第7話~もう一つの鍵~
あれから、カエデの事情聴取とか私たちの気持ちの整理とか色々あって、気付けば二週間くらい経っていた。カエデは、特に大きな罪は犯していないのと私たちの想いがあって、魔導士専門管理局の職員になった。この日はみんな揃って休み。私たちはようやく、記憶を取り戻すための儀式が出来る事になった。
「サクラ。」
「あ、フウくん。」
色々考えてると準備をしていたフウくんに呼ばれた。
「どうしたの?」
「どうしたのって…。準備出来たよ。サクラは行ける?」
「うん、大丈夫。儀式に必要な物はアスカちゃんがもってるんだよね?」
「そう。あとは、あそこに行くだけ。」
そう、それが気になってた。儀式ってどこでやるんだろう?
「ね、その『あそこ』ってどこなの?」
私がそう聞くと、フウくんは少し考えてから「内緒」って言った。
「えー!教えてよー!」
「行ってからのお楽しみ。こういうの楽しいじゃん?」
むしろ気になり過ぎて落ち着かないんですけど…。
「さ、そろそろ行くよ。アスカもカエデも準備出来てるって。」
「あ、うん。」
そう言って私たちは歩き出す。出口にはアスカちゃんとカエデ、それから本部長が手配してくれた護衛部隊の人たちと本部長本人がいた。
「お待たせしました。」
フウくんがそう言って部隊の人たちに声をかけた。
「いやいや、そこまで待っていないよ。」
そう言ってくれたのは本部長だった。本部長は私に向かって微笑んだ。
「いよいよだね、サクラ。」
「はい。」
今日は私たちは非番で、基本的に一般市民の扱いになる。しかも、私は敵から狙われてる保護対象。万が一に備えて本部長が護衛部隊を出してくれた。
「大丈夫。私が用意した護衛部隊は優秀だ。何かあっても必ず力になるよ。まあ、君たちの方がはるかに強いけどね。」
そう言って笑いかけてくれる。朝から緊張しっぱなしの私は、その笑顔で少し緊張がほぐれた。
「サクラ、昨日眠れた?目赤いよ?」
アスカちゃんに聞かれてギクッとする。
「実は、あんまり…。眠れなくて。」
実はあんまりと言うか全然眠れなかった。うとうとしていたら朝になってびっくりしたくらい。
「やっぱり…。」
「まあまあ、仕方ないだろ?今日が人生の大一番みたいなもんなんだから。」
アスカちゃんがため息混じりに言うと、カエデがそう言ってくれた。
「それもそっか。でも、体調崩したりしてない?大丈夫?」
「うん、大丈夫。早く行きたくてウズウズしてるくらい!」
「お!それは頼もしいな。」
そう言って笑っていると、部隊の人たちと話が終わったフウくんがこっちに来た。
「OK。部隊の人とも色々話せた。あいつらが来ることはないと思うけど、万が一戦闘になったら儀式が終わるまでは部隊の人たちに任せて、俺たちはサクラを守る事に徹する。それでいいかな?」
フウくんの言葉にみんなで頷く。不安は尽きないけど、心配ばかりしてても仕方ない。フウくんはそのための打ち合わせをしてくれてたんだ。
「じゃあ、行こうか。」
「うん!」
フウくんの声に、一番に頷く。それを合図にアスカちゃんが転移魔法の術式を唱え始めた。視界が青くなる。
「気をつけて、頑張っておいで!」
完全に青くなる前に本部長の声が聞こえた。
着いたのは広い草原。少し遠くに遺跡の様な物が見えた。初めて来る所なのに何故か懐かしい感じ。
「ここは?」
私の問い掛けにフウくんは優しく笑って「歩きながら話そうか」と言って歩き出した。隣に並ぶとフウくんが少しずつ話してくれた。
「ここには、とても賢い王様が治めてた国があったんだ。その方には優しい王女様と、王様に似た強くて賢い王子様、王女様に似た優しくてかわいいお姫様がいた。それから、そんな王家を尊敬していた国民や、護る騎士がいた。その人たちはみんな、平和で幸せな日々を送っていた。」
優しく語ってくれるフウくんはそこまでは軽く微笑んでいたのに、いきなり表情を変えた。
「でも、あいつらが来て、すぐにその日々は形を変えたんだ。あの日、この王国は崩壊した。」
そこまで言ったところで、さっきまで遠くに見えてた遺跡に着いた。そこでフウくんは哀しく笑って私を見た。あの話を聞いた時点で、ここはどこだか分かった。
「着いたよ。ここが、ベスト王国。サクラ姫が作った記憶の、最後の鍵。」
「え?もう一つ、あったの?」
初めて知る事実。鍵は3つじゃなかったの?
「うん。ここで、やる事が条件だったんだ。姫が望んだ、最後の夢。」
「最後の…。」
ここまで話したところで、アスカちゃんが私の肩を叩いた。
「さ、その先はきっと記憶を取り戻したら分かるから、早くやっちゃいましょ!」
「だな。えっと、アスカが全員分の儀式の服持ってるんだよな。」
「はいはい、今渡しますよ。」
全員に服が行き渡ったところで男女に分かれて着替えが始まった。アスカちゃんはすぐに着れたのに私の服は少し複雑な構造で、アスカちゃんに助けてもらいながらなんとか着ることが出来た。
「…その服、着てるのみると思い出すな。」
着替え終わったところでアスカちゃんがそう言った。
「あの儀式の日、私サクラと約束したの。」
「約束?」
もちろん憶えてなくて聞き返すと、アスカちゃんは首を振った。
「今は、まだ言わない。また記憶を取り戻してから言うね。だから、儀式、絶対成功させよ!」
そう言って笑いかけてくれる。ほんとは辛いはずなのに。早く、早く記憶を取り戻したい。
「うん!」
そう言って二人でさっきの場所まで戻ると、フウくんたちはもう準備できてた。
「お、遅いぞ、二人とも!」
カエデにそう言われて二人で謝った。フウくんはなんだか緊張してるみたい。
「フウくん、大丈夫?」
「へ?」
「なんか、表情が暗い気がして。緊張してるの?」
「あ…。」
私がそう言うと、フウくんは初めて気が付いたみたいで少し驚いてから笑った。
「そうだね、ちょっと緊張してるかも。」
「それは、私も一緒。」
私がそう言って笑う。記憶を取り戻すのは一族の悲願で、それがやっと叶うんだ。そう思うと嬉しいけど、やっぱり緊張する。
「おーい!そろそろやろうぜ!」
カエデがそう呼んでくれる。私がその方向に行こうとすると、フウくんは私の手を握った。
「フウくん?」
振り返るとそこには不安そうな顔をしたフウくんがいた。
「サクラ、その、記憶を取り戻す前に、これだけ伝えたいんだけど…。」
フウくんはそう言って目を伏せる。それから少しして、目を開けると私を真っ直ぐ見て言った。
「俺は、俺たちは何があっても、サクラの味方だからね。」
「…うん。分かってるよ。」
フウくんの言葉に私はそう返す。カエデたちが待ってるのは知ってるけど、私も、フウくんを真っ直ぐ見た。握られた手を放さず、握り返して。
「取り戻した記憶がどんなものだったとしても、今まで護ってくれたのはフウくんたちだし、昔の私がどう思ってたか知らないし、昔のフウくんたちがどんな人かは分からない。でも、それは『昔』であって『今』じゃないから。」
私がそう言うと、フウくんは少し目を見開いて私を見てた。
「だから、きっと、『今』の私は『今』のフウくんたちを嫌いにはならないよ。」
そして、握った手を引く。いつも引かれてばっかりのその手を今度は私が。
「だから、行こう。」
「…うん、そうだね。」
フウくんはそう言って笑う。その笑顔を見て、私も少しだけ、笑顔になれた気がした。
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