【その他】あいむ のっと ガイジン【ジャックとの出会い編】

 大衆的な、わちゃわちゃしたバーでの出来事。

 世楽は飲んだことのないジャックダニエルを飲んでみようと思い、カウンターへ向かいました。


「ジャックダニエルをストレートで。あと、ナッツとチェイサーに水をください」


 代金と共にしっかりとそう告げたハズです。

 すると――


「Whisky?」

 

 日本語でないイントネーションが返ってきました。相手は見た限り日本人です。


――なぜ日本人である俺が同じく日本人らしき店員にたどたどしく英会話されなきゃならんのだ? 実に流暢な日本語で注文しただろうに……。


 目くじらを立てても仕方ありません。頷きながら「ジャックダニエル」と飲みたい銘柄を再び告げます。

 すると――


「Single?」

――ぱーどぅん?


 今度は細かい量を訊ねられました。オーケィ、そうだね。ガイジンはダブル多めで飲む人もいるよね。


「し、しんぐる……で」(人刺し指で1を示しながら)

――今からでもいい! 己の間違いに気づくんだ、店員よっ!


「OK」


 店員は首肯するのみでした。

――OMG!!


 そして結局、世楽の前に給仕された品は――


○ジャックダニエル ストレート シングル

○ナッツ

○シーバスリーガル ストレート シングル


「……すぅー」(思わず鋭いため息が漏れる)


――水は? チェイサーどこ行った!?

――シーバス何処から出てきた?

――会計が合わんぞ!? 損してるぞ、店ぇ!

――というか、おかしくないか? この注文内容。疑問を抱かないのか?

――頼んでないと言うべき……だが、無理だ! 相手は日本語が通じない日本人!


 結局、世楽は全てを受け入れました。甘いウイスキーをストレートで続けて二杯。とっても甘かったです。


「甘いなぁ……おかしいなぁ……」


 世楽は終始首を捻り続けました。


「甘いなぁ……おかしいなぁ……」

 

 子曰く、過ちて改めざる、是を過と謂ふ。


 ジャックダニエルとの出会い。それは一夜の過ちに彩られた甘くも苦い想い出なのでした。


「甘いなぁ……おかしいなぁ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る