第23話~目覚め、そして~

 柔らかい、布団の感覚。暖かく包まれる私の左手。

 ああ、帰って来た。あの白い空間にはない暖かさだ。そう思うと、涙が滲む。

「サクラ…?」

 閉じた目に滲んだ涙を、優しい手が拭ってくれる。フウくんだ。少しずつ、少しずつ目を開ける。

「…っ!」

 私が目を開けると、フウくんは目を見開いて私を見ていた。充血してる目、その下に、隈はなかった。少しは、寝たのかな?

「サクラ!!」

 その目いっぱいに、涙を浮かべながらフウくんは私を呼ぶ。その声が、喜んでるように感じるのは、私の勝手だよね。

 身体を起こすと少しふらつく。フウくんはすかさず支えてくれる。優しい手が、背中を支えてくれる。

「フウくん…。」

「サクラのバカ!!」

 私が名前を呼ぶとそう言って怒られる。

「なんで、あんな無茶するの!?言ったじゃん!『あの時と同じ事しなくていい』って!」

「ごめんなさい。でも、フウくんを、護りたかったから…。」

 そう言うと、フウくんは息を詰まらせる。

「でも、それでも、俺は…。」

 そう言って、言葉を詰まらせる。

「それに『幸せだった』なんて、言われたく、なかった…。」

 そう言えば、言ったっけ。最後に伝えたくて。本当に、幸せだったんだもん。

「だから、もうそんな事言うの禁止ね!」

 フウくんはそう言って背中を支える手に力を込める。その手が震えてる事に、今更気付いた。

「もう、俺から勝手に離れてどっか遠くに行くの辞めてね。」

 そう言って、私を見る。不安で仕方ない、みたいな顔されてる。

「うん、もうあんな事しない。約束する。ごめんね、自分勝手に遠くに行って。」

 私がそう言うと、フウくんはやっと、笑ってくれた。いつもと同じ、優しい顔。

「良かった…。帰って来てくれて。」

「私も、良かった。帰って来れて。」

 もう、帰る資格はないかもしれない。もう、フウくんの隣にいる資格は、ないかもしれない。そう思って来たのに、そんな心配いらないくらい、優しく出迎えてくれた。それが、何より良かった。


「フウー、サクラどうー…?」

 そう言ってアスカちゃんが入って来て、固まった。うわ、まさかこのタイミングで来るとは…。怒られるんじゃ…。

「サクラ、起きた!!やった!」

「ア、アスカちゃん、あの…。」

「待ってて!今カエデとそらさんたち連れて来るから!だから、抱き合ってないでフウは医務の先生連れてきて!」

「は、はい!!」

 事情を説明しようしたけど、アスカちゃんはバタバタと出て行ってしまう。う、う〜ん、微妙に突っ込まれたよね。そう思って首をかしげるとフウくんは少し笑った。

「アスカもそうとう心配してたし、許してくれたんだよ。とりあえず、アスカの言う通りに言ってくるね。あ、なんか飲みたいものとかある?」

「ううん、いらない。」

「ん、りょーかい。じゃあ、ちょっと待っててね。」

 そう言って、フウくんも行ってしまった。すぐ、カエデたちが来てくれたけど。

「サクラ!本当だ!起きてんじゃん!!」

「そう言ったでしょ!」

「サクラさん!!」

 そう言ってみんな入って来る。良かった元気そう。

「サクラさん、もう起きてて大丈夫なんですか?」

「うん、意外と元気。今、フウくんがお医者さん呼びに行ってるけど。」

「良かった。なんかもう、起きてくれた事が嬉しくて、あの…。」

 そう言ってそらさんは泣き出してしまった。本当に、心配かけちゃったな。

「心配かけて、ごめんね。」

 そう言って、頭は撫でられないから、せめて背中をさする。

「そら!もう、心配だったのは分かるけどさ〜…。すみません、サクラさん。」

「ううん、私が悪いんだもん。いいよ。」

 ワタルさんがそう言うから、余計申し訳ない。

「そうよ、元はと言えばサクラが悪いんだから。あんな、あんな無茶して…!」

 そう言って怒りながらアスカちゃんも泣き出す。そんなアスカちゃんを抱き止めながら、カエデも涙を浮かべてる。

「ごめんね、みんな。」

「…起きたから許す!」

 涙を拭って、カエデがそう言う。その言葉にみんな頷いた。良かった。ここにいていいんだ。

「ありがとう。」

 そう言ってると、お医者さんが来てくれて、とりあえず男性陣は外に出て、診察が始まる。

「うん、特に問題はないね。今日からご飯いっぱい食べなさい。いいね。」

「はい、ありがとうございます。」

 そう言ってお医者さんは帰って行った。

「よし、じゃあ今日はサクラ復活祝いね!食堂のご飯、多めに頼まなきゃ!」

「ん?アスカの飯じゃねーの?」

「この人数作れって言うなら今から一時間以内に買い物終わらせてもらうけど?」

「…食堂でいいです。」

 カエデとアスカちゃんがそう言うと皆笑う。その時、また私のお腹が情けない音を出した。

「…聞こえた?」

「はは、相変わらずかわいい音だね。」

 フウくんがそう言ってまたみんな笑う。うう〜、やっぱり聞こえてる…。

「まあ、3日くらい?飲まず食わずで寝てたんだし仕方ねーな。」

 カエデがそう言う。そしたら今度は別のお腹が鳴いた。みんな私を見るけど、違うからね!

「すみません、私です…。」

「そらか!」

 予想外で、またみんな笑う。なんか、これが本当の日常だよね。

「まあ、お腹空くよね。よし、今からおばちゃんの所行ってくる!行くよカエデ!」

「えー!俺もかよー!」

 そう言って二人は走って行ってしまった。

「あ、ワタル。ちょっと本部長に報告に行くんだけど、一緒に来てくれる?」

「あ、はい!分かりました。」

「そらさんは、ここにいてね。」

「はい。」

 そう言って、二人も出て行ってしまった。当然、部屋には私とそらさんだけ。

「そらさん。」

「はい。」

 二人きり。でも気まずい雰囲気ではないな。

「あのね、最後の戦いの時に、そらさん、きれいな空が出て来たでしょ?」

「はい、あれ、なんなんでしょうか?」

 まさか、そらさん気付いてなかったんだ。っと言うより、知らなかったんだ。

「あれね、ヒンメロ・アンジェロ姫特有の魔法で、範囲強化魔法なの。」

「え!?ご、御先祖様の!?」

「そう。知らなかった?」

 私がそう聞くと、コクンと頷く。

「優しい、ヒンメロ姫の魔法。あなたにもきっと使いこなせるはずだよ。」

「本当ですか!?」

 そう言って、目をキラキラさせる。嬉しいんだ。良かった。

「うん。まあ、時間はかかると思うけど、頑張ってね!」

「はい!」

 そう返事をすると、少しそらさんは考える素振りをする。なんだろう?

「あの、なんでサクラさんは、私の御先祖様の事とか分かるんですか?」

「ん?知りたい?」

 それにもコクンと頷く。やっぱり、あの頃のヒンメロ姫と変わらない。

「それはね、御先祖様同士がすっごく仲良しだったから。」

「え!な、仲良し!?」

 そう言ってすごく驚く。分かるよ。びっくりするよね。

「うん。周りの人から姉妹みたいって言われるくらい。」

「そんなに…。」

 目をまん丸くしてそう言うから、かわいいな。

 でも、やがて、今度は恥ずかしそうにしながら言った。

「あ、あの、その、もし、サクラさんが良ければ、その、御先祖様たちみたいに、仲良くさせてもらえませんか?」

「え!?」

 正直驚いた。まさかそう言われると思ってもみなかった。

「あ、あの、ご迷惑じゃなければ…。」

「迷惑なんかじゃないよ!すごく嬉しい!」

「ほ、本当!?」

 そう言って、「あ、すみません」なんて言う。謝んなくていいのに…。

「良かった、ありがとうございます。」

「ううん、いいよ。じゃあまず、その敬語を辞めなきゃね!」

「え!?け、敬語ですか!?」

「うん!仲良しなら、敬語は必要ないでしょ?」

 そう言うと、「うう〜…。」と唸る。そして不安そうに私を見る。

「い、いいんでしょうか?」

「何が?」

「だって、サクラさんは、その、本部所属のエリートで、私はただの艦隊所属ですよ?そんな、身分の差と言いますか…。」

「え!?そ、そんな事いいのに!!」

「で、でも…。」

 そっかー、そう言うの考えてちゃう子なんだ〜。やっぱりこの辺も、あの頃と同じだな〜。

「大丈夫!私、ここ辞めるから。」

「え!?」

 そう、ここに入る時の条件。事件が終わったら、ここを辞める。それが決まった時はどうしようかと思ってたけど、今はやりたい事がある。

「出来るか分からないけど、ベスト王国の再建をしようと思うの。フウくんもここを辞めて一緒にやるって言ってくれてるし、カエデとアスカちゃんも仕事しながら手伝ってくれる。だから、ちょっと頑張ってみようかなって。」

「すごい!!」

 私が言い終わると、そらさんは手を組んでそう言った。

「王国の再建って、すごい!」

 そう言う彼女がすごくかわいい。

「あ、すみません!私すごい失礼な事を…。」

「ううん、いいよ。あと、そう言う事だから敬語はいらない!そろそろ敬語は辞めよう!」

「…うん!」

 やっと観念したのか、少し照れながら頷いてくれた。かわいいな。こんなかわいいの、羨ましい…。

「せっかくだし、お互い呼び名も変えようよ!」

「そう、だね。えっと、サ、サクラちゃん、でいいの、かな?」

 たどたどしくそう言ってくれる。何これ、すごい嬉しい!!

「うん!じゃあ私もそらちゃんって呼ぶね!」

「うん!」

「ただいま〜。」

 そう言って入って来たのはフウくんたち。フウくんは、なんだか嬉しそう。

「フウくん、なんか嬉しそうだね。」

「サクラ聞いて!ワタルが俺の弟子になりたいって!初めてだよ、一番弟子だよ!すごくない!?」

「よかったね!!私はそらちゃんと仲良しになっちゃった!ね〜?」

「う、うん。」

 私がそう言えば、そらちゃんは頷く。これが、仲良しでいいんだよね。

「お互い、良い事いっぱいだね!あ、さっきアスカたちと会って、おばちゃん、準備出来てるらしいから早く来いって。本部長も呼んでるから。」

「おばちゃん、仕事早いね!!それじゃ行こっか!」 

 そう言って、私たちは歩き出す。お互い、大切な人と手を繋いで。


 考えてみれば、色んな事があったな。これから先、きっと予想外の事が沢山あるけど、それでも、多分大丈夫。だって、みんながいるから。あの頃とは、状況も違うから。

 そうですよね、サクラさん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る