第8話~平穏の終わり~

 そして、そんな日々はあっさりと崩れ去った。

「…ら…そら…そら!」

 夜中、誰かに呼ばれて目を覚ますと、ワタルくんと私に背を向けて剣を構えるバドさんがいた。

「ど、どうしたの!?何があったの!?」

 私が聞くとワタルくんは私の肩を持った。

「落ち着いて、とりあえずここから逃げないと…。」

「おい!来るぞ!」

 焦っているワタルくんにバドさんがそう叫ぶ。その声に入り口の方を見ると、お父様がいた。

「…うそ!」

 悪い夢だと思った。いや、思いたかった。なんで第五艦にお父様がいるの?どうやってここまで…。

「おい、ワタル!ここはなんとかするからそらと一緒に逃げろ!」

「分かった!…そら、立てる?」

 そう聞かれたけど、反応出来なかった。お父様がいることにパニックを起こして、ただ震えるしかなかった。そんな私を見て立てないと判断したワタルくんは、私を抱き上げて走り出した。バドさんが思いっきりお父様を吹っ飛ばして道を作ってくれる。その間をワタルくんが全力で駆け抜ける。私は怖くてワタルくんにしがみつく事しか出来なかった。

 でも、それが一番いけなかった。

「待ちなさい!」

 その声に続く銃声。そして、ワタルくんが倒れた。

「…くっ!」

「…っ、ワタルくん!」

 腕から抜けて抱きかかえるとワタルくんはグッタリしていた。返事はなく、呼吸も荒く小さかった。抱き上げようとしたら手にべったり血がついてきた。

「ワタル!」

 いつの間にかバドさんが私達をかばって前に立っていた。でも、お父様たちはすぐそばまで来てて怖かった。私はワタルくんをかばうように抱きかかえるしかできなかった。

『そら姫、こっちを、見て。』

 その時、声がした。後ろから優しく私を呼ぶ声。振り返るとそこにはきれいな女の人が立っていた。

「…あなた、は?」

 そう聞いても返事はない。代わりにその人は手を出して何か言った。足元に魔法陣が現れ、私の意識は次第に遠のいていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る