はりねずみ診療所

やくろ

きつねの患者さん―なぞ

 森の中の小さな木の根元に一匹のはりねずみが住んでいた。もう年寄りなのか、背中は丸いし、眼鏡はかけているし、後ろ足で歩くのも大変そうである。だからといってはなんだが、たいていは座っていて家の中で歩くといえばあたたかい紅茶をつくるときだけだった。エプロンを腰に巻き、こぼれないように両手でカップに紅茶を注ぐ。その匂いが煙突を通って、いつも森のなかに広がるのだった。

 今日、その匂いを嗅ぎつけたのはきつねだった。


「もし、はりねずみどの」


 きつねは少しかがみながら、古びた木のドアをノックした。


「今日は、診てもらえますか?少し急いでいて」

「はい、はい。いいですよ、どうぞお入りなさい」

「どうもありがとう、先生」


 大きな動物のために、違うドアを用意している。ただきつねよりもっと大きくなれば、はりねずみは表の丸太に座るのが普通なのだ。

 先生と呼ばれて、はりねずみはひげをピン、とのばした。それからきつねが入ってきて、椅子へとすすめた。


「今日はどうされましたか」

「先生、最近ね、どうもおかしいんです」

「なにがおかしいんです」

「しっぽがね、おかしいのですよ」


 きつねはそう言って背を向けて、しっぽをはりねずみにみせた。


「こりゃたまげた、すっかり禿げているではないですか」


 きつねのしっぽの先はすっかり禿げていた。丸い形で、むしくいのようだ。今は夏の真っ只中で、もう毛替えの時期は過ぎているはずだから…。


「それからね、どうも夜中にうなされるんです。こないだなんか、死んだ親父の夢まで見ちまいました!」

「それはこまった。いったい何が原因なのだろうね」


 二匹は頭を抱えた。


「なにか、変な木の実でも食べましたか?」

「いいえ、いつも食べているモンです」

「それでは、腐っていたとか」

「家内も一緒に食べてるんです、それはない!」

「では、ベッドにがいるとか」

「いやいや、いつも綺麗にしてますもの、毛づくろいだってかかさない」


 はりねずみはこうして、動物たちの相談にのるのだ。いつからかは本人も覚えていない。いつの間にか、こうして面倒をみてやっているのだ。


「困ったねえ」


 一口紅茶をすすると、はりねずみは目をぱち、と開けた。


「そう、そうだ。ちょっとでかけましょうか、きつねさん」


 はりねずみは外に出た。そうだった、夏なのだ。でも、太陽の光は木の葉っぱがいいカーテンになっていて気持ちがいいほどだった。

 きつねに道を聞きながら、彼の家をたどっていく。その途中で、きれいに咲く花の根本で涼んでいるねずみにでくわした。


「やあ、はりねずみ」

「こんにちは、ねずみさん。ごきげんそうで。」

「そりゃそうさ!なんたっていいものが手に入ってなあ」

「そりゃいったい、なんなんです?」

だよ!知らないのかい?」

「それは、しりませんでしたなあ」

「今、かものはしのばあさんが、水辺で配ってるんだ。行ってみたらいい」


 そう言われて、きつねとはりねずみは顔を見合わせた。とりあえず行ってみるか、とそんな感じであるきだしたところで、


「いたい!」

「おやおや」


 きつねがいたいと、言った。いたかったのは禿げているのと同じところで、でも、さっきより少し丸い部分が大きくなったようにみえる。


「こりゃ、盗られてますな」

「ああ、ぼくもそんな気がしたんです。ということは、かものはしのばあさんが犯人ですか?」

「そうとも限りますまい!」


 木の小道を、二人は慎重に歩いていくことにした。

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