぎて、その声が聞こえてくるようになった。

次の言葉は全員の耳に届くほど明快に聞こえた。





――やっぱり若い子はいいなぁ。死後の目の保養にぴったりだ。

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