第37話急性疲労の男、お金が足りなくなった女

「呼ばれて来たものの…」

 観光客でごった返している晴明神社へとやって来た田中・昌樹。


 先ほどから何度もあちこちから咳払いを受けていた。



 とても不快だ。



「一体、俺が何をした?」


 彼は気付いていない…。


 写真を撮ろうとすれば、神社の鳥居に移り込んでしまう頭一つ分大きなアフロヘアーが邪魔になっている現実を。


 だけど。


 せっかく来たのだから、お参りの一つでもしていくかな。


 生まれてこの方ずっと京都に住んでいながら、ここへ来るのは初めて。


 記念に五芒星の描かれているお守りも買っておこう。そうだ!御朱印も買っておくか。


 呑気にも、そうこうしている内に、堀川通り側で手を振っているエイジとサンジェルマンを見つけた。


「いた」

 急いで彼女らの元へと駆け寄る。


「随分と時間が掛かったわね。探偵さん」


「すみません。警察の事情聴取を受けていたものでしたから」

 大きな頭を下げる昌樹に、サンジェルマンは体を逸らせて「いいのよ」


「そんな事よりも、カリオストロにはこを奪われたようね」


「そ、それに関しては弁解の余地もありません。どこか山奥に身を隠していれば、こんな事には…」

 後悔を見せる昌樹に対して、サンジェルマンは大して怒った様子も見せず。


「貴方がこの京都を離れていなくて良かったわ。常にあなの居場所を掴むことができていたから」

 告げながらタブレット画面を開いて見せてくれた。


 画面には地図が表示されていて、現在昌樹たちがいる晴明神社には赤いマーカーが、京都駅近くのホテルには青いマーカーが点滅していた。


「これは?」

 画面とサンジェルマンの間を、目線を行き来させながら昌樹が訊ねた。


「貴方のスマホの位置と匣の位置が記されているわ」

 彼女の言葉に昌樹の目は点になった。


「あら、ごめんなさい。探偵さんの事務所を訊ねた時に、貴方が銀髪の弁護士さんとベランダで話をしている隙に、スマホの情報をこのタブレットに入力しておいたの」

 思いも寄らぬサンジェルマンの告白。


 思い起こせば…。


 あの時、何時スマホを上着から取り出した?


「え?えぇ??」

 上着のあちこちを手で触れながら思い返す。

 

 だけど、取り出した記憶が無い。


「ふふ。こういうのはお手の物よ」

 サンジェルマンは昌樹の目の前に、田中探偵事務所の名刺をかざして見せると、ずらして後ろのもう一枚を彼に見せた。


「2枚?アレ?俺、2枚も貴女に名刺を渡していましたか?」

 昌樹の問いに、サンジェルマンは「いいえ」頭を振って見せ。


「もう1枚は、今、貴方の胸ポケットから引き抜いたのよ」

 スラれた!まさか、退職しているとはいえ警察官だった自身の、しかも視界からそう遠くない胸ポケットからスラれてしまうとは!こいつは大失態。


「あの時、席に着く前にスマホを拝借しておいたのよ」


 まったく気付かなかった…。

 茫然と立ち尽くす。


「驚かせてしまって、ごめんなさい」

 と昌樹に寄り添うと。


「エイジ、早く探偵さんの中へ」

 促され、すぐさま昌樹の体へと戻った。


 辺りが一瞬ザワついたが、すぐさま収まった。


 何かの手品と解釈してくれたのだろう。


 エイジが中へと戻った瞬間、昌樹の体に急に疲労感が襲ってきた。


 立ちくらみがする。


 フラついた体をサンジェルマンがしっかりと支えてくれた。


 こうなる事をあらかじめ予測して、寄り添ってくれたのだろう。


「あっ。探偵さん」

 今度は理依が現れた。


「り、理依か…」

 声を出すのも辛い。


「丁度よかったわ。あなた、弁護士さんのお知り合いね」


「そうっス」

 敬礼をして見せる。


「どこか休める場所に彼を運んでくれないかしら?」の問いに。


「実は、駐車料金が手持ちを上回ってしまって、お金を借りに来たんスよぉ」

 答えになっていない理依の答えに、サンジェルマンは天を仰いだ。


「わかったわ。立て替えて…いえ、ここは私が払うから、彼をどこかで休ませてあげて」


「了解ッス」

 またもや敬礼。


 理依が代わって昌樹に肩を貸すと、3人は車へと向かうことにした。

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