きつねの患者さん―こたえ1

  二匹が小道を歩いたあとには、小さな足跡が残っていた。道端におちている葉っぱを横目に後ろ足を交互に、交互に出していく。


「それじゃ、いったいだれなんです?」

「いまはかいもく検討もつきませんが、行ったらわかるでしょう」


 そう言って水辺のほう…、この森じゃちょっと有名な湖の方へと歩いていった。

 湖は夏には観光客がやってくる。隣町の森から街を渡って来るほど気持ちがいいもので、やっぱり、水辺にはたくさんパラソルが並んでいた。


「すごいひとだ」


 はりねずみは動物たちの足元をすり抜けていき、きつねはそれを追いかけて、動物たちを押しのけては後ろでつっかえるだんごができてしまっていた。やっと抜けたかと思うと、そこにはさらにの行列ができている。いったいなんの?


「さあさあ、よってらっしゃいよってらっしゃい!ふかふか羽毛布団の新作だよ!!」


 ねずみが言っていたやつだ。行列には、いろんな動物が並んでいて、くま、りす、とんび、それからあらいぐまなどなど。このために早起きしてきたんだ、なんて声も聞こえてきた。

 太陽が空の真ん中にきて、いよいよ暑くなってきた。すぐそこにある水辺がうらやましくてついつい目をむけるときつねが、いいですよと言ったので、はりねずみは水に飛び込んでいった。


「はあ、気持ちいい!」


 あおむけになってぷかぷかと浮かぶと、小さな手で泳ぎだす。動物たちは沖の方で泳いでいるので、いがいにもゆったりと泳げるものだ。背中からお腹まで冷えがまわると、岸の方へ戻っていく。がしかし、うまくいかないもので戻ろうにもうまくいかない。手をジタバタとさせているとやがてひっくりかえり、そのまま、鼻だけだして泳いで帰ってきたのであった。


「気持ちよかったですか」

「ええ、そりゃもちろん」

「私もこのいたみがなおったら、入りたいです」


 そうしていると順番がまわってきた。


「やあおふたりさん、ご入用で?」


 かものはしのばあさんは、少し重たそうに袋を後ろに抱えていた。


「いや、まあ、はあ。似たようなものですが…」


 はりねずみは少しためらった。


「そうかいそうかい、どれくらい必要なんだい?4家族分?6家族分?豊作でねえ!」

「そうですか。いやじゃあ、その、1家族分で」

「まいどあり!木の実10個だよ」


 はりねずみがそこできつねの顔を見ると、きつねは上着のポケットから木の実10個を取り出した。この森では、木の実、どんぐり、またはいちごの実(これは最高級)が、こうして物を交換したりするのに使われるのだ。

 はりねずみはまさか、それが必要になるとは思っていなくて、手ぶらで来ていたのだ。


「あの、それでですな。その羽毛布団はどこで手に入れたんです?」

「なに!?なんだって!?あんた商売がたきになろうってのかい!だめだめ!教えらんないよ!」

「いやいやちがいます、このきつねさんがね、ちょっくらケガをしていましてね。ちょっと関係あるんじゃないかと思ったんです」

「はあ、そうなのかい」


 かものはしのばあさんは、じとりと差し出されたきつねのしっぽを見た。


「そういうことなら仕方ない、まああたしもある一匹から仕入れてるから、詳しいことはしらないけどね…―」


 そういって教えてもらった場所は、きつねの家のそばだった。


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