第12話 意を決して

放課後になった。

俺は帰宅の準備をして、鞄に教科書をほっぽり入れる。

額の右側にバッテンの絆創膏を付けて、だ。

そして横に居た悠平を見る。

少しだけ恨めしげに、だ。


「全く。お前のせいで頭に傷を負った」


「はっ!知った事か」


何を言ってんだ。

本当の本当にコイツ絶対に許さんぞ。

俺はその様に思いながら、頭に貼っている絆創膏に触れイテテと言った。

その痛みを感じながら、下駄箱に入って靴を履き替え校門まで行く。

因みに一歩は今日は生徒会なので、一緒に帰れない。

その為、俺達二人で帰っていた。

のだが。


「.....ん?」


顔を前に向けると北高の制服を纏った女の子が校門あたりで注目を浴びていた。

この学校の男子は大騒ぎ。

校門に猛烈な美人が居る、とだ。

女子は嫉妬の嵐で.....ん?って言うか、あのカチューシャは蕾じゃねーか?

俺はその様に思いながら、鞄を後ろにその女の子に声を掛けた。


「何やってんだ?お前は」


「ふぇ!?あ、和幸.....」


「.....何でそんなに驚く?何でそんなに赤面する?」


ちょっと意味が分からない。

と思っていると、蕾が首を傾げた。

横に居る、悠平にだ。


「.....えっと、其方の方は?」


「先島悠平。俺の親ゆ.....」


「いやいや」


「ハァ?」


バチバチと火花を散らす、俺達。

これに対して蕾が目を回し、あたふたした。

や、やめてー!と言って、だ。


「ちょ、落ち着いて!」


「はい」


「身の翻しがはえーよ!!」


何なんだコイツ!マジでふざけんな!

俺はその様にツッコミを入れつつ、ため息を吐いた。

そして話を切り替える様にして蕾に聞く。


「.....お前さ、何で俺を待っていたの?」


「え?あ、えっと.....えっと.....」


だから何でそんなに赤面するのよ?

俺は思っていると背後から誰かに肩を叩かれた。

背後を見ると、そこには。


「山本くん、さっきぶり」


「優センパイ.....」


優ちゃんに声を掛けられた。

すると、蕾が目を丸くしてそして笑顔になる。


「あ、優さん」


「えっと、どういう状況?もしかして恋バナとか?あ、でも.....蕾が居るから違うかな?」


「こ.....」


恋.....と呟いて、ボッと赤面した蕾。

俺は恋バナじゃねーと鋭いツッコミを先輩に入れようとしていた。

危ない危ない、先輩なのに。

その様に思いながら横を見るとジト目の悠平が俺を見ていた。


「俺、要らない存在かな?」


「居てくれ。お前なら察する力が強いだろ」


「そうか?猛烈な嫉妬だけしか無いんだが」


まぁ、落ち着けよ。

その様に宥めていると。

男子の目線が半端ないものになった。

そして、俺に対するキリングの目が滅茶苦茶に強くなり。

命が危なくなってきたので俺は声を出した。


「すいません、移動しませんか?皆さん」


「.....そうだね」


蕾がその様に少しだけ遠慮しがちな声を出した。

ますます?が浮かぶのだが、そうしていると優ちゃんが悠平の首筋を掴んで。

と言うか、誘拐し出した。


「えと、ちょ!?」


「貴方はちょっと脱落して。私もだけど」


悠平はそのまま引きずられて連れて行かれてしまった。

一体、何だ?

また何が起こっているのだろうか。

俺は呆然と見ていると。


「.....有難う、優さん.....」


小さく、ボソボソと呟き声が聞こえ。

俺は蕾に聞き返そうとしたが、その前に腕を組まれた。

所謂、恋人繋ぎ。

ってか、え!?何だ何だ!


「行こう。和幸」


「ちょ、え?何処にだよ?」


「私の一番のところ!」


何で突然そうなるのか。

と思ったが、ようやっと俺も察し始めた。

まさか、いや。

と。



「綺麗な眺めだな」


「そうでしょ?ふふっ」


辿り着いた場所は海に近い場所。

その海が見渡せるちょっと錆びた手摺りが付いている丘。

この街を度々移動しているが、こんな場所が有るなんてな。

知らなんだ。


「ところで、こんな場所に連れて来たのは.....って言うか、待っていたのは?」


「.....えっとね。和幸」


「.....な、何だ」


突然改めた様に、蕾は俯いた。

そんな感じで改めて見られるといくら元幼馴染でも小っ恥ずかしいんだが。

と思っていると、和かに蕾はその唇を動かした。


「.....和幸に今、告白しても良い?」


「.....!」


その様に、だ。

真っ赤になって俺を潤んだ目で見据えてくる蕾。

俺はその言葉に俯いた。

そして言葉を発する。


「.....何でそんなに俺が好きなんだ?」


「昔からずっと、ずっと好きだったよ。中学の頃から憧れてた。だけど、この気持ちが何なのか、今まで分からなかった。だけど、一歩ちゃんが一生懸命に教えてくれた。そう、私って.....君の事が好きだったんだって」


「.....!」


『君』という言葉に俺は眉を顰めた。

そうか、今まで気が付かなかったよ、蕾。

ごめんな。

でも、本当にごめんな。

ごめんなさい。


「.....蕾。俺は今は誰とも付き合う気は無いんだ。以前も言ったかもだけど」


「.....」


「すまん」


「.....うん。分かってたよ。和幸」


泣くかと思ったら、まさかの答えだった。

俺は見開いていると、蕾は伸びをして俺を見て。

そして口角を上げてニコッとした。


「.....この告白.....と言うか、大切な貴方にこの場所で告白して、心の重み.....を解消したかったんだ。ごめんねはこっちの方だよ。ごめんなさい」


「.....何だそりゃ.....」


「.....でも、好きなのは事実だと思う。和幸」


「.....」


とても、とても複雑な心境だった。

女の子に好きと言われて、嬉しい男子高校生は居ないだろ。

それも美少女だぞお前。

こんな凡人に告白って普通はあり得ないだろ。

と思っていると。


「.....和幸は.....昔から変わらないね」


「.....そうだな。俺は.....そうだな.....」


そう言えば何で俺は恋をしないのか?

あまり考えた事が無かった。

だけど、きっとこの思いは母さんが亡くなってからだろう。

父さんが変わって俺も変わったんだな。


「.....俺は変わったんだと思う。だけど、お前もみんなも俺を好きになってくれて.....俺を救ってくれているんだ」


「.....うん」


「.....変わらないといけないな」


「.....いや.....徐々に変わっていったら良いと思う、和幸。だから.....ゆっくりで良いんだよ」


蕾は恥ずかしいと思うのに、俺を抱きしめた。

そして頭を撫でてくれる。

俺は少しだけ涙が。

変わらないで良い、か。


「.....すまない」


「.....大丈夫だよ」


ただ、お母さんにの様にゆっくりと俺の頭を撫でる、蕾。

疲れているんだろうな俺も。

ただ純粋に、そう思った。

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