第21話~幸せを夢見て~
翌日、私たちは一度五艦に戻った。非番にしてもらったけど、どんなことがあったかだけでも話さなきゃね。
「と、言う事がありました。」
「ふむ、なるほど。大変だったな。」
新しい艦長はわりとさっぱり物事を考える人だった。
「まあ、二人とも疲れてるだろう。それに、本部長から聞いたが、仲間が傷付いたんだって?」
「はい。」
「なら、その仲間が目を覚ますまで本部にいていい。本部長からも許可は出てるからな。」
「え?で、でも…。」
さっぱり考える人だからこそ、この提案をされるわけないって思ってた。ワタルくんも同じことも思ってたみたいで戸惑ってた。そ、そんな優しい人だっけ…?
「心配するな。現在五艦で持ってる案件は二人がいなくてもなんら支障ない。それに、仲間の事が心配だろう。お前たちは大きな事件を解決した。これくらいは優遇されても、罰は当たるまい。」
「…。」
なんだ。話しにくいし、堅物なのかなって少し思ってたけど、案外優しい人なんだ。艦長の意外な一面を見た気がする。
「ありがとうございます。」
ワタルくんとそう頭を下げる。
「そんな事してないで早く行け。」
「はい!」
艦長、本当にありがとうございます。
「そら、申し訳ないんだけど、俺これからよる所があるから、先にサクラさんの所に行ってて。」
本部に着くとワタルくんはいきなりそう言った。でも、きっと…。
「アリスさんと、あの人の所でしょ?」
「うっ…。」
私が言うとワタルくんは言葉に詰まる。やっぱり、分かるんだから。
「なら、私も行く。」
「いや、あの、そらに迷惑だと思うし、あの〜…。」
「い・く!」
「…はい。」
かなり強引だけど、こうしなきゃ絶対に一緒に行けない。一人がいいんだろうけど、一人で行かせられない。あの人と面会したら、絶対傷付けられちゃう。
「アリス・フェリーネに面会をしたいのですが…。」
「はい、アリス・フェリーネですね。三番の部屋でお待ち下さい。」
そう言われてみれば、お父様の面会以来、面会なんてした事ないな。まあ、ないのが一番何だろうけど…。
「あ、ワタル…。」
しばらくして、アリスさんが入って来た。アリスさん、老けたな。頬も痩けて、全体的に痩せた感じ。
「主犯格が捕まったので、ご報告に。」
「そう、あの方、捕まったのね。」
アリスさんはどこか上の空でそう言った。
「あの方、名乗った?」
「いえ。名乗ってはいないようです。」
「そうなの…。」
ため息混じりにそう言われる。もしかして、知ってるのかな?
「あの方の名前は、ラモール・リッター。私は、そう名乗られた。」
ボソッと言ったその言葉を、ワタルくんはメモしてた。『リッター』ワタルくんと、同じ名前…。
「でも、それくらいしか、知らない。役に立たないかしら?」
「いえ、ありがたい情報です。」
ワタルくんがそう言えば、満足そうに「そう。」とだけ言った。ここで、アリスさんとの面会は終了した。
「ワタル、ありがとう。」
「…失礼します。」
最後に投げられた言葉に、ワタルくんは特に何かを返したわけじゃなかった。
「…面会、出来るかな?」
部屋を出た後、ワタルくんはそう言った。そういえば、どうやって面会するんだろう?
「あの、もう一人、昨日捕まった男がいると思うんですけど…。」
「はい、本部長よりお話は来ております。特別面会室へどうぞ。」
「…?はい。」
心配してたわりにはすんなり面会出来るみたいだった。ってあれ?なんで本部長さんから?
「やあ。」
「どうも。」
親子水入らずにしたいけど、そうもいかない雰囲気だよね。ワタルくんはなんだかピリッとしてる。
「ワタル、私は謝りたい事が一つあるんだ。」
「何だ?」
素っ気ないワタルくんの対応。当たり前だよね。仕方ないよね。だって、傷付いたんだもん。
「実は、私は自分の妻、君の母親を見殺しにした。」
「…っ!見殺しって…!」
衝撃の事実に、ワタルくんだけじゃなくて、私まで驚いた。見殺しって、何?どういう事?
「昔、私の研究所が襲撃にあってね。その時に、妻は死んだ。私たちを守ろうとしてね。その時、私は何も出来なかったんだ。」
そんな事があったんだ。
「その犯人は捕まったんだが、その時君は、目の前で母親を殺させたショックで記憶を失った。そして私も、そんな君を受け入れられなかった。だから、通報をして、他人の振りをして、君を託児所に預けた。」
ワタルくんは、黙って聞いてた。辛い現実を、受け入れようと。
「それからは、君の知っての通りだ。彼等の事は憶えていたから、見つけ出してあの頃と同じようになるように仕向けた。」
「そうか…。」
ワタルくんはそう言った。そして、少しスッキリしたような顔をした。
「良かった。それが知りたくて来たんだ。」
「ワタル…。」
「ありがとう。」
ワタルくんは、やっと『満足した』って顔をした。そっか、満足したかったんだ。
「それだけ分かれば充分。じゃあ俺、用事あるから。」
「ワタル!」
あの人がそう呼ぶ。
「頼む、幸せに、なってくれ…。」
「…分かった。」
ただ一言、そう答えただけだけど、あの人は充分みたいだった。
面会室を出て、しばらくするとワタルくんは立ち止まった。
「そら、もう一ヶ所、寄り道付き合ってくれない?」
「いいよ。」
「ありがとう。じゃあ、目つぶって。」
「へ?あ、うん。」
そう言われて目をつぶる。そしたら今度は転移される感覚。どこに行くんだろう?
「目開けていいよ。」
そう言われて目を開けると、そこは私たちが最初に出会った公園。
「懐かしいね。」
「うん。」
ワタルくんに言われて素直に頷く。私たちはここから始まったんだ。
「それで、そらに渡したい物があってさ。」
「私に?」
「うん。」
そう言ってワタルくんが出したのはきれいなネックレス。
「これは?」
「えっと、実はさ、パートナーを組んだ人たちって目印みたいな感じで、お揃いの物つけてるでしょ?ちょっと真似してみたくて…。」
恥ずかしそうにワタルくんはそう言う。そう言われてみれば、私たちにはそう言う目印はない。気にしてたんだ。
「ありがとう!ねえ、ワタルくん。かけてくれる?」
「…!うん!」
ワタルくんはそう言って私の後ろに周る。
「はい、出来た。」
「ありがとう!きれいだね。」
胸元に下った大きな宝石を手に取りながらそう言う。空みたいなきれいな青で、私の大好きな色。
「ワタルくんにもつけてあげる!」
「やった!」
そう言ってワタルくんの後ろにいったけど、身長が届かない。
「す、少し屈んでもらっていい?」
「あはは、いいよ。」
私がお願いすると、ワタルくんは私がつけやすいように屈んでくれた。うう、ワタルくんって、こうして見ると、少し大きいよね…。
「よし、出来た!」
「ありがとう!」
そう言ってワタルくんの正面に行く。お互い、お揃いの物をつけてるのがなんだか照れくさくなって笑った。
「これ、そらをイメージして作ってもらったんだ。」
「そうなんだ。あ、お金とかは…?」
「いらない。」
きっぱりそう言われて、一瞬戸惑う。だって、こんないいものなのに…。
「この前言ったでしょ?そらがいてくれればそれでいいって。」
改めてそう言われて、顔が熱くなる。今考えると、なんか告白みたいな…。
「だから、一緒にいてほしいんだ。」
「…っ!そ、それって、あの、えっと…!」
「ふふ、そんな慌てないで。ただの告白だから。」
ただのって、ただのって!!慌てるよ!
「ほ、本気、なんだよね?」
「あ、あの、それ、言わせる?」
で、ですよね〜…。
「へ、返事は、いつでも…。」
「わ、私も!」
ここで先延ばしにしたら絶対言えなくなる!それだけは確信出来る!ワタルくんの事大好きなんだから、頑張んなきゃ!
「私も、ワタルくんと一緒にいたいよ!!」
「そら…。」
顔真っ赤、それくらい分かる。でも、後悔はないよ。ちゃんと伝えられた想い。いつの間にか、積み重なった想いを、ちゃんと伝えたから。
「ありがとう!」
ワタルくんとそう言ってまた笑う。そして抱きしめてくれる。
これからの日々を幸せに暮らしたいな。
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