第6話~ワタルとそら~

 朝。久し振りにぐっすり眠れたから、いつもよりちょっと早起き。ほんとにちょっとだけど。

「そら、入るよ〜。」

 そう言って、ワタルくんが入って来る。

「おはよう。昨日は眠れた?」

「うん、ぐっすり!あ、おはよう。」

 私がそう言うと、少しホッとしたように笑った。

「そっか、良かった。いつもより元気そうだね。顔色もいいし、隈も綺麗になってる。」

「ほんと?嬉しいな。」

 隈がきれいになってるのは嬉しいな。最近は鏡見るたびにため息ついてたから。

 そんな話をしてるとノック音が聞こえる。

「どうぞ。」

 そう答えると、カエデさんとアスカさんが制服姿で入ってきた。アスカたち、やっぱかっこいいな~。

「失礼します。そらさん、ワタルさん、本部長が呼んでる。」

「本部長さんが?」

 いきなりの呼び出しで驚いたけど、とりあえず本部長室に向かう。

「失礼します。我々をお呼びでしょうか?」

 ワタルくんがそう言うと本部長さんは少し暗い顔をしていた。

「ああ、申し訳ないね、いきなり呼び出して。まあ、座ってくれ。」

「はい、失礼します。」

 基本的に、こういう時の対応はワタルくんに任せる。私は慣れてないから、ちょっと怖いし、どうしたらいいか分からない。

「今日呼び出しのは二人の事で聞きたい事があってね。」

「聞きたい事、ですか。」

 ワタルくんがそう言うと本部長さんはしっかり頷く。

「ああ。君たちのご両親について聞きたいんだ。」

「え?俺たちの、ですか?」

「ああ、教えてくれるかな?」

 そう言われて、二人で顔を見合わせる。とりあえず、話せばいいよね。

「私は、母は14の時殺され、犯人も見つかっています。父は、殺人を犯しましたが、主犯格の人間に操られていたらしく、現在は本部の情報関連の仕事をしています。三波西呉と言う名前です。」

「ああ、三波さんの。そういえば名前が同じだね。あの方はよく働いているよ。いいお父様だね。」

「きょ、恐縮です。」

 お父様の事を褒められるってなんか変な感じだな。

「で、ワタル・リッターさんは?」

 そう言われてワタルくんはビクッとする。そうだ。ワタルくん、なんて言えばいいんだろう?

「…父も母も、自分が幼い頃に何かの事件に巻き込まれ、消息不明です。私の仲間が調べてくれた話によると、殺された可能性があると…。」

 ワタルくんは包み隠さずそう言った。仲間って、バドさんだよね。消息不明なのは知ってたけど殺されたなんて…。

「なるほど。そういえば君は保護されたんだったね。すまないね、嫌な事を思い出させて。」

「いえ。」

 ワタルくんはそう言って笑ったけど、本当は辛いよね。だって、顔ひきつっちゃってるもん。

「だが、殺されたわけではなさそうだ。」

「え…?」

 本部長さんの意味深な言葉に不安がつのる。何か、これから嫌な事が起こりそう。

「実は、これを見てほしいんだ。」

 そう言ってモニターに映し出されたのは何かの数字。

「これは?」

「これは、現場に残っていた主犯格の男性の血のデータを数値化したものなんだ。そして、こっちが君、ワタル・リッターのものだ。」

「…っ!」


 その二つは、ほとんど一緒だった。


「これ、なんで…?」

「この数値のずれ方は特徴的でね、高確率で親子なんだよ。」

 それを聞いてワタルくんの体が強張る。

「それって、つまり、その人が、俺の…父親って事ですか?」

「その可能性が高い。」

 そんな、嘘でしょ?ワタルくんのお父さんって、事件に巻き込まれたんじゃないの?これじゃまるで、お父さんが…。

「そんなの、信じたくありません。」

 ワタルくんははっきりそう言う。きっと私と同じように思ったんだ。

「ああ、私も信じたくないよ。でも、その可能性があるという事を、心の片隅にでも入れておいてほしい。そう思って呼んだんだ。」

 そう言って本部長さんはモニターを閉じる。その顔はすごく辛そうだった。

「すまないね、嫌な話に時間を取らせて。話は以上だ。昨日の事もあったから君たちは非番にしてある。フウたちももう知ってるはずだ。ゆっくり休んでくれ。」

「はい。お心遣い、痛み入ります。」

「いいんだよ。」

「失礼します。」

 そう言って私たちは本部長室をあとにした。


 部屋に戻っても、ワタルくんは下を向いていた。嫌な想像ばかりが頭をよぎる。気持ちを切り替えるために、私はお茶を淹れて持って行った。

「ワタルくん。これ、よかったら飲んで。」

「…」

 そう言っても返事が帰ってこない。どうしよう。このままじゃワタルくん、おかしくなっちゃうかも。

「ワタルくん?ワタルくんったら!」

 お茶を置いてそう肩を揺するとようやく私に気づいてくれた。

「あ、ごめん、そら。どうしたの?」

 ひきつった顔でそう言うワタルくんは顔色が悪くて、途端に不安になる。

「そら?」

 私は、そんなワタルくんを見てられなくなって、抱き締めた。

「…っ!」

 ワタルくんは一瞬だけ体を離そうとしたけど、絶対に離したくなくて、力を込めた。それを感じてワタルくんは力を抜いた。

「ごめん、情けないよね…。まさか父親がこの事件に関与してるなんて思ってもみなくて…ちょっとショックだったんだ。」

 弱々しく、震えた声でワタルくんが言うから、全力で、首を振った。

「仕方ないよ、そんな事誰も考えないよ。ただ、少しくらいなら、甘えてほしいな。」

 私の言葉に驚いたのか、ワタルくんの体がビクッとした。

「甘えて、か。俺、前にそらに言ったね、同じようなこと。」

「うん、だから、今度は私に甘えてほしいの。だめ?」

 私がそう言うと今度はワタルくんが首を振った。

「ううん、ありがとう。じゃあ、もう少し、このままで…。」

「うん」

 そう言っていつもとは逆の立場になると、なんだかこっちも安心して、フウくんの事をもっと知りたくなって…。

 もっともっと、近くにいたいってそう思っちゃうんだよね。

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