第36話独りきりの女、友人を得ている女
カリオストロの要求に対して、サンジェルマンは“丑三つ時まで待って”と告げた。
丑三つ時って何時だ?
宿主の田中・昌樹の記憶から、十二支が時間を差すのは知ってはいるが、どれがどの時間を差しているのかまではエイジには知り得る事ができなかった。
両者に挟まれる格好の中、エイジはサンジェルマンに困り顔を向けた。
「丑三つ時とは、午前2時から2時半までのことを差すのよ」
これまた田中・昌樹の記憶から、昔のお化けが出てくる物語では、大半のお化けが丑三つ時に現れている。つまりは、そういう時間なのだろうとエイジは納得した。
「サンジェルマン。ヤツはアナタに何をさせようとしているのか?」
本人を前にしておきながら、エイジはサンジェルマンに訊ねた。
「ホムンクルスを器へと変える材料を異世界から収集してくること。マンドレイクは、異世界に足を踏み入れない限り得る事はできない」
「マンドレイク?」
「錬金術には欠かせない植物よ。漢方でいう高麗人参のようなもの。ただし入手は困難を極めるわ」
異世界がどんなところなのか?想像もつかないが、人が簡単に足を踏み入れる事が難しい場所なのは理解できる。
異世界とは、常識の異なる場所であり、それは文化や風習だけでなく、自然現象さえも異なる場所なのだろう。
「ゲートが開かれるのは満月の夜なのは知っていたけど、時間まで指定されているのかよ」
口の悪い婆さんがグチをこぼしている。
「勉強不足だったわね。200年近く生を紡いできているのに。いつまでも人任せにしていないで、自ら探究しようとは思わないの?」
サンジェルマンの説教に、老婆は不遜な態度を見せて。
両手を広げて見せると。
「探究した結果がこのザマよ。アンタよりもさらに老化が進んで、後から器を代えたっていうのに、私の方が先にババアになっちまったよ!」
「それはアナタがエレメンツの種を取り込んだからでしょう」
二人のやり取りから、エレメンツの副作用によってカリオストロの老化が進んでいる事が解った。
「『人は独りでは生きてゆけない』最初に教えた事を護らなかった罰ね」
「意味まで教えてくれなきゃ、解らないだろ!」
傍目キビしい出で立ちの老婆が喚いている。
「『信頼できる友人を作りなさい』と教えたはずよ」
「そう言っていたかねぇ…」耳穴をほじりながら。
「アンタの言う信頼できる友人てのは、そこにいるAgのマスターの事なのかい?だったら、何であの男にもうちょっと詳しく匣の事を教えてやらなかったのさ?あの男、訳も分からないまま次々と災難に巻き込まれているんだぜ」
すっかり男言葉になっている…。このカリオストロという人物が元は男性だったのは明白。
「それでも彼は命がけで匣を守ろうとしてくれた。信頼に値する人物よ」
「どこまで都合が良いのやら」
呆れ顔のカリオストロはサンジェルマンを指差して。
「まぁ、その信頼のできるご友人サマに異世界に行ってマンドレイクを獲ってきてもらうんだね。それまでは匣は私がききちんと預かっておいてやる」
告げてカードをサンジェルマンに向けて放り投げた。
「マンドレイクが手に入ったら、連絡して」
それだけ言うと、カリオストロは背を向けて立ち去ろうと。
「待て!」エイジが呼び止めるも、サンジェルマンがそんな彼を制した。
「エイジ。とにかく貴方は今すぐにでも探偵さんの体に戻って。永く離れていると、命が削れて行くわ」
「戻れと言われても、マスターから随分と距離が離れてしまっている」
その心配は無用と、サンジェルマンは昌樹からもらった名刺を取り出すと、彼に電話を掛け始めた。
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