第13話 親父が泣いた日
蕾と共に自宅までゆっくり歩いて帰宅する。
影が前に有る様なその帰宅路で俺は蕾を見ながら複雑な顔付きをする。
それに気付いた蕾は少し俺を心配げに見て来た。
「.....大丈夫?.....ごめんね。突然で訳が分からないよね.....」
「.....大丈夫だ。俺こそごめんな蕾.....」
蕾は言う。
私は告白して心を軽くしたかった。
だけど、これは人生を賭けたぐらいの精一杯の告白だったと思う。
女の子にとっては最大で最後の勇気を持った告白だった筈だ。
だけど俺はそれを断って。
挙げ句の果てには慰めてもらう。
俺が謝る以外、何が有ると言うのだろうか。
この状況で。
「本当に.....俺は.....ごめんな」
「.....ううん。全然大丈夫だからね」
謝ったり謝られたりと、そんな感じで歩いていると。
後ろから聞き慣れた声で声を掛けられた。
影が追ってくる様な感じで。
「.....和幸。あれ?蕾さん.....」
「おう。一歩」
「.....あ、一歩ちゃん」
今はなるだけ、この幸せをぶっ壊さない様に。
俺達は前を見て歩き出そう。
その様に思いながら一歩に声を掛けた。
そして笑みを浮かべる。
☆
「.....♩」
俺は鼻歌を歌いながら、勉強をする。
部屋で近所迷惑にならない程度に音楽を小音量で掛けながら、だ。
にしても今日は本当に色々有ったな。
その様に思いながら、だ。
明日は蕾が帰宅する。
「.....本当に.....色々だな」
この人生の中で今日は最も色々有った。
俺は蕾に対して本当に申し訳無い気持ちを持って少しだけ目を閉じる。
ああ、聞こえるな。
複雑な思いを抱えているとやっぱりあの音が。
あの悲鳴が。
ギヤァ!!!!!ドゴーン!!!!!
車が思いっきりにひしゃげる音。
そして、何かに衝突する音。
何かが潰れた音。
全てが、だ。
俺は眉を顰めてゆっくり目を開ける。
目が潤んでいた。
「.....慣れていると思ったんだがな。俺もまだまだだね、母さん.....」
その様に呟いてから。
横を見ると、夜の海に月が浮かんでいる。
その光景を見ながら、俺は少しだけ口角を上げた。
蕾に気付かされたが、疲れているんだな。
俺の身体と言うか、心が、だ。
「駄目だ。.....俺は男だ。一歩も居る。.....強く無いと.....」
その様に思いながら俺はゆっくりと前を見据えて色々を考えない様にした。
心に秘めて。
出さない様に。
思っているとドアがノックされ答える前に一歩が入って来た。
ちょ。
「おま.....まだ何も答えて無いだろ」
「.....アンタの愛しているとか言う、瀬川優さんってウチの学校に転学して来たんだっけ?先輩で」
「.....あ?ああ」
「.....」
俺は見開いて、頷く。
少しだけ複雑そうな感じで俺を見てくる一歩。
俺は首を傾げながら、見た。
すると、唇を尖らせて。
「.....わ.....私よりも優センパイの方が良いの?」
と一言。
またそれか?
俺はため息を吐きながら苦笑してゆっくり答える。
「.....えっとな、俺は誰とも付き合わないから.....」
その言葉を放つと、少しだけ眉を顰めた一歩。
そしてベッドに腰掛けた。
少しだけ複雑そうに俯いていた顔を上げる。
ふわっと良い香りがした。
「.....その付き合わないのは.....まだ.....その.....由美さんの事を悩んでいるなら.....和幸。由美さんが.....泣いちゃうよ?」
「.....お前.....?」
俺の考えを察した様にその様に話す、一歩。
そんな一歩に俺は驚愕する。
今まで、そんな心配はしなかったぞコイツ。
「.....私ね、由美さんは優しい人だと思う。だから和幸もこんな良い人になったんだって思う。何で突然こんな話をするかって?.....お義父さんが.....泣いていたから」
「.....!」
あの親父が?
俺は驚愕しながら、一歩を見る。
決して涙を見せない、あの親父が泣いていた。
信じられないが.....そうか。
「警察官で無念だっただろうね.....」
「.....そうだな」
「.....和幸。こんな事を言うのもアレなんだけど.....さ」
「.....何だ」
抱きしめて良い?
その様なとんでもない言葉が出て来た。
何?抱きしめて良い?だと?
俺は見開く。
「.....お前?」
「.....い、一回だけだから!和幸が.....可哀想なんて言っちゃいけないけど!」
「.....お願いするよ」
「.....?」
そうだな。
今回は俺も泣きそうだから。
頼む、一歩。
お前しか居ない。
ギュッ
「.....」
「.....」
うーん!
ってか、思った以上に恥ずかしいなこれ!
心臓の鼓動が聞こえる。
女の子の香りがする。
やばい、クラクラする。
「和幸。何か困った事が有ったら.....相談してね」
「.....勿論。お前を頼りにするよ。家族なんだから」
クラクラする意識の中。
その様に話しながら。
俺達は暫く、抱き合っていた。
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