第22話~願い~

 ここは、どこだろう?真っ白な所に、出口が二つ。きっと死後の世界ってやつだよね。だってあの日、私は魔法の使い過ぎで死んだはずだもん。

「サクラ。」

「え、サクラさん!?」

 後ろから呼ばれて、振り向くと、サクラさんが立ってた。あれ?なら、ここは記憶の間?

「あの、ここはどこですか?」

「狭間の世界、かな。少し話さない?」

「はい…。」

 狭間って、何と何の?ま、まさか、天国と地獄!?や、やだな〜。

「サクラの魔法、どうだった?」

「あ、すごい魔法だなって思いました。でも、やっぱり危険かなって…。」

「そりゃ、あんだけ継続したらそうなるよ!」

 正直にそう言ったら怒られた。そうだよね。私も危険だって分かってたもん。でも、やるしかなかった。

「なんであんな無茶するの!」

「そ、それは、フウくんを守りたくて…!」

 フウくんの名前を口にすると、途端に寂しくなる。ここには、フウくんはいない。私が、望んだ通りになったんだ。なら、幸せになってほしい。

「あのね、あなたの大切な人が今、どうなってるか教えてあげようか?」

「え?」

 そう言ってサクラさんは鏡を出してくる。そこに映ってたのは、ベッドに寝てる私と、その横で泣いてる、フウくんだった。

「フウくん…。」

「彼は、あなたの帰りを待ってるの。」

「へ?」

 なんで?だって私、あの時確かに…。

「今、ここにはいないんだけど、彼の御先祖様、私のフウくんが、魔法を使ったの。回復の魔法を。」

「回復の?」

「うん。私のために作り出してくれた魔法。回復師の身体的負担を回復する魔法なの。それで、あなたは回復した。」

 そうだったんだ。あれ?じゃあ、ここは…。

「ここは、生と死の狭間の世界。あなたは今、二つの選択肢がある。」

 生か、死か。それは、言われなくてもわかった。

「あなたは、彼と生きていたいと言った。なら、行きなさい。」

 でも、本当にいいのかな?私は、フウくんと生きていいのかな?

 そんな時、指輪が光る。フウくんからもらった、大切指輪。サクラさんがつけてる物とは、少し違う。

「すてきな指輪ね。」

「はい。」

 その指輪は、やがて私に色んなものを見せてくれた。

『大丈夫?』

『俺の名前は『フウ・ガルディアン』。多分同い年くらいだろうし、気軽に『フウ』って呼んで。敬語もいらないから。』

『『サクラ』…。なんだか、懐かしい名前。なんでだろうね?』

『俺たち気が合うのかな?』

『サクラが名前そのままなのと同じように、俺も一緒。前世の名前は『フウ・ガルディアン』。君のそばに、誰よりもそばにいた騎士だよ。』 

『あの日、君が記憶のカギを俺たちに託した日、俺は君に聞いたんだ。『その時、俺たちがどんな状況であろうと、君にその状況を話して、一緒に鍵を探してもいいのか』と。君の答えはなかった。それでも、今君がそれを望むなら、俺は手を差し出すよ。この手を取るかは君の、サクラの自由だ。』

 ようやく再会した日、フウくんは優しくそう言ってくれた。

『今度はちゃんと守るよ。そのために強くなる。だから、もう一度俺にチャンスをちょうだい。』

 「護りきれなかった」と後悔した日、力強くそう言ってれてくれた。

『サクラ!すぐ行くから、待ってて!!』

 カエデにわざと捕まった時、目を見て必死に言ってくれた。

『俺は、俺たちは何があっても、サクラの味方だからね。』

 記憶を取り戻す前。不安そうに、そう言ってくれた。

『前世ではだめだったけど、今世では一緒になりたいんだ。それに、なにより『今」』の俺は、『今』のサクラが大好きなんだ。』

 記憶を取り戻した後、そう言って告白してくれた。

『どこにも行かないよ。』

『大丈夫、ここにいるよ。』

 不安で震えてる時、そう言って抱き締めてくれた。

『約束して。最後の戦いが始まったとしても、俺から離れないって。』

 怖くても、約束してくれた、あの言葉。

『大丈夫。誰もあいつの言葉なんて信じないから。大丈夫。』

 恐怖に駆られた時も、何度も大丈夫って言ってくれた。

『何があっても、二人で、ううん、みんなで帰って来よう!そのためなら俺、なんだってするから!』

 力強く、そう約束してくれた。

『サクラ。』

『サクラ!』

『サクラ…。』

 いつだって、名前を呼んでくれた。

「…っ!」

 指輪が見せてくれた思い出が、私の事を揺さぶった。

 帰りたい。そう思った。たとえ、フウくんの側にいる権利がなかったとしても、隣にいさせてほしい。

「フウくん、フウくん…。」

「帰ろう?」

 サクラさんが、優しくそう言ってくれる。それに、何回も頷く。

「うん、うん。帰れるんだよ。」

「良かった…良かった…!」

 帰れる、帰れるんだ。フウくんの所に。また、名前を呼んでくれる。今度は、一緒に生きていける。

 今度は、離れなくていいんだ。


「出口、あっちね。」

 落ち着くのを待って、サクラさんが言ってくれた。

「はい、ありがとうございます。」

 そう言って、歩き出した。フウくんの待ってる所に行くために。

「行ってらっしゃい、今度は、失敗しないでね!」

「はい!!行ってきます!」

 サクラさんのその言葉に私は、笑顔で手を振りながら光の出口に向った。


「行っちゃった。」

 サクラを見送って、私は呟いた。今度は、失敗しないでほしい。ちゃんと、フウくんと幸せになってほしい。

「頑張ってね。」

 私の願いも込めてそう言う。私はこの世界に来て、沢山探したのに、フウくんに会えない。ここに来れば、一緒にいられると思ったのに…。もう、会えないのかな?

「やっと、見つけた…!!」

 後ろからそう言われて、振り向けば、息を切らしたフウくんが立ってた。なんで、ここに?

「サクラ、探したよ…。」

「フウくん…。」

 そう言って私を抱きしめる。ああ、フウくんの温もりだ。懐かしい。

「もう、放さないから。」

「私も、もう、離れない…!」

「うん、一緒にいよう。」

「うん…!」

 ああ、やっと、やっと、私の願いが叶う。

 ありがとう、探してくれて。見つけてくれて、ありがとう! 

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