第16話~伝えたい想い~

 『サクラの魔法』。それは、ご先祖様の名前の由来である『サクラの花』をイメージして作られたものだった。

 『サクラの花』はもともと、木にその花をつけ、その花は光の蜜は、どんな傷でも癒やす事が出来た。そして、私たちにとってこれは最後の手段でもあった。傷ついた人を、癒すための。

「懐かしい…。」

「アスカちゃん!!」

 見るとアスカちゃんは立ち上がって、サクラを見ていた。カエデも少しずつ動いてる。良かった、間に合ったんだ。

「ありがとう、サクラ。」

「良かった…。ほんとによかったよ…。」

「サクラ…。」

 そう言って泣いてしまった。まだ、戦闘中なのに、安心してしまう。

 そう思ってると、頭をポンと叩かられる。振り向くとカエデが立って私を見てる。

「カエデ!!良かった!」

「おう、ありがとな!」

 そう言って、髪をわしわし撫でられる。後はフウくんだけだと思って腕の中を見ると、まだ苦しそうにしていた。

「フウくん!!」

「サクラ…。」

 フウくんは本当に傷が深くてまだ治らない。これじゃ、間に合わない。

「フウくん、ここに座ってて。」

 木にもたれさせて、すぐ近くの花を探す。一番低い場所でも、届くか分からない。

「させない!!」

 そう言って、ディーアブルが私を狙う。

「サクラ!!」

 でも、その球は私たちの少し手前で消える。結界も一緒に張られるから、私たちに危害を加える事は出来ない。そらさんたちも、入ってるから問題ない。

「それ!!」

 なんとか花を取れたから、フウくんの所に持っていく。

「フウくん、口開けて。」

「うん…。」

 フウくんの口に蜜を垂らすと、傷が塞がってく。間に合ったかな?

「…大丈夫?」

「うん、ありがとう。助かったよ。」

「ううん、お礼は、そらさんに言って。」

 そう、そらさんがいたからこの魔法を使えたんだ。

 そらさんの御先祖様はヒンメロ・アンジェロ姫。彼女の得意魔法は『回復』と『強化』。この二つが同時に使える人を、私は彼女しか知らなかった。

 でも、それはちゃんとそらさんも出来ていた。使う直前、そらさんが回復結界を作った時、一瞬だけ、青空が見えた。本当なら、建物の中だしあり得ない。でも、私は見たんだ。そして、それを見た私の御先祖様が、使うように言ってくれたんだ。

 『範囲強化魔法』これが、ヒンメル姫特有の魔法だった。

「また、護りきれなかったね…。」

「え?」

 考え事してると、不意にフウくんがそう言った。護りきれなかったって、誰を?

「俺、またサクラに護ってもらっちゃった。騎士の名折れだね…。」

 そう言って、落ち込んでる。そう言うフウくんの頬に触れた。

「護ってくれたよ。」

「え?」

 私の言葉に驚いて、フウくんが目を見開いていた。

「いつ…?」

「いつも。」

 そう言えば訳わかんないみたいな顔をされる。当たり前なのにな…。

「いつだって、フウくんは私の側で、私を護ってくれて…。いつだって、私を支えてくれた。」

「でも、今は…!」

「今だって、ちゃんとここにいられるのはフウくんのおかげだよ。」

「…。」

 本当の事しか言ってない。本当の事しか言わない。今ここで立っていられるのだって、フウくんのおかげ。

「あの日、フウくんが私を見つけて、私を護ってくれなきゃ、私は自分の運命から逃げてしまってた。だから、フウくんのおかげ。」

 きっと、あの人たちはそろそろ動き出す。でも、その前に、ちゃんと伝えたい。サクラの木に後押しされて、言える事は、今、言ってしまいたい。

「ありがとう、あの日、私を見つけてくれて。」

「サクラ…?なに、言って…。」

 そう、多分もう、時間がない。

「一緒に、戦わせて。」

 例えこれが、最後になったとしても…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る