きつねの患者さん――こたえ2

 そのかものはしばあさんに教えてもらった行き先に行くと、木の根本に粗末な木の看板がさしてあり、そこにかいてあるには、


「ただいま留守にしています…、ですって、先生」

「ふむ、それじゃすこしここで待たせてもらいましょうかね」


 はりねずみは看板の横に腰を掛けた。きつねは、その木の根元に座り込んではりねずみを見た。


「するってえと、犯人がここにいるんですか」

「いやまあ、どうなんでしょうな。いくら近くにいるといっても、そこまで追い詰めちゃあ、かわいそうでしょう」

「そりゃそうですけど」


 きつねは、今の家にもう何年か住んでいる。この近所に、誰かが住んでいるなんて、とても知らなかった。

 で、二匹がそこで少しだけくつろいでいると上からガサガサと、葉をかき分ける音が聞こえた。


 がさがさっ!がさがさがさ!!


「なんでえあんたら!うちになにか入り用かいってああああああああ!!!!」


 二匹はなんだなんだと上をむくと、それと同時にものすごい勢いで葉っぱが落ちてきた。これは、葉っぱが落ちる速度じゃあないぞと、きつねがその葉っぱを手で受け止めると、その葉の中にはりすが入っていたのだ。


「いや!これはそのきつねの旦那!そそそ、その、なにか御用ですか!?」


 こんな丁寧な口調で、というか、知り合いのような口調でりすに話しかけられて、きつねは困惑である。会ったことはないからだ。


「いや私、きつねですが、どこかで会ったことは…―」

「ええ!ええ!ありませんともありませんとも!このりすめときつねさんはもちろん初対面ですとも!ええ、ええ!!」


 りすは葉っぱで頭を隠し、尻をかくさず、ただきつねの手のひらで怯えているだけであった。その様子をみてはりねずみはひとこと。


「やあやありすさん、そんなに怯えなくとも、このきつねさんは相当な優狐でね。そんな、急にとってくおうなどと、しませんよ、ねえ?」

「もちろんですとも!りすさん、何か事情があるなら、聞かせてくれませんかい。私、こまってるんです」

「ああ、ああ、とんでもねえ。困ってることはだいたいオレのせいだぁ!毛が抜けて、困ってるんだろ?ありゃ、オレが毎晩やってることだからねえ!」


 りすは怯えながら、泣きながら叫ぶように、突っかかるように話した。その様子にきつねは怒るまでも、いや、なんといったらいいか、こちらが悪いようなきがしてしまって。なんといえばりすがおびえなくていいのか、まったくわからなかった。


「すまねえ、すまねえ!オレも生活がかかってたんだ!このところ暑さで木の実が全部やられちまって!ためしに川辺で水をくんでいて、かものはしばあさんに話してみたらなにか報酬がありゃ、食べ物をわけてくれるってんで!それできつねの旦那をみたら、こりゃよさそうな毛をしている…なんて思って……」

「ああ、ああ!そうでしたか。いやそれは」


 きつねは悪びれた顔をした。


「りすさんは、最近ここに引っ越してきたんですかい」

「ええ、そうともさ、そうともさ!近々旦那のところにも挨拶に行こうってんで嫁と話してたんだ!でも食べ物がなくてそれどころじゃなくなっちまって…」

「いや、それはこちらも悪いことをした」


 きつねは、尻尾をたれて、りすをはりねずみの隣においた。


「なにか、事情があるんですか、きつねさん?」


 はりねずみは不思議そうにきつねをみて、涙でびちょびちょになっているりすにハンカチをやりながら、話を聞いた。


「うち、子供が生まれたんです。それで、このあたりの食料を結構にとっちゃったんだと、思います。このあたりはあまり、動物も住んでないと思ったから……、必要以上に、とっちゃったかも」

「それはそれは…」

「ええ?じゃあ、きつねの旦那は悪くないです、そうでしょう、はりねずみの」

「ううん…」


 いや、これはどちらとも悪くない。とも、なんともかんとも。はりねずみは返答に困ってしまった。きつねもりすも、そりゃもうお互いなんていったらいいかわからないほど、しょげているのだ。

 だから、はりねずみは思いついた!


「そうだ!そうだ!りすさん、いますぐ奥さんをつれてきなさい、いますぐ!それで、きつねさんはいますぐ家にかえりなさい。それで、こうするんです」

「どれどれ…」


 きつねははりねずみに耳を貸し、そりゃいい!と家にすぐ帰り、りすはいわれるまま妻を連れてきた。


「はりねずみの、いったい、どうするんです?」

「まあいいから、ついてきなさい」


 はりねずみとりすたちは歩いてきつねの家に向かった。そうして、扉の前について、こんこん、ノックをすると……。


「「いらっしゃい!!いらっしゃい!!」」


 きつねの子どもたちが、笑顔でお迎えをしてくれたのだ。これには、りす二匹も、はりねずみもにっこり笑顔。


「いや、食べましょう、食べましょう、たんと、あるんですよ」


 きつねは奥に、テーブル山盛りの木の実と、その料理を並べていた。デザートも、クッキーまで。


「この山いちの木の実、この山いちの家庭料理、りすさん、ようこそ。どうぞよろしく。さあ、食べましょう!」


 

 みんなで仲良く椅子に座って。たんと、食べましたとさ。


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はりねずみ診療所 やくろ @896desu

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