第4話~新たな仲間~

 次の朝、食堂に行くと、もうワタルくんが席に座ってた。

「あ、おはよう、そら。」

 昨日の事がなかったように、ワタルくんは自然に挨拶してくれる。それがすごく嬉しかった。

「おはよう。昨日はありがとう。」

 私も、お礼を言ってから席に着こうとしる。いつもの日常が始まろうとしていた。 

 その時だった。


 バーン!


 二階から、何かが破裂するような音が聞こえた。

「な、なに!」

「銃声だ!」

 私は、そう言われてふとおじ様と佐藤さんがいないことに気付いた。

「おじ様と、佐藤さんがいない!!」

「まさか!!」

 私がそう言うと、ワタルくんは食堂を飛び出した。私も後を追う。

 おじ様の部屋は戸が開いていた。

「おじ様!」 

 中には、倒れるおじ様と、…銃を持った佐藤さんがいた。

 この時点で、おじ様に息がないことは、私にも分かった。それでも、私は部屋に入ろうとした。おじ様を助けるために。でもワタルくんの手が私がそれを止めた。

「あなた、東呉さんに仕えていましたよね?なぜ?」

 ワタルくんは冷静にそう言った。

「仕えていた?まあ、そうですね。でも、それは嘘。全てはヒンメロ・アンジェロ姫の力をあの方にお渡しするため。そして私が本当に仕えているのは…。」

 そこまで言うと、佐藤さんは後ろを見た。そこでようやく、もう一人いることに気付いた。

 その人が、ゆっくり出て来た時、私は今までにないくらいの恐怖を感じた。

「…おとう、さま…」

 出て来たのはお父様だった。

「そう、私が本当に仕えているのは、西呉様。」

「久しいな、そら。」

 足の力が抜てへたり込んでしまった。その声に、答えることなく震えていると、ワタルくんが私の前に立って、私を隠してくれた。

「ワタル、くん…。」

「大丈夫。約束したでしょ?守るって。」

 小さな声でそう言うワタルくん。

 それを見て、佐藤さんは笑った。

「あはは!出来るならやってみな!」

 そう言って、佐藤さんが引き金を引く。すると、ワタルくんは、私を抱きかかえて弾をよけた。そのまま、窓に向かって走り出す。え?

「わ、ワタルくん?なんで窓?」

「玄関まで行ったら追いつかれる。すぐそこの窓がいい。掴まってて!」

 そう言うと同時に私達は窓を破って外に出た。着地に衝撃はほとんどなかった。

「このまま離れるよ!」 


 そして、図書館の前にある、小さな広場まで行くとワタルくんは私をベンチに座らせた。

「大丈夫?」

 ワタルくんは、隣に座りながらそう聞いてきた。

「うん、ありがとう。」

 私がそう言うと、ワタルくんはホッとしたように笑った。

 でも、すぐに怖い顔をして、広場の入り口を見た。そこには、もう見慣れてしまった顔がいた。

「バド・ケッタ。」

 ただ、今日は少し様子が違った。

「…三波西呉が、三波東呉を殺したね?」

「え?」

「なぜ、それを?」

 私達がそう聞くと、バドさんは目を閉じて「全部、話すよ。」と言った。

「だから、俺をMAEに連れて行ってくれ。」

「俺たちの艦に…。」

 ワタルくんは、そう言って悩んでしまった。でも、私は…。

「…全部、話して欲しい…。」

「そら…。」

 だって、お父様や佐藤さんの事、訳が分からないんだもん。

「…そうだよね、そりゃ聞きたいよね。待ってて、艦長に相談してみる。」

「ワタルくん、いいの?」

 だって、これは私のただのわがままで、本当はいけない事のはず。なのに…。

「だって、話、聞きたいでしょ?」

 そう、ふんわり笑うと、ワタルくんは「電話してくるね。」と言って席を外した。

「いい奴、なんだ。」

 ワタルくんが行くと、バドさんはそう言った。

「はい、とってもいい人なんです。」

「そっか。」

 バドさんは優しく笑った。

 

 ワタルくんは、帰ってくると、笑って「大丈夫だって」と言った。

「ただ、バド・ケッタさん。あなたには、魔法制御装置を着けていただきます。よろしいでしょうか?」

「いいよ。どこに着けるの?まさか手錠型?」

「いえ、キーホルダーです。ベルトにでも着けて下さい。」

 そう言って、ワタルくんはバドさんにキーホルダーを渡した。

「ふーん、楽でいいね。」

 バドさんも、それを着ける。 

「俺も、そう思います。」

 ワタルくんは、そう答えてから、呪文を唱えた。もう何度も聞いた、呪文を。


 艦に着くと、艦長さんがすぐ応接室に案内してくれた。

「さあ、とりあえず、今日あったことを説明して頂戴。」

「分かりました。」

 ワタルくんが何があったかを艦長さんに説明してくれた。

「なるほど、今回の三波東呉殺害の主犯は三波西呉…そらさんの行方不明だったお父様なのね?」

「はい。」

 全てワタルくんが説明し終えると、アリスさんはそう言って確認した。私は、いまだに抱いている恐怖を押し込んで答えた。

「間違いないと思います。確かに『久しいな、そら』と言われましたから。」

「そう。怖かったわね。」

 そう言って眉を顰めるアリスさんに首を振った。

「まだ、きっと会うでしょうから。」

 そう、怖がってるわけにはいかない。きっとこれからも会う。今から、怖がってたらいざというときに動けなくなる。

「そうね。」

 アリスさんはそう言って少し目をつむってから、バドさんを見た。

「で、なんで最初の襲撃犯が、なんでここに来ることを望んだのかしら?捕まって牢屋に入りたい?」

「な、何でそうなるの!もう、MEAって結構乱暴だな~。」

 バドさんはそう、大げさにリアクションした。

「いいから、早く話しなさい。」

「はいはい。」

 そう言ってバドさんが話し始めた。

「これは、俺の一族、ケッタの一族に古くから伝わる話。昔々、強い魔法を持ったお姫様がアンジェロ王国から一人いなくなった時の話。」

「…っ!それって!」

 私が反応すると、バドさんはニヤリと笑った。

「そら姫は、知っているね。」

「はい。おばあちゃんから、他の人には内緒と言われていました。」

「そっか。まあでも、話させてね。お姫様は、国を出る前にケッタの一族にいた、いずれ婚約者となる男にこう言いました。…そら姫、分かる?」

 急に振られたけれど、すぐ答えられた。おばあちゃんに教えてもらった本当の話。きっと、おじ様も知らない話。

「『私は、この国から出ます。あなた方には申し訳ないのですが…。でも、親の勝手で愛する方と結ばれないのであれば、結ばれる日が来るまで身を隠します。…いつしか、巨大な闇が現れるでしょう。その時ケッタの一族には、真実を語る者として、私の子孫を守ってもらいたいのです。勝手なお願いですが、お願いします。』と。」

 すらすらと言う私をワタルくんは驚いてみていた。

「よく言えたね。ありがとう。続けるね。」

 そう言って、バドさんは続ける。

「お姫様はそう言い残して、国を去りました。彼女が去ってから、国は大混乱を極めましたが、長い期間を経て今では落ち着いた国となりました。…これが、アンジェロ王国の消えた姫の真相。」

「…それと、今回の三波東呉さん殺害と、どう関係が?」

 話し終わったバドさんにワタルくんはそう言った。

「…なぜ、お姫様は国を出たと思う?」

 バドさんはそうワタルくんに聞いた。

「え?それは、さっき言ったように愛する人結ばれないから。」

「もちろんそれもあるけど、実はもう一つあるんだ。これは、ケッタの一族にしか伝わっていないこと。」

 そう言うと、バドさんは私を見た。

「姫も多分わからないよね?」

「…はい、分からないです…。」 

 私がそう言うと、「じゃ、答えね。」と言った。

「その国王の弟に、殺されかけたんだ。」

「弟?」

「ああ、弟に一度、ね。」

「私と、同じ…。」

 私がそう言うと、ワタルくんとアリスさんは息を呑んだ。バドさんは「だよね。」と言った。

「だから、分かったんだ。西呉が現れたって。ついに、ケッタの一族の使命が果たされるって。」

 そこまで言うと、バドさんは私の前にひざまずいて、指輪のはまる私の右手をとった。

 ワタルくんが迷わず剣を持とうとするのを私は制した。だって、初めての時みたいに指輪は光らない。怖くもない。だから、私はバドさんを真っ直ぐ見て待った。そして、バドさんは言った。

「古の誓いより、我は真実を語る者としての役目を果たした。これより我は、姫を守る者としての役目を果たしたい。姫よ、これまでの無礼を許し、我にその役目を下さるか?」

 その言葉はとても優しくて、そして、誠実に感じた。

「もちろん。役目を果たしていただき、ありがとうございました。これから、よろしくお願いします。」

 私がそう言うと、バドさんはホッとしたように息を吐いた。そして、私から手を放して立ち上がると笑って言った。

「じゃあこれからよろしくね、そら姫。」

「はい、よろしくお願いします。あと、姫なんて呼ばないで下さい。恥ずかしいので。」

「そう?じゃ、そらでいい?」

「はい!」

 私が頷くと、ワタルくんも剣をしまって笑った。アリスさんも、少し悩んでから口を開いた。

「では、少し異例ではありますが、これより、バド・ケッタさんは、我々の協力者として、三波そらさんの護衛をお願いします。ワタルと協力しながら、よろしくお願いしますね。」

「はい。」

 こうして、私達の新しい戦いが始まろうとしていた。

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