第5話 佐藤蕾(さとうつぼみ)

一歩は、ほぼブラコンだと俺は思う。

何とまぁ、兄のーと、とかいうのまで極秘に製作して、これでブラコンじゃ無かったら何なのかという事になってしまうと思う。

だが、一歩は俺に対してほぼ愛想を向けない。

これがブラコン&ツンデレってもんなのだろうか?

漫画でしか見た事が無いから分からんが、なかなかモドカシイもんだな。

まぁ何れにせよ、俺もほぼ一歩に関わらない事にしよう。

だって、面倒臭いし。

俺はグラビアの優ちゃんが好きなのは事実だから。

そんな俺達は雑貨屋に居た。


「ねぇ。和幸。マグカップでいい色とデザインを選びたいんだけど、どれが良いと思う?」


「いやちょ、何故、俺に聞く.....」


「アンタ、プレゼントを選ぶセンスだけは抜群じゃ無い」


「.....お前.....うーん」


最低だと思いつつも、俺は顎に手を添える。

俺は一歩の友人の情報を聞いた。

どうやら猫好きなようで、感じは文学少女で清楚らしい。

だったらあまり派手じゃ無い、猫のマグカップでも良いと思うな。

俺は目の前に有った猫デザインのマグカップを取る。

そして一歩に渡した。


「.....あ、それ良いね。じゃあそれで」


「.....そうか。じゃあ、俺は外で待ってるから」


「あ、待って」


一歩にその様に言われ、何だよ、と俺は振り向く。

すると一歩が俺にマグカップを渡してきた。

🌀模様の有る様な、派手なやつをだ。

俺は?を浮かべ、一歩を真っ直ぐに見据える。

一歩は口をごにょごにょさせながら、何か言った。


「.....アンタの」


「.....あ?」


いや、俺の、って。

俺マイカップ有るし、要らないんだけど?

だけど俺は断るのもアレかと、マグカップを受け取った。

そして一歩にお礼を言う。


「えっと、有難う」


「あ?は?.....えっと、何でそんなに率直にお礼.....」


「うん?だってお前がくれるんだろ?これ」


「.....ま、まぁそうだけど!?」


マグカップを見ながら一歩に笑む。

そんな一歩は俺に真っ赤になっていた。

側から見たらマジで勘違いものだな、これ。

恋人に見られてもおかしくない。

やれやれ、何でこんな事になったのやら?


「よし、んじゃ、俺は外に居るからな」


「.....う、うん」


和かに赤面で俺を見てくる、夢。

俺はそんな夢に手を上げて、雑貨屋の目の前の椅子に座った。

そして、天井を見上げる。

広々とした天井をボーッとしながら。

ああ、思い出すな。


「母さん」


天に昇って行った母さんを。

俺の母さんは校則道路で交通事故で亡くなった。

親父が運転していた車で助手席が潰れて、だ。

その時からかな、警察官でも明るかった筈の親父が寡黙になり始めたのは。

思えば、母さんが死ぬ前はそんな事は無かった筈だから納得が行く。

俺は呆然とアーケード上の空を見た。


「.....」


それから少しだけ俯いて考える。

何だろうか、母さんが居たら一歩に絶対に出会えなかった。

複雑だな、と思って。

そして皮肉だ。

思っていると、一歩が俺の顔を覗き込んできやがった。

俺はビックリする。

一歩は腰に手を当てた。


「なーにしけたツラしてんの?和幸」


「.....いや、ちょ、かなりビビっただろ。ドアホ」


「ほら!行くよ!」


思えば。

母さんが交通事故で亡くなってそれを励ます様に一歩や一歩の家族がウチに来て今に至った。

そんな一歩は、まぁ俺に対して面倒を掛けて来るが、それでも良い奴だなと思って見ている。

いつか幽霊でも良い、母さんに会えたら。

良い女の子だ、って報告出来たら良いかも知れない。



取り敢えず俺達は終わったので、ゲーセンを巡って。

俺達は用事が済んだので帰路に着いた。

思えば、一歩は俺を引きずり回したかっただけなのでは?

と思ったが、敢えて言わない事にした。

それに少し面倒臭い。


「一歩」


「何?和幸」


「.....まぁマグカップ有難うな」


「なっ!?.....あ、いや、大丈夫よ.....」


その真っ赤の一歩を見ながら俺は柔和に思いつつ歩く。

俺達の未来はこの先どうなっていくのやら?

その様に思いながら、河川敷を歩く。


「ねぇ。和幸」


「何だ」


「今日は有難うね。付き合ってくれて」


「お前が無理矢理付き合わせたんだろ.....まぁ良いけど」


ため息交じりで俺は苦笑しながら、一歩を見る。

その様にしながら俺達は歩いていて、誰かとすれ違った際に名を呼ばれた。

それも、俺が、で有る。


「.....もしかして.....和幸.....?」


「.....?」


背後を見ると、ボブの黒髪に黄色のカチューシャを着けた美少女が居た。

丁度、バスから降りてきた様だが。

うん?誰だ?

俺は眉を顰めて、その女の子をマジマジと見る。

別高校の制服の女の子に名を呼ばれるって相当なもんじゃね?

と思っていると、その女の子は大喜びで俺を見てきた。


「わあ!やっぱり和幸だ!私だよ佐藤蕾!ほら!.....中学時代の幼馴染の.....!」


「.....え?蕾?マジで?」


「.....誰」


懐かしいな。

佐藤蕾(さとうつぼみ)。

俺の元幼馴染に該当する、女の子。

小学校低学年時から一緒だったが、中学2年の時に身体が弱く、遠くの大学病院に入院すると言って俺の元から去って行った。

一歩が来る前の、知り合いの女の子だがまさかこんな形で再会を果たすとは思わなかったな。

嬉しく思う。


「お前、久しぶりだな!元気にしてるか?身体は.....」


「.....うん、病気ならだいたい治ったよ。今は凄く元気だよ。だから学校にも行けてる。.....有難うね。和幸」


「.....そうか。.....良かったよ」


俺は笑みを浮かべて、蕾を見る。

すると、一歩が側で不満げに俺の袖を掴んで来た。

頬を思いっきりに膨らませている。


「あの、和幸、私の事忘れてない?」


「ああ.....すまん。一歩。えっとな、こちらは蕾だ。俺の元幼馴染の」


「.....ふーんふーん.....」


笑顔を浮かべながら、一歩は前に歩み出た。

そして蕾に手を差し出す。

すると、蕾がこの子は?と俺に目をパチクリして聞いて来る。


「ああ。義妹の一歩だ」


「.....ああ、義妹ちゃん.....え!?義妹!?.....嘘!?」


「再婚したんだよ。ほら、母さんが亡くなったから.....」


「.....あ.....」


分かった様に見開いてから。

蕾はニコニコ笑みながら直ぐに手を指し出して一歩と握手した。

何の諍いも無く、だ。


「宜しく。私は佐藤蕾です」


「宜しくお願いします」


ちょ、一歩?

蕾は柔和でどうも無いが、一歩は俺を見て#を浮かべている。

一歩め、コイツ何を勘違いしているのだ?

面倒臭いな。


「あ、えっと、帰らなくちゃ行けないから行くね」


「.....じゃあ、またな」


「うん。あ、家って何処に有るの?前の場所?」


「変わってないぞ。また来たら良い」


うん、じゃあまた。

と言って、駆け出して行く蕾。

本当に元気になったんだな。

その様に、俺は嬉しく思っていた、のだが。


「...........」


「.....おい。一歩?」


「ふーん!べ、別にどうでも良いけど!.....うらやま.....問題無いけど!」


フンッとそっぽを見る、一歩。

何か言い掛けただろ今。

俺はその様に思いながら、盛大にため息を吐いた。

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