第7話~空の祈り~
「そう、もう気付かれてしまったのね…。」
艦長室に行って今日起こったことをワタルくんが話すとアリスさんはそう言った。
「あの世界で生活するのは限界かしら。でも、学校もあるしね?」
「あ、そのことなんですけど、この前担任に電話したところ、保護者がいないと学校への通学は認められないとのことで…夏休み中で退学になるそうです。」
そう、私の通っていた高校は学費が高くて、とてもアルバイトでは通えない。親がいないということは学費を払う能力がないということになる。だから、退学だと言われた。正直、あの学校で学ぶことも多くはなかったから、私としては問題ない。中の良い友達とかもいなかったし…。
「あら、そうだったの…。」
少し暗くなってしまった雰囲気を、明るくするために私は無理に笑った。
「明日、学校に行って書類に署名だけしてきます。」
「…わかったわ。」
そう言ってアリスさんも少し笑った。
「ところで、バドは大丈夫ですか?」
ワタルくんがそう言うとアリスさんはしっかり頷いた。
「ええ、外傷はひどかったけど命に別状はないそうよ。今日中には動けるようになるだろうって。」
「そうですか、それならよかった。」
ワタルくんはそう言って小さく笑う。そんな反応を見てアリスさんも心配そうに眉をひそめた。
「…こんな状況だし、話は明日、そらさんが帰ってきてからにしましょう。」
「そうですね。分かりました。」
ワタルくんがそう言うと、私は艦内の宿泊施設に案内された。正直、一人では怖いけれど、家に戻るよりも安心だからちょっとホッとした。
夕飯までの間、特にやることもないから、何となく、ただ何となく今日あったことを書き出してみた。丁度ポケットの中に買い物メモ用の紙とペンが入ってたからそれを使った。現実的に考えてありえないことだからか、自然と物語口調になる。
しばらく書いていると不意に、コンコンっとノックの音が聞こえて、ビクッとなる。恐る恐るドアを開けるとワタルくんがいた。
「そろそろ夕飯だけど、大丈夫?食堂が嫌なら、持ってくるけど?」
私の様子を見てワタルくんはそう言った。もうそんな時間なんだと少しびっくりする。
「う、ううん、大丈夫。…ワタルくんは、どっちで食べるの?」
「俺も食堂で食べるよ。そらも、そっちのほうが安心でしょ?」
「うん、ありがと。」
私がそう言うと、ワタルくんは優しく笑った。
「じゃあ行こうか。早くしないとなくなっちゃう。」
「うん!」
食堂まで二人で話しながら言ったらあっという間だった。ワタルくんにお勧めを聞いて、それを受け取って席を探してると、バドさんを見つけた。バドさんは丁度3人掛けのテーブルに一人で座っていた。
「バド!」
ワタルくんも見つけて、二人で近くに行った。
「おお、二人とも!…なんか、俺より元気そう?」
「あったりまえだろ!お前が一番ひどいけが負ってたんだし。」
そう冗談を言うバドさんにワタルくんが突っ込む。
「でも、元気そうでよかった。」
私がそう言うと、バドさんは照れ笑いを浮かべた。
「あれ、バド、飯は?」
ご飯を持ってないバドさんを見てワタルくんがそう聞くとバドさんは腕を組んだ。
「いやあ、もらい方がわからん。」
そう言われて、ワタルくんが力が抜けた真似をした。さっきまで、緊迫してたけど、これが私たちの日常で、こっそり安心する。
「ただメニュー言えばもらえるから。」
「マジかよ!それを早く行ってくれ!ちょっともらってくるから食べるの待ってろよ!」
「へいへい。」
「いってらっしゃい。」
バドさんが行くと私たちは席に着いた。すると、隣でワタルくんが小さくため息を吐いた。ちらっと見ると安心したように笑ってる。やっぱり心配だったんだ。そう思って私も自然と笑う。そんな私に気づいたのか、ワタルくんは私を見ると、その手をポンと私の頭にのせた。
しばらくして、バドさんが帰ってくると私たちは食べ始めた。明日の予定を二人と確認して、その後はいつも通り、他愛のない話で、三人だけで盛り上がった。
『こんな時間がいつまでも続きますように』なんて、お母さまが亡くなってからは信じていなかった神様に、二人に気づかれないように、静かに祈りをささげてしまうくらい、この時間が大切だった。
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