第35話エサに釣られたオンナ、挟まれる男

「あのタクシーを追ってくれ」


「へい!がってんでぃ」

 エイジと、江戸っ子風に応じる理依による追跡開始。


 1ブロックほど先を走る、カリオストロを乗せたタクシーは、先程からスピードを上げてはいない。法定速度を10㎞無いほどオーバーしているくらい。


 それは理依たちも同じ。


 警察車両が来れば、立派なスピード違反ではあるが、車の流れ的に言えば、日中での法定速度10㎞以内の速度超過はザラだったりする。



 息を荒げるエイジを、理依はチラリと見やり。


「まぁ、ここは私に任せて、しばらく休んでおきなさいよ」

 休憩を促す。


 ついでに、飲みかけのペットボトルの清涼飲料を差し出す。


「ああ、頼む」

 エイジがペットボトルに口をつけた。


 カリオストロを乗せたタクシーは京都市内を出る事はおろか、数キロ走った場所で停車してしまった。


 何と!


 カリオストロはタクシーを降りてしまったではないか。



「ここは…?」

 訊ねるわけでもなく、エイジが呟いた。


「晴明神社だね」

 理依が答えてくれた。



 晴明神社。


 それは、陰陽師・安部晴明を祀る神社で、一条戻橋のたもとに位置する(北西にある)。


 五芒星(晴明紋)が有名で、今ではパワースポットとして国内外から大勢の観光客が訪れる。



 一般人が知る、おおまかな晴明神社の情報はこんなところ。



「また、目立つ場所に来たのね?あのお婆さん」

 周囲を見渡しながら理依が告げる。


 観光客で賑わっており、鳥居の前は人だかりができている。


「理依、ありがとう。お前はもう、帰ってくれ」

 カリオストロを見失う事無くエイジが告げる。


「もう、つれないなぁ。エイジくんったら」

 そんな気遣いに構う様子もなく。


「そうじゃない。ここはきっと戦場になる。アイツは円町の駅で、平気でエレメンツの能力を解放した。君を、あんな危険に巻き込むわけにはいかない」

 

 説明をくれるエイジに、理依は頬を染め。


「わ、私の心配をしてくれるの?エイジくん」


「当然じゃないか。君にもしもの事があったら、弁護士先生が悲しむ。と言うか、きっと困るだろう。大切な助手でありボディーガードなんだから」

 とたん、理依はムスッと頬を膨らませ。


「そーですよね!そうだと思いました!」


「何を急に怒っているんだ?俺が何か気に障るような事を言ったのか?」

 鈍感なエイジに理依は追い払うように手を振りながら。


「さっ、早くあの婆さんを追いかけなさいよ。そんで、さっさと用件を済ませてきなさいよ」

 追われるように送り出されてしまった。


「俺が何かしたのか?」

 首を傾げつつ、カリオストロの元へ。


「やはり、ここへ来たようね」

 背後からの声に、エイジは即座に振り返り。


「あなたは!?」

 驚くエイジの視線の先にいたのは。


「サンジェルマン!?」


 サンジェルマンの姿が。


「匣に仕込まれているGPS発信機の信号と、探偵さんのスマホのGPS発信とが離れたから、奪われたものと思ったら、本当に奪われているのだもの」

 呆れたと言わんばかり。


 構えを解くエイジに、サンジェルマンは待てのジェスチャーを見せた。


「何か、あるのですか?」

 振り返ったままのエイジからの問いに。


「まんまと匣というエサに釣られてしまったという訳ね。カリオストロ」


「お察しの通りだよ。お互い、すっかり老婆になったものだね。サンジェルマン」


 まったくの無視という状況は、この際どうでも良いが、鳥居を挟んで10メートル以上離れて会話しても、果たして良い内容なのか?エイジは一抹の不安を抱いた。


「サンジェルマン。さぁ、ゲームを始めてもらうよ。さっさと手駒を連れて来な」


「あの…サンジェルマン。アイツの言うゲームとは?」

 今度こそ答えて欲しいと願うも。


「急いでも、すぐにはゲートを開く事はできないわ。丑三つ時まで待ってもらえないかしら?」


 時間指定を申し出てしまったではないか。



 サンジェルマンは、何ゆえカリオストロによって仕向けられた“ゲーム”を拒否しない?

 

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